第188話 前哨地
ある研究者曰く、
『脳の一部が損傷を負うと、損傷を受けていない部分の大脳皮質が補充される。
この未損傷エリアに書き換え作業が行われる為、未活発の潜在的能力が開花する』(*1)
―――
一説によれば、人間は普段、30%の力しか発揮出来ていない、とされる(*2)。
それが、事故を契機に発揮され、特殊能力のような形になるのだろう。
レベッカは、まさにその後天性サヴァン症候群を発症していた。
拘束されたレベッカであったが、
「……」
ニヤニヤが止まらない。
その笑みは、人によっては、サイコパスに感じるだろう。
武装勢力の兵士さえビビりあがるほどだ。
「
「そうだな……う~ん」
武装勢力内部でも、レベッカの殺害に関しては未だに賛否両論だ。
レベッカを使ってトランシルバニア王国と国交を結ぶのが、武装勢力の目的である。
現時点で武装勢力が支配するアフガニスタン新政府を国として認めているのは、中国やトルコ等、限られた国のみ。
欧米や日本は、
その為、トランシルバニア王国と国交を締結すれば、欧米を分断に持ち込む事が出来る。
戦略上、レベッカは必要不可欠なのだが、医療費が
「司令官、もう欧米とは関係を絶ち、我々を理解する中国と接近を図れば良いのでは?」
「そうしたい所だが、中国も危ないんだな。これが」
「? と、言いますと?」
「あの国は、漢民族の中心の国だ。それに共産主義だから、我々の宗教を国内では、否定している。それに文化大革命も起きそうだからな」
折角、最大の支援国になりつつある中国なのだが、昨今、危険な臭いが否めない。
その最たる例が、第二の
その指摘は、中国の官製メディアでさえも報じている。
―――
『【中国、広がる「文革再来」懸念 国家主席3期目と関連か 官製メディア掲載文が発端】』(*4)
―――
これから怒涛の勢いで復活はしているものの、この時、破壊し尽くされた文化や犠牲者は、永久に戻っては来ない。
この失政さえなければ、中国は今頃、世界に冠たる国になっていたかもしれない。
文化大革命当時、中国は国内で手一杯だった為、とても国外に手を出す余裕が無かった。
若し、それが復活すれば、前回同様、アフガニスタンへの支援が困難になり、武装勢力は、窮地に陥るだろう。
その為、武装勢力は、新たな支援者を募る必要性があった。
中国を心底、信頼していない、のも理由の一つではあるが。
「
「は」
20世紀ならまだしも、今は、SNS全盛期の時代だ。
隠蔽しても、隠し通す事は難しい。
アノニマスのようなハッカー集団による攻撃で、露見する可能性も考えられる。
「我々は、変わったのだ。ナチスではない」
司令官は、自分に言い聞かせる様に、言い放つのであった。
渓谷の病院間近にまで来た俺達は早速、ナタリーと連絡を取り合う。
盗聴防止も兼ねて、暗号名での会話だ。
「こちら、ゴリアテ。
『
「今、花束を買いに行く途中だ」
俺はイヤホンで会話しつつ、韓国軍の軍服に着替えていた。
これは、韓国軍が、1990年代から2014年まで使用していた旧モデルで、陸・空軍統合戦闘服である。
言わずもがな、韓国は、武装勢力に輸出していない。
それがここで流通しているのは、除隊者が廃棄、或いは、販売したものが、中古市場で売られ、それが運び屋によって、アフガニスタンまで渡った結果と見られている(*5)。
当局の取り締まりを逃れた物が戦地で使用されている為、韓国政府も頭を抱えていることだろう。
「御姫様は?」
『
会話では、
無音で飛び、監視網さえ掻い潜るアメリカ製の優れものである。
万が一、撃墜され、回収されても、武装勢力が前年、大量のアメリカ製の武器を鹵獲している為、怪しまれる事は少ない。
無人航空機を操作しているナタリーは、ある建物に注目する。
『……』
建物の外壁に窓という窓が無い。
また、修繕もされていない。
