第243話 血肉と骨肉
先に話が来ていたオリビアは、3人の推薦状を眺めていた。
「高学歴、高身長、高位、高収入……流石ですわね」
日本人女性は、
・高身長
・高収入
・高位
が、三高の特徴となっている。
因みに、日本人男性だと、
・高学歴
・高身長
・高収入
だ。
トランシルヴァニア王国版三高は、日本人の男性と女性の複合版、と言った所だろうか。
写真で見る限り、皆、美女だ。
然も、全員、180cm以上。
世界一高身長な国で知られているオランダ人女性の平均でも171cm(男性だと184cm、日本では、男性が171cm、女性は158cm *1)なので、少なくともそれより約10cm以上高い事になる。
3人が3人とも夫の好みな美顔と体躯、雰囲気なので、
ウルスラが問う。
「拒否は出来ないんですか?」
「不可能よ」
ピシャリと、オリビアは言い放つ。
「王室は冷戦期、
為政者たるドイツ系であるが、イギリス系とはこの借りがある為、極力、関係を悪化さえたくないのが本音である。
イギリス系もドイツ系のドイツ本国との関係性を利用し、貿易面や経済面で成功したい。
なので、トランシルヴァニア王国の独英関係は、その独仏関係と比べると、激しい民族対立は見受けられない。
ほぼ良好な関係と言えるだろう。
「見ても良いですか?」
「ええ」
ウルスラは、推薦状を受けとる。
「…あー」
自然に声が漏れた。
オリビアと同じ感想を抱く。
「少佐の
「ええ……」
クロフォードが、これ程の美女を集める事が出来たのは、トランシルヴァニア王国が北欧一の美女大国でもあるからだ。
国によっては、国策で美女を保護する事がある。
ベラルーシでは大統領が、
『ベラルーシには美人が沢山居る。然し私が毎日通る道の交差点にクチャクチャな顔をしたフランス人の顔が写っている。とんでもない事だ』
とし、広告の撤去を命令、更にベラルーシ国内の広告に国外女性モデルの使用を禁止に(*2)。
この他、人身売買・海外売春対策の為にベラルーシ人女性の出国を一部規制する法律が存在している(*2)。
東京五輪の際の選手の亡命で話題になった様に、ベラルーシは、欧州最後の独裁国家なので、この様な政策が可能なのだ。
ミスコンの常連国の一つとして知られるベネズエラも又、国策で美人を育成している(*3)。
・国立モデル養成学校
・国立エステ学校
・国家主催の小中学校でのミスコン開催
等が、その一例だ(*3)。
ベネズエラがこれ程美女の育成にやる気満々なのは、欧州からの観光客誘致の為(*3)である。
トランシルヴァニア王国は、そんなベネズエラに倣い、同じ様な国策を行い、ベネズエラ政府から派遣されたお雇い外国人の下で、育成中なのだ。
偶然にも両国は、石油産出国である為、高額な予算であっても問題無い。
ただ、ベネズエラは近年、
「少佐はこの事は?」
「嫌がっているわ。キーガンの攻勢でさえ、乗り気ではないんだから」
「……そうですか」
その時、ウルスラが一瞬、ニヤッとしたのをオリビアは、見逃さなかった。
「貴女もこれ以上、ライバルが増えるのは嫌?」
「……はい」
少し熟考した後、ウルスラは、首肯した。
オリビアの居る手前、認めると不敬になると思ったが、嘘の方が心証が良くない、と判断したのだろう。
「奇遇ね。
オリビアは、大きな溜息を吐いた。
王族だからこそ政略結婚が当たり前な事は、重々分かっている。
然し、自分の自由恋愛を認めてくれた王室の頼みを
「……兎にも角にも、
「は」
蝉の鳴き始める頃、女性陣同士の熱い戦いが幕を開けようとしていた。
御三家の話は、当然、北大路家の家長である皐月と、正室・司にも届いている。
「煉はモテモテね?」
「うん。そうだね」
2人の視線が怖い。
人間から所有物を奪われる事を危惧する熊の様だ。
「……あの、何?」
「「お仕置き♡」」
2人は、両側から挟み撃ち。
3人は、この晩、久々に同衾を愉しんでいるのであった。
煉の左側には、司が。
右側には、皐月が添い寝して、愛し合っている。
母娘を同時に抱く、というのは、倫理的な問題を感じるが、それでも夫婦なので問題は無い筈だ。
司、皐月の順番で煉に接吻していく。
それから、司が抱き着いた。
「たっくんがモテ過ぎて嫌」
「俺もこれ以上、娶る気は無いよ」
一部、なし崩し的な例もあったが、基本的に現状で満足している為、
司の不安を体現するかの様に、激しい雨が窓を打ち付ける。
「でも、モテるのは、事実。お母さんも惚れちゃう位だし」
「良いじゃない。正室は、貴女なんだし」
あっけらかんと言うと、司は、煉を抱き締める。
「え~。でも、私1人が良いな。やっぱり」
「それは、駄目よ。私の夫でもあるんだから」
皐月も珍しく嫉妬心を燃やす。
司の親だけあって、同じ様な感情を抱き易いのだろう。
「もし、現状が受け入れられないのであれば、直ぐに離婚する事よ。何事も早い方が、傷は浅いものだから。貴女も医療従事者なんだから、その位の事、分かっているわよね?」
「まぁ……そうだけど」
皐月は、まるで抱き枕かの如く、煉を扱う。
全身を絡ませては、「例え愛娘であっても、そんな態度ならば、このまま奪う」という強い意思が感じられる。
「煉は、世界で1人だけ。圧倒的に味を知らない人達の方が多数派なのよ? それを独占するのは、罰が当たるものよ」
「う……」
良心が痛むのか、司は、罰が悪そうな顔になった。
「煉が変わらないのが、唯一の救いよ。こうして、いつも誘ったら付き合ってくれるしね?」
煉に視線を送ると、気恥ずかしいのか彼は、目を逸らす。
「(当たり前だよ)」
「なあに?」
「何でもないよ」
耳を真っ赤にさせる煉に、皐月は、満足気でその頭を撫でる。
「有難う♡ あ・な・た♡」
今にも始まりそうな雰囲気に、司は慌てて煉に抱き着く。
「私が1番なの!」
そして、煉に濃厚な接吻を行う。
(あらら。火を着けちゃったね。ま、計画通りだけど)
内心で苦笑いすると、皐月も負けじと、煉を襲うのであった。
「「zzz……」」
母娘が寝たのを確認した後、煉は、オリビアの部屋へ移動する。
そのままそこで寝たいのが本音だが、就寝中に再び襲われる危険性がある為、ここいらで緊急避難として、オリビアの下へ亡命したのであった。
「勇者様、流石ですわね?」
「何の話だ?」
「今回も2人も討ち取ったのですから、流石ですわ」
皮肉交じりに賞賛したオリビアは、笑顔で自分の隣席を指差す。
ここに座れ、と。
「おいちゃん!」
車椅子を巧みに操り、レベッカが突っ込んできた。
煉の手前で停車すると、その胸に飛び込む。
「おいちゃん! すき♡」
「おお、俺もだよ」
その頭を撫でると、レベッカは、「ゴロゴロ」と猫の様に喉を鳴らし、甘える。
レベッカを抱っこし、オリビアの隣に座ると、
「全く、勇者様は、真面目な話でも女性を同席させるんですね?」
「真面目な話?」
鸚鵡返しで尋ねると、レベッカは、察したのかスマートフォンを取り出し、イヤホンを繋ぎ、音楽を聴きだした。
精神状態は幼子なのだが、空気は読める様だ。
それでも離れないのは、それ程、煉と一緒に居たい証拠である。
煉は苦笑いしつつ、レベッカをバックハグした。
「それで話はなんだ?」
「……はい」
呆れているが、オリビアもレベッカの行動は理解出来る為、これ以上の無理強いはしない。
頭を切り替えて、真面目な顔で告げる。
「大公御紹介の3人が、正式に来日する事がこの度、正式に決定しました」
「……」
「勇者様には、滞在中、3人を守って頂きたいのです」
「……一度に3人?」
「はい。御存知の通り、3人は、イギリス系です。テロ組織から狙われる可能性がある為、今回、勇者様が大公に指名されました」
「……俺1人じゃ3人は
煉の仕事は、オリビアの警護だ。
「はい。それは、重々、承知しています。ですので、ライカ、スヴェン、ウルスラ、キーガン、エレーナと1チーム作って頂きます」
「……キーガンと?」
キーガンは、BIG4の一角であった家柄だ。
そんな彼女が、御三家を守るのは、当然、複雑な人間関係になる事は目に見えている。
キーガンを外す事も考えるが、オリビアが「頂く」と表現した事から、恐らく、キーガンの参加も大公からの依頼なのだろう。
(……一度に解決しようって訳か?)
それが出来れば、煉も万歳だ。
無論、
私情で左右される時点で
ただ、解決したとしても嫁入り攻勢は、止まらないだろう。
クロフォードに、外堀を固められた感じだ。
「……御受け出来ますか?」
「良いけど、何で急に来日?」
「・勇者様への御挨拶
・留学先の選定
だそうです」
「……留学?」
「こちらの大学を留学先に検討しているらしいので、
「……俺目的の可能性があるんだろ?」
「はい」
「……俺が日本以外の大学に進学する可能性は考えないのかな?」
「分かりません。名目上、その様な理由にしたのかもしれませんし、万が一という事もあるでしょう」
「……ふむ」
レベッカをバックハグしつつ、煉は考える。
もし、オリビアの推理が正しければ、相当、クロフォードは、煉を重要視している様だ。
「……もしかして、大公は、俺を抑止力に利用したいと考えているのかな?」
「御三家の結束を高める為、ですか?」
イギリス系同士は、クロフォードの下で友好な関係を保っているが、老い先短い彼の後、どうなるか分からない。
チトーの様に凄惨な民族対立に発展する可能性もあり得るのだ。
それを危惧したクロフォードは、煉に自分の身代わりにさせて、血縁関係を作り、予防策を張っている―――そんな
「……それだと、最近、クロフォード大公が、終活を始められたので、説得力がありますね。後継者のショーン様も御高齢なので、賭けも含めて、勇者様を御指名したのかもしれません」
国王(或いは、女王)の在位期間が長過ぎると、その後継者である皇太子も当然、高齢化する。
その為、国王が
又、国王よりも先に皇太子が
だが、煉が指名されるのは、異例中の異例だろう。
イギリスに縁も所縁も無い彼には、非常に重荷な事だ。
「もし、その筋書きならば、俺は保守派に叩かれそうだな」
「その点に関しては、問題無いかと」
「ん?」
オリビアは。嬉しそうにしな垂れかかる。
「勇者様の前世の御先祖様は、イギリス人の貴族ではありませんか?」
「……あ」
オリビアの指摘に、煉は珍しく呆けた声を出すのであった。
[参考文献・出典]
*1:TOCANA 2015年4月26日
*2:日本テレビ『緊急!ビートたけしの独裁国家で何が悪い!』2008年9月17日
*3:LEON 2019年9月18日
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