第202話 ENVY

 日米関係は、戦後、結びつきが強い。

 初の大統領の訪日は、1974年、フォード(第38代)の時であった。

 その後、

 ・39代 1979年 1980年

 ・40代 1983年 1986年

 ・41代 1989年 1992年

 ・42代 1993年 1996年 1998年 2000年(2回)

 ・43代 2002年 2003年 2005年 2008年

 ・44代 2009年 2010年 2014年 2016年

 ・45代 2017年 2019年

 と、大統領が代わっても尚、訪日は、続いている(*1)。

 意外な事にロン・ヤス外交で有名なレーガンは、2回と少ない。

 逆に、一時期、日本政府に不信感を抱いていたオバマは、4回と多い。

 そして、2022年、カミラが訪日する。

 3年振り22回目で9人目。

 女性では初だ。

 又、就任以来、スイス、アフガニスタンに続いて3か国目になる。

 世界一忙しい癖に、決まっていた予定を解約キャンセルしての電撃訪問は、当然、世界を驚かせた。

 大統領専用機エアフォース・ワンの機内で、カミラは各国のニュースをザッピングしていた。


『―――電撃訪問は時機タイミング的に日本の改憲を直に見届ける為でしょう。

 クレムリンは念の為、沿海地方プリモーリエ沖に太平洋艦隊を集め、日米の動きに注視しています。

 大統領プリズィディエーントは、日本イポーニィが北海道に核兵器を配備した場合、北方領土に同様に核兵器を配備し、平和ミール条約の交渉を永久的に停止する事を発表しました』


『―――元々、日本リーベンの軍国主義化に反対している中南海チョンナンハイは、今回の結果次第では1972年以前の関係に戻ることも検討しており、日本人民の賢明な決断に期待しています。

 同志トンチーは―――』


 ロシアと中国が慌てふためいてこの反応だ。

 笑いが止まらない。

 前任者の時には、両国を勢いづかせたが、今回は違う。

 カミラが逆に圧倒する番だ。

「大統領、例の軍人です」

「有難う」

 報告書を受け取る。

 ———

『【北大路煉】』

 ———

 と書かれたそれは、

CIA中央情報局

FBI連邦捜査局

NSB国家公安部

NNSA国家核安全保障局

・財務省情報支援局

・国務省情報調査局

・アメリカ沿岸警備隊情報部

DIA国防情報局

NSA国家安全保障局

NGA国家地球空間情報局

NRO国家偵察局

INSCOMアメリカ陸軍情報保全コマンド

ONI海軍情報部

AFISR空軍情報・監視・偵察局

・海兵隊情報コマンド

 が、

 総力を挙げて調べ上げたものだ。

 若しかすると、煉自身より詳しいかもしれない。

 めくると、1P目から記憶転移の事が、書かれていた。

「……輪廻転生、か」

 キリスト教では、その様な概念は、聖書ではっきりと否定されている。

 ―――

『そして、一度だけ死ぬ事と、死んだ後、裁きを受ける事とが、人間に定まっている様に』(*3)

 ―――

 就任式で聖書に手を置き、誓った身としては、にわかに信じ難い。

(……国家的には、認められないわね)

 多文化主義のアメリカだが、就任式で聖書を用いる様に、国家的にキリスト教が大きく根付いている。

 歴代大統領の殆どが、プロテスタント系であり、それ以外だとカトリック系。

 非キリスト教信者は、2022年現在、1人も居ない。

 その為、輪廻転生と言った非キリスト教的思想は認められない。

「……」

 膨大な報告書を眺めつつ、考える。

 情報収集させたのは、単純な関心ではない。

 米国籍を持っている以上、如何に国策に利用出来るかだ。

 問題は調査によれば、愛国心を喪失し、米国籍を捨てたがっている事である。

 若し、それさえも失えば、アメリカとの公的な関係をも断ち切られてしまう。

(……出来れば、アフガニスタンの専門家に据えたいわ)

 2021年、米軍がアフガニスタンから撤退し、残された現地人通訳や知米派は、タリバンやISの標的になり殺害された。

 その為、アメリカでは現在、アフガニスタンに詳しい専門家が不足していた。

 北部地域を親米国にした以上、補充する必要がある。

 ノーベル平和賞受賞に箔をつける為にも、これは必要不可欠な事だ。

 補佐官に問う。

「日本政府は?」

「現在、ホテルの候補を探しています」

「断って。大使館に泊るから」

「は」

 

