第76話 命中

 夕方。

 目一杯遊んだ煉達は、チェックイン後は倒れる様に寝ていた。

 婚約が決まった煉と司、オリビアは同部屋。

 残りのメンバーは、隣室だ。

「……」

 午後11時。

 皆が寝静まった中、シーラは1人、起きていた。

 あれ程、想いを断ち切ろうと頑張ったのだが、結局出来なかった。

 煉が優しいからだ。

 よくよく考えたら、万が一、嫌われた場合、シーラは路頭に迷う。

 チームを辞職して新たに職探しても、失敗が多い彼女を好き好んで雇う場所があるだろうか。

 あっても障碍者雇用位だろう。

 然し、一般的よりも賃金が安い。

 それでギリギリの生活だ。

 だったら国家公務員として、高給な今の地位の方が、まだ良い。

 結局、シーラは一時の感情より、現実を選んだのだ。

 その結果、諦めていた想いが再発したのである。

 否、昔以上に強いのかもしれない。

 それは、夜になると強まっていく。

 そっと、ベッドを抜け出す。

 煉に逢いに。


 暗証番号を押して、入る。

 真っ先にベッドへ。

 シングルベッドに3人が眠っている、と思ったが。

(……あれ?)

 お目当ての煉は居ない。

 寝ているのは、司とオリビアだけ。

「?」

 首を傾げていると、

「師匠は、居ないわ」

「!」

 振り返る隙も与えられない。

 背後を取られ、シーラはUZIを首筋に突き付けられていた。

 引き金に指が掛けられている。

 シーラ次第では、直ぐに発砲出来る様だ。

「師匠に何の用?」

「……」

「ああ、そうだったね」

 殺気を鎮めて、スヴェンはウージーをしまう。

 本当に下に見ているのだろう。

 警戒していれば通常、こんな危険な事は、彼女程の工作員はまずしない。

「師匠に逢いたいの?」

「……」

 こくり。

「……じゃあ、一緒に来る?」

「!」

「勘違いしないで。私は、師匠の命令を聞いているだけだから。貴女で2人目よ。夜這いに来たのは」

(……2人目?)

