第147話 愛と平和
『三島会は、三島由紀夫研究会から、彼の思想を曲解し、自分のイデオロギーに利用しているようです』
「……分かった」
村上と別れた後、俺は、ナタリーに三島会について徹底的に調べさせた。
三島由紀夫は、純粋に愛国心からあのような行動に至った訳だが、村上のは、どうしてもイデオロギー感が否めなかったからだ。
ナタリーは、続ける。
『元盾の会のメンバーからは、絶縁処分を受けた者も中には居るようです。又、元々、純粋に研究していた文系の方々も追放や自主退会等で1人も残っていません』
「……」
要は、後から来た新参者に組織を乗っ取られた、という訳だ。
泡沫政党であった
「村上は、どんな男なんだ?」
『地味な男です。過去、一切、問題行動が確認されていません』
「ふむ……」
俺はしな垂れかかっているシャルロットの頭を撫でつつ、考え込む。
仕事中、愛人と愉しむのは、倫理的に問題ではあるものの、皐月から「極力、シャルロットと居るように」と釘を刺されている為、このような状況になっているのだ。
この点については、俺は二流である。
一流ならこんなことはしない。
当然、潔癖症のナタリーは、ずーっと、額に青筋を浮かべている。
内心、ブチ切れてるね。
あー、怖い。
「公安は知っているのか?」
『探りを入れているようですが、保全隊が防諜に努めている為、中々、分からないようです』
まぁ、そうだろうな。
組織が違う為、足並みが揃う事は難しい。
典型的な
「一応、今回の件は、公安に報告を」
『? 情報提供なさるんですか?』
「そうだよ。
『……』
「そんな顔をするな。美人が台無しだぞ?」
『セクハラですよ?』
「済まん」
少し言い過ぎた、と俺は反省する。
『命令は以上ですか?』
「ああ。有難う。休んでくれ」
『……は』
先程の冗談に怒りが収まっていない様子で、ナタリーは、顔を真っ赤にして退室した。
「やべな。怒らしたぜ」
「貴方はそう思うの?」
「ん? 違うの?」
「本当、凄腕の癖に女心は、全然なのね?」
「何の話だ?」
「別にぃ~」
意味深に
(本当、最低!)
自室に帰った私は、激しく扉を閉めた。
そして、ゴミ箱を蹴飛ばす。
他人が見ればドン引きするだろう。
でも、これが私の本性だ。
人間には、必ず表と裏がある。
アメリカで今尚、人気が高いJFKでも、プライベートでは女癖が激しかった。
公民権運動で活躍したキング牧師も、その荒々しい女性関係をFBIに知られ、
・引退
・自殺
の2択を迫られている(*1)。
1979年のノーベル平和賞受賞者のマザー・テレサも様々な批判が絶えない。
世の中に表も裏も潔癖な人間は、早々居ない証左だろう。
それは分かっているし、煉が妻帯者の癖に色々な女性を無自覚に口説き落としているのも理解している。
それでも、やっぱりあの発言には、私のレッド・ラインを越えた。
妻帯者の癖に、私を口説こうとしたのだ。
勿論、悪意が無いのは、分かっているし、嬉しい。
それでも、あれほど簡単に且つ自然に発せられたのは、日常的に使用している証拠と言えよう。
無自覚だからこそ、出来るのも更に怒りを増大させる。
「
煉を模した人形をサンドバックにする。
情報将校だが、シーラと違い、鍛えているので、パンチ力があった。
人形は、絞首刑に遭った死刑囚の如く、前後左右に大きく揺れる。
ライカ等、ボーイッシュな女性も好む煉の事だ。
鍛えたら、ワンチャンスあるかもしれない。
「ふー! ふー!」
荒い呼吸で殴りまくる。
拳が赤く腫れ、出血しても続ける。
痛覚は無い。
逆にあるのは、嬉しさだ。
(若し、結婚出来たらぶっ殺してやる)
歪んだ愛が、そこにはあった。
令和4(2022)年2月14日月曜日。
所謂、バレンタインデーの日である。
「はい、たっ君♡」
「勇者様♡」
「パパ♡」
「少佐♡」
「貴方♡」
「煉♡」
「教官♡」
「師匠♡」
「……♡」
それぞれ、司、オリビア、シャロン、エレーナ、シャルロット、皐月、ライカ、スヴェン、シーラの順に貰う。
前者8人からは、本命。
シーラは、義妹なので義理チョコだ。
全員が作ったのは、板チョコであった。
合わせて9枚。
人間の致死量は、体質等で断言出来ないが、一般的には、90枚だとされている(*2)。
計算上、この10倍食べると死ぬ事になる。
ナタリーから貰った?
既製品の板チョコの食べ残しをくれたよ。
知ってるか?
