第75話 新日本
令和3(2021)年10月21日木曜日。
第40回衆議院議員選挙の投開票日である。
改選数は、232。
前回、平成29(2017)年10月22日日曜日の465より、約半減している。
選挙前の勢力図は、以下の通り。
・旭日党 100
・民自党 90
・公民党 23
・日本党 10
・太陽党 5
・社会労働党 3
・緑の党 1
左派政党は、風前の灯火だ。
1990年代、与党に君臨した政党も、平成末期には事務所の家賃が払えず、永田町から撤退を余儀なくされたり、令和の時代には分裂する程、弱体化し、全盛期ほどの力は無い。
一方、保守政党も散々だ。
・反ワクチン派の議員が「ワクチンは害悪」と怪文書をばら撒く
・緊急事態宣言中に飲み歩く
事を行い、どんどん議員が辞職。
支持率も減少傾向だ。
今回の選挙では、更に半減する事も予想されている程、具合が悪い。
そして、午後8時。
投票締め切りの時間が迫る。
午後7時55分から北大路家では、居間で集まっていた。
「お、赤飯?」
「そうだよ」
皐月は、テンション高い。
木曜日だけあって午後は休診の為、午後からずーっと、夕飯の仕込みをしていた様だ。
「赤飯は、貴方達の婚礼を祝しての事よ」
「有難う、御母さん!」
司は、感謝し、俺の左側から抱き締める。
右側からは、オリビア。
膝には、シーラが座り、シャロンがバックハグをしているから、全身を使っての抱擁は難しい。
「えへへへ♡ 勇者様の御嫁さん♡」
「嫁っていうか、恋人以上、妻未満だけどな?」
訂正しつつも、俺は笑顔だ。
親友の血を引く王族と両想いになったのである。
司が最優先だが、彼女の許可が出た以上、オリビアとの関係も合法となった。
「赤飯って初めて」
俺越しにシャロンは、赤飯を見る。
アメリカには無い文化だからな。
俺も存在は知っていたものの、やはり、赤い米は馴染みが薄い。
日本では、伝統文化なのだろうが、米と言えば、白いのが良いな。
「これはね。初潮とか婚礼の時に食べる物なんだよ。まぁ、最近では、余りしなくなったけどね? 特に初潮の時は」
「バレるから?」
「そうだね。祝い事だけど、女の子は、恥ずかしいでしょ」
赤飯の起源は、はっきりとはしていないが、長い伝統が廃れていくのは、寂しいのだろう。
作った皐月は、何処か暗い。
「私もね。初潮は祝ってもらってないよ」
「そうなんだ?」
「別に人に報告する程の事じゃないでしょ? 初潮が祝うのであれば、精通も祝われるべきだと思うから」
「確かにな」
はっきりと自分の考えを持っている司に関心する。
皐月は伝統を重視するが、司は
母娘の仲は良く、考え方も似ていた為、こうした違いがあるのは、知らなかった。
「煉、赤飯嫌い?」
「あんまり」
「嫌なら無理して食べる必要は無いからね」
「師匠、私が食べますよ!」
床のタイルが外れ、スヴェンは顔を出す。
お前は、ベトコンか。
天井とか地下とか色々、改造してやがんな。
「一口だけでも食べるよ。食わず嫌いかもしれないし」
「そうよね。有難う♡」
皐月は、俺の額にキスし、対面に座った。
今か今かと、待ち侘びている顔だ。
「……食べ難いんだけど?」
「じゃあ、口移しで―――」
「それは、私の仕事♡」
司が
そして、俺にキスした。
司の唾液と赤飯が流し込まれる。
(やべぇな……麻薬みたいだ)
肩に爪を立てられる。
シャロン、怒りの御様子。
止めたいが、司は離さない。
濃厚なベロチューを1分程した後、漸く離れた。
「……」
すっかり搾り取られた俺のHPは0。
ぐったりと、シャロンに支えられて気絶する。
「勇者様♡」
俺の口周りをオリビアは、せっせと手巾で拭いていく。
「何してるの? もう始まるわよ」
皐月がテレビを点けた。
『―――8時になりました。さぁ、開票速報です』
円グラフで情勢が表示される。
———
『改選数:232
・旭日党 100→180(+80)
・民自党 90→45 (-45)
・公民党 23→12 (-11)
・日本党 10→50 (+40)
・太陽党 5→25 (+20)
・社会労働党 3→0 (-3)
・緑の党 1→0 (-1)』
———
『この結果、勢力図は大きく変わりました。与党は旭日党のまま。野党第一党であった民自党は半減し、代わりに日本党が野党第一党になりました』
「やった!」
「勝利よ!」
皐月、司は抱き合う。
選挙の手伝いが実を結んだのだ。
改憲の準備は、整った。
9条と同性婚合法化に向けた走り出す日本に、欧米は歓迎するものの、一部のアジア諸国は、「戦前回帰」と非難した。
中国に至っては、断交論が検討され始める程だ。
この件に関し、信介は改めて、世界に説明した。
———
『我が国は平和を重んじます。決して、戦前の様な二の舞はしません。我が国の防衛線は、北方領土、竹島、尖閣諸島です。それ以上、先は海外の事です』
———
会見は、生中継され、アメリカでも観られていた。
「……
―――バージニア州ラングレー。
CIAの会議室では長官を始め、高官達が座っていた。
日本に居るロビンソンも遠隔で参加している。
長官が問うた。
「ロビンソン君、彼についてどう思う?」
『はい。以前、御報告した様に、彼は白洲次郎の様な人物です』
「「「……」」」
終戦後、GHQに噛み付いた日本人の名前は、CIAでも有名だ。
『表面上は、我が国に忠実ですが、密かに米軍を追い出し、核武装を考えています』
「……奴は、自国がイスラエルと勘違いしているのかな?」
失笑が漏れる。
ロビンソンは、気にせず続けた。
『又、中国と断交し、代わりに台湾との外交樹立を目指しています』
「その点については、ホワイトハウスも認めるだろうな。我々が問題視しているのは、奴が我が国に
「同性婚の方は知らんが、9条の方は改憲してもらわないと、我が国が進める対テロ戦争に日本は関与出来ん。
『仰る通りです』
アメリカが、日本を重要視しているのは、
・地政学上、必要な位置にある事
・ATM
その2点のみだ。
ぶっちゃけ、日本人の命には興味が無い。
「このまま、監視は、継続しろ」
『は』
「もう一つ、《
長官は、煉の資料を見た。
高官達は、未だに信じられない様子で資料を眺めている。
前例が無い。
これに尽きるだろう。
『数日前、王女と恋仲になりました。正確に言えば愛人ですが、日本が複婚制を合法化すれば第2夫人になるでしょう』
「女性好きには羨ましい話だな」
キリスト教が事実上の国教であるアメリカでは、まず無理だろう。
「うちの《
『アタックしている様ですが、余り芳しくありません』
「そうか……奴が復職してくれれば、良いんだけどな」
煉は既にCIA、FSB、NSA等で話題だ。
非公式にロシアから勲章を授与を受ける程である。
注目しない訳にはいかないだろう。
「ロビンソン、今後も奴から目を離すな。良いな?」
『は』
信介と煉への監視は、継続されるのであった。
令和3(2021)10月22日、金曜日。
学校終わり、俺達は千葉の遊園地に来ていた。
メンバーは、以下の通り。
・俺
・司
・皐月
・オリビア
・シャロン
・シーラ
・ライカ
・スヴェン←勝手に付いてきた
驚きなのが、ナタリーも一緒な事だ。
「……」
『何よ?』
「いや、遊園地、興味無さそうだと思ったから」
『偏見よ。私だって、楽しむ権利くらいある筈よ』
家族総出の為、
オリビアとのデート ×
家族旅行 〇
っぽいが。
兎にも角にも、楽しめたら万事解決だ。
因みに入場料は全部、俺持ち。
宿泊料もだ。
副業で稼いでるから文句は無いが。
皐月には、普段からよくしてもらっているから1銭も出させないのが、俺の主義だ。
俺は左に司、右にオリビアを侍らせて入場。
『立てば芍薬坐れば牡丹歩く姿は百合の花』な2人を見て、野郎共の足を止めるしかない。
俺の悪人面が災いしてか、スタッフは今にも通報せんばかりの勢いだ。
恐らく「半グレか反社が愛人を連れて来た」と思われているのかもしれない。
生憎、令和にこんな若いヤクザは、早々見掛けないからな。
「パパ、観覧車に乗ろうよ」
「そりゃあ最後だな」
「メインディッシュ?」
「そうだよ。定番は―――」
「「ジェットコースター」」
おお、司とオリビアが被った。
恋仲になって以降、2人は喧嘩する事は極端に少なくなり、この様に意見が合う。
恋敵から友人に昇格(?)したのだろう。
「……」
シーラは、密かに興奮していた。
鼻息が荒い。
夢にまで見た遊園地だ。
誰だってそうなるだろう。
シャロン、スヴェン、ライカ、皐月も同様で、パンフレットを見て、園内のアトラクションを確認している。
「じゃあ、ジェットコースターな?」
「うん!」
「はい!」
握力が強くなる。
その時、心の声が聴こえた。
『離れなさいよ。私が本妻なんだから』
『今日の主役は、
やべぇな。
唇を動かさず、会話出来るなんて。
腹話術師みたいだ(現実逃避)。
「パパ」
「うん?」
「女性を泣かせた男は、馬に蹴られて死ぬんだよ?」
「……そうだな」
愛娘迄婚約者側だ。
「あ、私も立候補しているからね?」
皐月が微笑む。
あーあ。
司並に美人だよ。
糞ったれ。
「御母さんにも時々で良いから幸せを御裾分けしてね?」
「……ああ」
母親想いの司に泣きそうになる。
ただ、俺の人権も少しは、考えて欲しいけどな。
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