「パパって大統領と知り合いなの?」

「知らんよ」

 シャロンとキスをする。

 唾液が納豆のように糸を引く。

 場所は、俺の自室。

「もう寝ようよ」

「そう?」

 不満気なシャロンだが、俺の欠伸を見て、

「……分かった」

 渋々、納得した。

「関係が気になる?」

「うん。パパの愛人なんかと」

「残念ながら、俺は年上は対象外だ」

「え? じゃあ。児童性虐待者チャイルド・マレスター?」

「残念。お子様も興味無いよ」

「私に手を出している時点で、相当、ヤバいけどね?」

「分かってるよ」

 シャロンの頭を撫でつつ、眠るオリビアも抱き寄せる。 

 我ながら、ヤバい奴だ。

 妻と子供を一緒に愛したのだから。

 最近、知った事だが、このような感情を『賢者タイム』と言うらしい。

 俺の時代には無かった言葉だ。

 若妻の御蔭で何とか、若者の文化についていけている。

 前世だと、情報弱者だった事だろう。

「……勇者様」

 目を開けたオリビアが、更に密着する。

「直々に呼ばれたと言う事は、軍人としての復帰要請でしょうか?」

「かもな」

 アフガニスタンでの軍事作戦は、欧米の支援があった為、当然、アメリカの軍部も注目していた。

 それで大成功に導いた為、アメリカが俺を放置する訳が無い。

「多分、アフガニスタンの教官に据えたいのかもな」

「専門家ですから?」

「ああ」

 現地の部族や文化、言語に詳しい。

 現地人にも慕われている。

 教官役には、適任だろう。

「……その、御受けになるのですか?」

「全然」

 直ぐに否定し、オリビアの額に口付け。

「何億ドル積まれても、受けないよ」

「……」

「信じられない?」

「いえ、そういう訳ではありませんが、不安なんですわ……」

 トランシルバニア王国は、親米国だ。

 日本同様、には、頭が上がらない。

 俺がどれだけ否定しようが、圧力次第では、どうなるか分からない。

「大丈夫だよ」

 今度は、オリビアの唇にキスする。

「忠義は死んでも尽くすつもりだ」


 前世でアメリカ人、現世では、日本人。

 んで、トランシルバニア王国籍も取得している。

 スヴェンに言わせれば、俺は、イスラエル国籍も余裕らしいが。

 それはおいといて、今の所、俺の祖国は、日本だ。

 だが、トランシルバニア王国に多大な恩義を感じている。

 日本人の国民性の一つである義理堅さが原因なのだろう。

「「zzz……」」

 左右から聞こえる寝息を肴に、俺は、考える。

(……面倒臭いな)

 前世では誇りに感じていた星条旗であったが、今は1mmもそんな気持ちは無い。

 敬意は払うが、誇りが無い事を見るに、自己同一性アイデンティティーも日本人化している証拠だろう。

(嫌だなぁ)

 試験前夜の学生並に憂鬱だ。

 尿意を催し、寝室を後にする。

 廊下に出ると、隣室から同じ時機で、シーラ、スヴェン、シャルロット、ウルスラが顔を出す。

「……」

「師匠、おトイレですか?」

「旦那様、ツレションで」

「少佐は、頻尿の可能性あり」

「ウルスラ、メモるな。頻尿じゃないよ」

 疑惑を即座に否定する。

 MITトルコ国家情報機構に不必要な誤報が流布されたら、叶わん。

 あと、問題なのは、

「シャルロット、ツレションの使い方、間違ってるぞ?」

「あれ、そうなの?」

「男女では、多分、使わんはずだ」

 1万歩譲って、滅茶苦茶、仲良しな夫婦ならば、有り得るかもしれないが、少なくとも、俺の知る限り、周囲で、ツレションする男女は居ない。

「まぁまぁ」

 笑顔で、俺の手を握る。

 離れる気は無い様だ。

「……負けたよ」

「少佐に勝った♡」

 シャルロットは、嬉しそうに笑う。

(……勝てないな)

 俺は根負けし、彼女達を連れて、厠に入るのであった。


[参考文献・出典]

 *1:アメリカンセンターJAPAN

 *2:TOCANA 2014年6月9日

 *3:新約聖書 へプル人への手紙 9:27 一部改定

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