上官が部下にそんなことをしたら、パワハラだけど、その逆は無罪なんだぜ。
酷い話だよな。
「皆、有難う。これ、手作り?」
「そうだよ」
代表して、司が答える。
「たっ君の為に、
・林檎(*3)
・
・
・
・胡椒(*4)
・朝鮮朝顔(*4)
を混ぜてみた♡」
「……ああ」
調味料が全部、媚薬な件。
完全に妊娠する気満々ですやん。
まぁ、良いけどさ。
「食べて食べて♡」
せがまれて、一口齧る。
「どう?」
「うん、美味しいよ」
御免、嘘です。
微妙な味です。
百歩譲って林檎は妥協出来るが、それ以外のは、チョコレートに不適当に思える。
だけれども、想いは伝わったので、不味くても気を遣ってしまう。
「パパ、パパ♡」
「うん?」
「食・べ・て♡」
妖艶に誘うシャロン。
その首筋には、溶けた板チョコが。
「こら、食べ物を無駄にするな」
「そうじゃなくて」
シャロンは、スマホを見せた。
「ほら」
「これかよ……」
画面に映るは、女体盛り。
何処かの映画の1場面なのか、白人女性が船盛の上に仰向けで、大事な所には、刺身が載せられている。
「……シャロン―――」
「パパにしかやらないよ? こんな事♡」
「……今回だけだぞ?」
「うん♡ パパ、大好き♡」
「俺もだよ」
クールに返し、俺は、首筋に吸い付く。
ドラキュラのように。
「あ♡」
甘い声が漏れた後、シャロンは、俺を抱き締めた。
「パパ♡」
「ああ、美味しいよ」
流石、愛娘だけあって、俺の嗜好をよく熟知している。
シャロンに抱擁されたまま、俺は、オリビア達の手作りチョコを
全員分のを食べた後、俺はオリビアに個人的に呼ばれた。
話の内容が、俺のトランシルバニア王国に関する住居についてだった為、全員興味津々という訳である。
「勇者様の御住まいの清掃が終わりました。後は、勇者様の時機次第で御入居出来ます」
「有難い話だ」
本宅はこの家なので、城は別荘になるだろう。
「いつ、行ける?」
皐月が、俺の頭に顎を載せたまま尋ねた。
何故この姿勢かって?
皐月が、甘えん坊だからだよ。
オリビアの部屋に向かう俺を捕まえて、そのまま羽交い絞め。
ん、この状況だ。
恐らく、今晩は、皐月と同衾する事になるだろう。
「行くなら、母さん―――」
ギロリ。
「……皐月の休みに合わせるよ」
皐月は、最近、「母さん」と呼ぶと露骨に不機嫌になる。
事実婚なので、年上感があるのは、嫌なのだろう。
「じゃあ……
「良いけど、早めが良いな。たっ君との愛の巣、早く見たい」
皐月も目を輝かせて、俺の手を握る。
「私も」
逆側は、シャルロットが。
これで文字通り、
「シーラ」
「……」
俺の意思を汲み取ったシーラは、直ぐにスマートフォンを開いてみせる。
皐月に拘束され、司とシャルロットに両手の自由を奪われているのから、自分で検索は、不可能なのだ。
4月までの祝日と連休は、
・2月23日(水曜日)→天皇誕生日
・3月19~21日(土曜日~月曜日)月曜日が春分の日
とこの二つしかない。
2月23日は週の中日なので頑張れば、前日の火曜日の夕方に出発し、翌日の夜に帰れば行けなくはないが、片道10時間以上、往復約20時間を移動に費やすとなると、現地で楽しむのは、中々難しいだろう。
それに強行軍である為、疲労度や時間を気にして、思う存分、楽しめない可能性が高い。
よって、行くのならば、断然、後者一択だろう。
「3月は、どうかな?」
「学会があるからね。まぁ、調整はするよ」
「良いのか?」
「仕事より家族♡」
俺の頬を舐めては、更に強く抱き締める。
「じゃあ、ライカ」
「は」
「皐月と調整してくれ。平日でも構わん」
「え? 学校の方は?」
「レポートで済ます」
「分かりました」
城に行けるので、ライカも嬉しそうだ。
「師匠、師匠の部屋見たいです!」
「俺もだよ」
自分の家なので、自室を知らない。
全て王室が勝手に進めて事後報告だから、当然の事だろう。
俺達は、嬉々として旅行計画を進めるのであった。
[参考文献・出典]
*1:AFP 2014年11月14日
*2:GLOCAL KYOTO 2018年2月8日
*3:ジョルジュ・デュビィ他『愛とセクシュアリテの歴史』
*4:『カーマ・スートラ』
*5:ペトロニウス 『サテュリコン』
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