 気にはなるが、スヴェンは、

「ついてきなさい」

 と、先導する。

「?」

 シーラは、頭上に「?」を沢山浮上させつつ、追いかけるのであった。


 ホテルの喫煙室に煉は居た。

 ナタリーと一緒に。

「又、連れて来たのか?」

「はい」

 スヴェンが、シーラを引き渡す。

「ちゃんと、部屋、閉めて来たよな?」

「勿論であります。フロアごと、親衛隊が貸切っています故」

「そうだったな」

 煉は、電子煙草を置く。

「……」

 一切、喫煙者感が無かった為、シーラは驚きの余り、固まっていた。

『バレたね?』

「そうだな」

 凄い大人っぽい雰囲気だ。

「師匠が未だに喫煙者とは信じられません」

「年に2~3回位しか吸わないからな」

「……」

 シーラは、改めて、煉の体臭を嗅ぐ。

 煙草のそれは一切しない。

 これだと、司達も気付いていないかもしれない。

「前世では結構、吸っていましたよね?」

「そうだな。ヘビースモーカーだったな。癌にならなかったのは、奇跡だと思うよ」

 それから煉は、シーラを抱っこした。

 この距離でも煙草臭さは無い。

 無味無臭だ。

「?」

「ああ、俺はね。特殊な体質な様で、煙草を吸っても臭いは出難いらしんだよ」

「!」

『それ、本当なの?』

 ナタリーは、身を乗り出した。

「そうだよ。前世の入隊試験の時の健康診断でも、今の健康診断でもそう言われたし。まぁ、だからといって癌にならない訳にはないだろうが」

 喫煙者からすると、何とも羨ましい話だろう。

「昔は、1日1箱くらいは吸っていたけど、今は、医者の息子だからな。やっぱり、気にはなるわな」

 この御辞世、日本での喫煙者は少なくっている。

 昭和の時代ならば、国会でも普通に国会議員が吸っていたし、教室でも教員が平然と吸っていた。

 まぁ、昔だからこそ、色々緩かったのだろう。

 逆に、その頃生きていた人々からすれば、現代は生き辛い世の中、と感じている場合が多いかもしれない。

 北大路病院でも禁煙外来があり、ニコチン依存症の人々が足繁く通っている。

 そんな世の中なので、喫煙者は煉の様に周囲に気を遣い、肩身の狭い思いをしているのであった。

「……」

「吸うな? まぁ、そうだな。やっぱり、吸わない方が良いよな」

 煉自身、前世では1日1箱前後吸っていたのだから、現世では1年間に2、3本とは相当抑えている事は分かる。

 それでも、煙草は百害あって一利なし。

 シーラは腰に手を当てて、怒ったポーズ。

「分かったよ。止める」

 簡単に決断すると、煉は持っていた煙草の箱をゴミ箱に放り入れた。

『やけに素直ね?』

「可愛い妹には、嫌われたくないからな」

「……」

 煉の頭をシーラは、撫でる。

 血の繋がった妹が、兄にこんな事はしないだろう。

 義理だからこそ出来る、とも言える。

「……」

「秘書官は体調管理も見る? 良い心がけだ。じゃあ、頼もうかな?」

 むっふ、とシーラは鼻息を荒くする。

「師匠、二等兵に甘いですね?」

「可愛いからな。可愛いは、正義だ」

「私は?」

「痴女に用は無い」

「ぴえん」

 (´;ω;`)

 泣き顔を披露するが、煉はことごとく辛辣だ。

 シーラを抱っこし、口寂しいのか、飴を舐める。

『ロリコン』

 ナタリーがそんな事を言うが、煉は気にしない。

 シーラが船を漕ぎ出すまで、ずーっと、頭を撫でるのであった。


 2日目の土曜日。

 今日は1日中、遊ぶ予定だ。

 昨夕は、散々遊んだので、今日はゆったり目で、楽しむ。

 まずは、コーヒーカップだ。

「ほえ~。初めて見まわしたわ。カップが周っているなんて」

「オリビアちゃん、三半規管強い?」

「恐らく」

「じゃあ、たっ君、あれ行こう」

「はいよ」

 俺達は、カップに入る。

『今日は、カップル・デイです! カップルの皆様、リア充爆発して下さい! (後、ハーレム野郎は死ね)』

 おいおい、本音駄々洩れやで。

 訴えたら勝てるかしら。

 そんな事を思っていると、カップが周り出す。

 余りにもゆっくりなので、ルームランナーの最初を連想しちゃったゼ☆。

「ほぇ~」

 アニメの様に、オリビアは両目を回す。

「向こうには、無いのか?」

「あるのは、あるのですが、私は幽閉期間が長く、遊んだ事が無いんですわ」

「「……」」

 突如、明かされる暗い過去。

 立場が立場なだけに、王族でありながら遊ぶも許されないとは、酷い話だな。

 まるで鉄仮面の男みたいだぜ。

 司は、オリビアの手を握った。

「じゃあ、目一杯遊びましょ?」

「良いんですの?」

「良いんだよ。吐瀉物は、たっ君が片付けるし」

「おい、俺の人権は?」

 人権侵害は甚だしいが、兎にも角にも2人の仲が良いのは良い事だ。

 ちらりと、他のカップを見る。

 近くでは、

・皐月

・ナタリー

・シャロン

 のカップが回っている。

 皐月は、職業病なのか、体調不良になった客が居ないか如何か、周りを観察中。

 ナタリーは、乗っている癖に興味無いのか、スマートフォンをいじり中。

 シャロンは、俺を撮影中だ。

 全然、楽しんでないな。

 もう一組、

・ライカ

・スヴェン

・シーラ

 の3人組は、というと。

 ライカは、

「あわわわわ」

 とオリビア以上に目を回し、今にも吐きそうだ。

 何こいつ、軍人の癖にこんなにも乗れないの?

 スヴェンは、俺同様慣れているのか、吐きそうな様子は無い。

「……」

 余裕綽々に紅茶を嗜みんでいる。

 凄いな。

 体幹がしっかりしているのだろう。

 イケメンも相俟あいまって、近くの女性達の視線を一身に浴びている。

 中には、嫉妬で怒った彼氏が出て行く有様も。

 やべぇな。

 ほんま、貴公子なんだな。

 他人様のカップルを別れさせるなんて相当な事やで。

 俺と目が合うと、投げキッス。

 当然、その視線は、俺に向く。

「(何あの犯罪者。あの貴公子と出来ているの?)」

「(通報案件じゃない? 誑かしている証拠よ)」

「(2人も女性を侍らせて男にもイケるたちなの? あの貴公子位譲りなさいよ。ボケが)」

 ええ……。

 俺、悪いの?

 最後の奴なんか、口悪すぎじゃね?

『バーカ』

 ナタリーめ。

 状況に乗じやがって。

 解任してやろうかな。

 カップはどんどん、早くなっていく。

 主に、俺達だけのが。

「早くない?」

「故障かな?」

 詰所の操縦士を見ると、意地悪な顔でこっちを見てる。

 意図的だな。

 俺を嘔吐させて、恥をかかせ様って魂胆か。

 何とレベルの低い。

 だが、残念だったな。

 前世で、拷問対策の為に三半規管がぶっ壊れる様に、訓練を受けている俺は、酔わない。

 その為、極論、1分間に1万回位回転させられても、目が回る事は無いのだ。

 俺は、2人を抱き締める。

 安心感が得られたのか、2人は、吐き気が払拭された様で、

「たっ君♡」

「勇者様♡」

 抱き締め返す。

 公衆の面前で恥ずかしいが、2人が嘔吐するのを見られる位なら、俺が喜んで恥の対象になろう。

 2人は左右から俺の頬にキスをし、フィギュアスケート並に回転する、コーヒーカップを楽しむのであった。


 午後は、温水プールである。

 流石に司の水着を野郎共のにされては困る為、貸切だ。

 いやぁ、奮発したわ。

 代金X十万也。

 フルシチョフが、訪米した際に予定に組み込むだけあって、流石、夢の国ですわ。

 結局、彼は、行けなくて激怒していたが、若し、楽しんでいたらどんな表情を見せていたのだろうか。

 気になる所ではある。

「パパ~♡」

 おっふ。

 すげえ、ビキニ。

 いや、ジャージの下の《息子》》も反応しちゃう程の美人ですわ。

 流石、我が娘。

 シャロンは、俺にその豊満な双丘を押し付け、

「ジュース買って♡」

 これが、流行りのパパ活か(多分、違う)。

 いやぁ、男の財布の紐も緩む訳だ。

 貯金がどんどんなくなっていく。

 又、稼がないとな。

「オレンジジュース?」

「正解。パパは、林檎アップルね?」

「おいおい、俺にも選ばせてくれよ?」

「だ~め。スルタンに拒否権は無いの」

 俺、イスラム教徒だった!?

 衝撃を覚えつつも、俺は、2本買う。

 又、金が吹っ飛んだ。

 やべぇな。

 浪費家になってる?

 まぁ、娘の笑顔が買えるなら、安いもんだけどな?

 俺達はベンチに腰掛ける。

 温水プールは、ビニールハウスの様な屋根の下で泳ぐシステムだ。

 1年中、利用可能且つ、人工の波もある為、都内から多くの観光客が来る。

 外国人観光客も多いらしく、スタッフが外国語に堪能なのは、俺にも有難い。

 シャロンの他に、

・オリビア

・ライカ

・シーラ

・スヴェン

・ナタリー

 と外国人が多い為、万が一の時には、彼等に託し易い。

 まぁ、皆、日本語は問題無いレベルだし、シーラに至っては、俺が傍に居なきゃ駄目だろうが。

 そんなシーラが、とてとてと走って来た。

 何故か、スクール水着で。

「……」

「パパ、ロリコン?」

「何でだよ。吃驚して見ていただけだよ―――ぎゃあ」

 シャロンに手の甲に爪で引っ掻かれた。

 お前は、猫か。

 シーラは、俺と目が合うと、破顔一笑で更に速度を上げ、膝に飛び込んだ。

「……?」

「ああ、似合うよ。ってか、用意出来たんだ?」

『私が用意したのよ』

 ナタリーが呆れた顔で、やって来た。

『その子が「どうしても着たい」って』

「そうなんだ」

「……♡」

 俺に褒められたのが、相当、嬉しいのか、シーラは、上機嫌だ。

「♪ ♪ ♪」

 何やら鼻歌を歌い出した。

 関係上、俺達は兄妹なのだが、どうも、祖父と孫娘感が否めない。

 まぁ、良いけどね。

『よっと』

 ナタリーは右隣に座った。

 因みに左隣は、シャロンだ。

 シーラの余りの可愛さに涎を垂らして、スマートフォンで連写している。

 親族でなければ、不審者で通報しかねない勢いだ。

「……」

『何よ?』

「いや、それ、競泳水着?」

『そうよ』

 楽しんでいる雰囲気が皆無だったが、プールは好きの様だ。

 シャロンやシーラと違い、競泳水着、という所が水を愛している証拠だろう。

「泳げるの?」

『失礼ね。化物モンスターの貴方には、敵わないけれど、ドーバー海峡位が横断出来るわよ』

「それ凄くね?」

 本気出せば、俺も行けなくはないだろうが、自信は無い。

『そういう貴方は、泳がないの?』

 女性陣は水着、というのに俺は、上下ジャージだ。

 イスラム教徒の女性並に肌の露出をしていない。

「主役は、皆だからな。俺もぼちぼちだけど、泳ぐよ」

「……」

 水着見たい、とシーラがせがむ。

 シャロンも続いた。

「パパの裸、見たい♡」

「わーったよ」

 シーラを一旦、シャロンに預け、俺はその場で脱ぐ。

「わお♡」

 シャロンは声を上げ、

「……!」

 シーラは、鼻息を荒くさせ、

『……凄いわね』

 男性恐怖症のナタリーも、褒めるしかない。

 ムキムキな俺の体は、しばしば、『ギリシャ彫刻の如く美しい』と報告書に書かれる程、仕上がっている。

 ボディービルダーも目じゃないだろう。

 煉の時は、痩躯であったが、俺の意思が宿って以降は、文字通り、体も別人だ。

 最近では、傷が浮かび上がって来た。

 拷問や大きな怪我は追っていないのに、だ。

 皐月曰く、「前世の影響」との事だ。

 臓器提供者に影響される事例は、沢山ある為、驚きではない。

 世界最高の狙撃手の様に、傷だらけの肉体だが、女性の琴線に触れさせるらしく、

「パパのは、何時見ても格好良いねぇ♡」

 笑顔でシャロンは、指でなぞる。

『改めて見ると、痛々しいわね?』

「まぁ、余り見せる物じゃないしな」

 この為、俺は、極力、公共のプールには行かないし、人前で水着になる事も殆ど無い。

あっても家族の前だけだ。

 この悪人面に、この体。

 堅気が恐れるのは、当然の事だろう。

 刺青の様に、入場拒否される可能性だって十分に考えられる。

 俺が悪く言われるのは、別に構わないが、一緒に居る家族が、後ろ指を指されるのは、忍びない。

 でも、今は貸切だ。

 誰も俺達の事を白眼視する者は居ない。

「たっ君、お待たせ~♡」

「勇者様~♡」

「煉~♡ 着たわよ~♡」

 3人の美女が、登場し、俺の前に立つ。

 1人目の司は、真っ白なビキニ。

 たわわに実った二つの果実が揺れに揺れる。

 おー、すげ~。

震度5強位か?

 2人目のオリビアは、白に対抗してか、真っ赤なビキニ。

 こちらも、何が、とは言わんが、でかい。

 震度7級だろう。

 を飾った皐月は、黒ビキニ。

 こちらも言わずもがな、スタイルが良い。

 経産婦とは思えない程、モデルの様だ。

 流石、日本一の女医だ。

 今でも求婚が後を絶たないだけある。

 グラビア出たら買おうかな。

 3人よりも遥か後ろにスヴェンとライカのボーイッシュ・コンビが居る。

 ライカは恥ずかしいのか。ジャージだが、スヴェンは、乳首と陰部が隠されただけの超極細ビキニだ。

 凄いな。

 まず何処で買ったのか。

 客層は、誰なのか。

 公然猥褻が適用されないのか。

 注目以前に色々気になる所だ。

「如何?」

 皐月が、ポーズを決める。

 胸を押し上げ、意図的に谷間を作る、男性殺しの必殺技だ。

「……うん。良いです」

 何故か、敬語になる俺。

 神聖に感じ、思わず正座してしまう。

「あ、たっ君、鼻血出してる。御母さんみたいなのが、好みなの?」

、だよ」

「もう、たっ君。節操無いね。大事にしないと、後ろから刺されて、生首になるかよ?」

 手をくねくねさせる司。

 鶏肉を使って執刀の練習をしているだけあって、その手先は器用だ。

 簡単に俺の首は、胴体と外れるだろう。

「そりゃあ勘弁な? でも、1番は、司だから」

「それで良し♡」

 シーラを抱っこし、横に移動させると、司は、代わりに俺の膝に座る。

 胸と尻の弾力が凄いな。

 男が性欲に勝てない訳だ。

 司は、俺の傷を見ても、一切、気にしない。

「一緒に泳ごうよ?」

「良いよ」

「勇者様、わたくしを忘れないで下さいまし」

「分かってるよ」

 オリビアも抱き寄せて、俺は立ち上がる。

「うわ、力持ち♡」

「勇者様♡」

 2人を肩に乗せて、そのまま入水。

 体感30度位だろうか。

 俺達に続いて、皐月、スヴェンも続く。

 ナタリーとシーラも最後に入る。

 浅瀬から深い所は2m位迄あるプールに、俺達のテンションは、爆上げだ。

「凄い気持ち良いですわ。まさか10月にプールが楽しめるなんて―――きゃ」

 大波が来て、オリビアは、飲まれた。

「!」

 直ぐにライカが反応する。

 ジャージを脱ぐと、競泳水着が顔を出す。

 そして、俺の視線を無関心に、頭から飛び込み、オリビアを助けに行く。

 素晴らしい反応だ。

 オリビアを無事、救出したライカを、俺は手招き。

「少佐?」

「良い反応だ。俺よりも早いな?」

「いえいえ」

 謙遜するが、実際、ライカに俺は負けた。

 日頃から、訓練している証拠だろう。

「兎にも角にもよくやった」

「お褒め頂き有難う御座います」

「オリビアは、俺が見とくから、遊んでて良いぞ?」

「いや、然し―――」

「休暇だ」

 強い口調で言うと、ライカは、不満げだが、従う。

「……分かりました」

 そして、同じ競泳水着のナタリーと共に泳ぎ出した。

 何だかんだであいつにも、休みが必要だ。

 24時間365日、気を張る等、人間には、出来ない。

 ONとOFFのしっかり、切り替えなければいけないだろう。

「……」

 シーラがしがみついてきた。

 可愛い胸が、俺の胸板でひしゃげる。

「泳げない?」

「……」

 こくり。

「そうか。じゃあ、仕方ないな。肩車で良いか?」

「♡」

 俺に抱き着き、無許可で肩に上がる。

「あー!」

 痴女が叫ぶが、あいつより義妹の方が断然可愛いから無視。

「♡」

 シーラは。征服者の如く、優越感に浸っている。

「たっ君、そこ、狙っていたのに」

わたくしもですわ」

 左右から挟撃に遭った。

 ナチスとソ連に分割されたポーランドの様に。

「金槌らしいから仕方ないだろう? オリビアも金槌?」

「はいですわ♡」

 頷きつつ、犬掻きを止め、俺の腕の中に入る。

 犬掻きが出来る時点で金槌とは思い難いが、1人が2人になった事で別に苦ではない。

「たっ君。私も」

「はいです」

 左腕に司を迎え入れる。

 やっぱり、正妻を怒らせたら駄目ですわ。

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