目立たないような建物が、実は、強制収用所だったりする場合がある為、この手の建物は、スルーしてはならないのだ。
『……』
ナタリーは、無人航空機を巧みに使い、屋上を飛行。
中庭にカメラをズームさせる。
そこでは、数人集まっては、煙草を吸っていた。
イスラム教徒にとって象徴的な顎鬚を蓄えた医師と兵士達だ。
『……』
更にズームさせ、ナタリーは、MITから提供された病院に勤める医師と顔写真を照合させる。
そして、大きく息を吸って叫んだ。
『彼女を捕まえた!』
と。
直後、俺は、シャロン達に嗤った。
「
2022年4月1日午後11時半。
煉の合図の下に付近に潜入していた民族レジスタンス戦線が、攻撃を開始する。
その数、100人。
穏健派のパシュトゥン人や元米兵、
率いるのは、ルーク。
義足をカタカタと鳴らしつつ、走っている。
そして、
敵兵の血飛沫を全身に浴びたルークは、叫ぶ。
「
それが鬨の声になったのか、民族レジスタンス戦線は更に士気を上げる。
「アフガンを取り戻せ!」
「行くぞ!」
「
「財宝は目の前だ!」
武装勢力兵もまさか、北東部のパンジシール州に居る、と思っていた民族レジスタンス戦線が、カンダハルに居るとは予想もしておらず、又、休息日や深夜、と言う事もあって、反撃は遅れに遅れる。
「糞ったれ―――!」
悪態を吐いた直後に頭を撃ち抜かれる。
狙撃手は、言わずもがな、煉の妻の1人だ。
「……」
エレーナは、暗視スコープを装着し、73式大型トラックの車体の上から屋上に居る守備兵達を射殺していく。
「3時の方向、距離150m、風速2m」
「了解」
米露(エレーナは、ロシア系日本人だが)最強コンビの完成だろう。
本当は2人とも、煉と一緒に前線で働きたい所だが、適材適所。
その下ではシャルロットとシーラが無事を祈りつつ、搬送の準備をしている。
レベッカの容態が分からない為、生命維持装置の動作確認や薬、輸血の確認だ。
シャルロットは日頃、看護助手をしている為、ある程度、医学及び薬学の知識はある。
シーラも衛生兵としての訓練を受けている為、これも又、適任だろう。
「「……」」
2人はテレビ画面に映る生中継を手は動いても、目が離せない。
これは煉のヘッドカメラによるもので、彼の視線通りに動き、息遣いも画面越しで伝わって来る。
最前線で、煉はスヴェン、ウルスラと
2人は、競うように
遮蔽物から、少し頭を出しただけで、ヘッドショットを決めるのだ。
敵兵も相当、慎重に動かざるを得ないだろう。
険悪な2人だが、その息のあった動きは、アン・ボニー(1700~1782?)とメアリー・リード(1685? ~1721)を彷彿とさせる。
煉は、2人の上官であるが、2人よりも先に院内に入り、病室を一つずつ開けて、治療中の武装勢力兵達をM16で射殺していく。
勿論、武装勢力の医療従事者も同じ末路だ。
相手が正規兵ならば、国際法上、守られるべき存在だが、テロリストである以上、彼等は、何からも守られない。
彼等は、過去に戦争犯罪が確認されている。
―――
『【アフガンの村で民間人50人以上虐殺、武装勢力とテロ組織の合同勢力か】』(*6)
『【「武装勢力」が12歳の少女を性奴隷に】』(*7)
―――
そんな彼等に温情は必要無い。
どんどん血祭に挙げていく。
[参考文献・出典]
*1:WHAT'S UP!!【時事ネタ】 HP 2018年7月14日 精神科医のダロルド・トレファート博士
*2:『北斗の拳』
*3:JIJI.COM 2021年9月6日 一部改定
*4:WOW! Korea 2021年9月6日
*5:AFP 2017年8月7日
*6:スプートニク 日本語版 2021年8月13日
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます