第146話 令和維新計画
『我々は4年待つた。
最後の1年は熱烈に待つた。
もう待てぬ。自ら冒涜する者を待つ訳には行かぬ。
然し後30分、最後の30分待たう。
共に起つて義の為に共に死ぬのだ。
日本を日本の真姿に戻して、そこで死ぬのだ。
生命尊重のみで、魂は死んでもよいのか。
生命以上の価値無くして何の軍隊だ。
今こそ我々は生命尊重以上の価値の所在を諸君の目に見せてやる。
それは自由でも民主々義でもない。
日本だ。
我々の愛する歴史と伝統の国、日本だ。
これを骨抜きにしてしまつた憲法に体をぶつけて死ぬ奴はゐないのか。
もしゐれば、今からでも共に起ち、共に死なう。
我々は至純の魂を持つ諸君が、1個の男子、真の武士として蘇へる事を熱望するあまり、この挙に出たのである』(*1)
……
陸上幕僚長・村上は、この三島由紀夫の檄文に触発されていた。
「頼みの綱は、駄目でしたね」
部下が溜息を吐く。
日本では、テロの鎮圧を。
トランシルバニア王国では、政変を食い止めた実績は、自衛隊でも有名だ。
だからこそ、勧誘したのである。
「まぁ、良い。それで決行日は、決まったか?」
「はい。26日土曜日です」
「86年振りの夢だな」
「そうですね」
86年前の2月26日。
青年将校達が、命を賭して挙兵したが、夢破れた。
三島会は、その夢を追い求めていた。
核実験が成功し、事実上の核保有国になった日本の政権を奪い、軍事政権を樹立。
そのまま日米同盟を破棄し、真の独立を果たす、というのが計画の詳細だ。
今まで、核保有国は大規模な攻撃を受けていない。
三島会は、それに注目し、核抑止論で国を守る事を目指していた。
(少佐の協力があれば、アメリカやロシアとの窓口にも成り得たんだが……仕方ない)
協力者が得られなかったのは、短所だが、目標の為には、自分達だけでも良いから行わくてはならない。
「目標は?」
「・官邸
・財務大臣
・宮内庁長官
・文部科学大臣
・総務大臣
の各私邸と警視庁です」
「よし、シミュレーションを怠るな」
「は」
平成では起こらなかった二二六事件が、令和の時代に起きようとしていた。
[参考文献・出典]
*1:三島森田事務所刊『「楯の会」のこと』 産経新聞 2015年11月22日
一部改定
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます