罪人達の走らない棺桶
ぴよ2000
第1話
ブルーの瞳が僕を捉えた。
割れた瞳孔。茶色で、ストライプ柄の毛並。
野良猫を見たことは幾度となくあるが、このあたりでは初見だ。
珍しいこともあるのだな、と、バッグを脇に置いて塀に近寄った。一方でその猫は、特に物怖じすることなく、塀の上から僕を見下ろしている。あまりにも動じないので、品定めをされているような、もどかしい気分になった。
「あ」
しかし、あと数歩のところで身を翻し、塀の向こうへ去ってしまった。
「あーあ」
仕方なく、バッグを担ぎ直して歩き出す。
秋口の、とある平日。朝方で日差しが弱く、よって身体も温まらない。
塀の反対側に広がる海原。その青々とした海面を眺めて、海辺の大学にロマンだけを追い求めた高校時代に軽く舌打ちをした。
夏場の涼しさは一瞬で、残りの季節は寒波との長い戦いを強いられる。
いともたやすく雪は積もるし、道も凍る。おまけに潮風が肌を粘つかせ、この不快感は年中つきまとう。要するに、海辺の生活を舐めていた。内陸育ちの人間に、海は少し厳しかったのだ。まあ、だからといって今更大学生活を辞める訳にはいかない。
気を取り直して、脚を前に進ませる。
目指す先は、後数十メートル先にあるバスの停留所。こんな閑散とした海岸沿線でも一応バスは通っているらしく、地元の要望に沿えたのか、一日の本数は意外と多い。
入学したての頃は、いずれは自動車学校にでも通おうかとも思っていたが、最寄りのバス停が寮から徒歩五分程度の近さのせいで、大学も二回生となる頃には公共交通機関がなければ通学すらままならない怠惰振りが根付いていた。
そもそも、免許を取得したところで車を買う金も持ち合わせていない。
バス通学が性に合ってしまったのんびり屋には、現状をすぐ覆す必要性も見出せなかった。
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