第56話 敏腕マネージャーが商機を見出していた件
――月刊IDOL NEWSの冨永です。TRUE MIRAGEのご三方に質問です。今ネットを中心にバズっている帝都音楽祭×トゥルミラのコラボ動画について、皆様はどう受け止めていますでしょうか?
――そうですね。問われれば答えるのがアイドルの使命です。ですから……ふふっ、ふへへ、やっぱり和く――
――そのご質問には! この西園寺霧歌がお答えしますわ! ……こほん、突発的な依頼にこたえてくれた彼の厚意があってこそ成し遂げられたコラボでした。観客の期待という問いかけに百パーセントの答えを出してくれた彼もまた、私たちと同じエンターテインメント側の人間だった、ということでしょう。
――きぃちゃん、グッジョブフォロー。
――なるほど……。私もネットに出回る動画を見てみましたが、ライブ感としては最高のものでしたもんね! では、その前にコラボをされたミスティーアイズの佐々岡みちるさんは、その感触いかがだったでしょうか!
――わぁお、私ってば前座扱い⁉ ……でもま、私もファンのみんなが盛り上がってくれたってことでアイドル冥利に尽きるかな。佐々岡みちるはまだまだアイドルやってくから、みんなも応援よろしくねっ!
――記者会見は以上となります。ここからはMCは私、青柳に戻りまして……! このように今年も世間を賑わせたアイドル達の、アイドル達による、アイドル達のための総選挙、いわゆるアイドル総選挙が今年も返ってきたぞ野郎どもッ!
――なかでも注目は3年連続日本一のアイドルに輝くミスティーアイズ! 今年もその牙城は堅いか、はたまたいまや飛ぶ鳥を落とす勢いのTRUE MIRAGEが猛追するか!
――個人部門は絶対的王者・佐々岡みちるが今年も日本ナンバーワンの称号を護り切るのか、はたまた国民的アイドル・東城美月がバズる荒波を乗りこなし絶対王者をも飲み込むか!
――アイドル総選挙の投票期間は7/15~9/15までの2ヶ月! 晴れて全アイドルの頂点に立ったグループには商品としてドームワンマンライブの開催権をくれてやるッ! 者ども、推しのライブが見たくば振るって投票しろッ! 応募方法は……
「――これは商機ですっ!」
壁面スクリーンに映し出された録画を止めて、白井さんは力強く机を叩いた。
ここはスタープラネットミュージックの作戦会議室。
帝都音楽祭から2週間が経ち、6月となった。
セナから教えてもらった例の動画は未だに拡散が続き収まるところを知らない。
そんな渦中に入ってしまった俺は、さらなる渦中を感じているのだが……。
周りを一周見ておずおずと手を挙げる。
「はいっ! 和紀くん! 何か質問でも⁉」
「あの……こんな重要な会議に俺が参加しててもいいんですかね? なんせ、トゥルミラの戦略会議ってのは雑誌記者にも絶対秘匿として界隈じゃそれなりに有名じゃないですか」
会議室で机を囲むのは、プレゼンを執り仕切るトゥルミラ総括マネージャーの白井さん。さらにはメンバーの南舞咲さん、西園寺霧歌さん、横でスライムのように溶ける美月、そして俺。
白井さんは赤縁の眼鏡をクイッと挙げて言う。
「何をおっしゃる。あなたはもうTRUE MIRAGEチームの正式な一員。むしろ咲さんや霧歌さんが多忙を極めて帝都音楽祭でのコラボライブが初顔合わせになったことが申し訳ないくらいです。それに、和紀くんも彼女たちと会うのはまだ2回目でしょう?」
「それはそう……ですけど……」
なんというか、同じ空間に日本で一、二を争うトップアイドルの裏側を見ているというのはやはりそれなりに不思議なもので――。
ふっと目を横にすると、白井さん作成の資料に目を落としていた彼女たちと目が合った。
「南舞咲。ピアニストくん? いや、トゥルミラガチオタニキ? それとも和くん? よろしく」
ぼそっと小さく呟く小柄な少女。無関心そうに手と足をブラブラさせて首を傾げるその姿は、壇上と同じく無表情な彼女を象徴しているようだった。
藍色おさげの髪を携えた無表情。だがどこか人懐っこさがある、セナとは違う小動物タイプのアイドルだ。
「……よろしくお願いします。西園寺霧歌です」
凛としたそのお姿はまさしくクールビューティーのお姉様。大人の女性すらも魅了するグループコンセプトの体現者だ。
艶やかな金色のロングストレートは、トゥルミラ一のダンスの才を持つ彼女と合わさって翼のように舞う。
トゥルミラの司令塔にして屋台骨として支え続ける彼女のバランス能力があったからこそ、今のトゥルミラがあると言っても過言ではない。
あまり目を合わせてくれないあたり、少しだけ怖い。だがその怖さが大きい大人たちを虜にしている。
「東城美月! ぶいっ!」
そして絶対的センター(?)東城美月。
こちらはもはや言わずもがな。できればおうちモードは控えてほしいがもはや隠そうともできていない。
白井さんを見てみると頭を抱えている。そりゃそうだ。
帰って来てくれクールビューティー。
感想は省略。
「ところで、白井さん。その商機というのは――?」
霧歌さんが切り出すと、うなだれていた白井さんは「はっ」と敏腕マネージャーらしく持ち直して続ける。
「当グループにとって、総選挙の商品であるドームのライブ権は手を伸ばし続けてもつかみきれずにいたプラチナチケットです。佐々岡みちるさんの人気が各々のグループに分散され始めたこのチャンスは、今を置いて他にはありません」
白井さんはぐっと拳を握りしめる。
「それはかの出回っている動画を見ても明白。TRUE MIRAGEは完全体制になった今こそが真の攻め時になるんです。アイドル戦国時代のトップ、佐々岡みちるさんを打倒して名実ともにTRUE MIRAGEが天下を取るために、来る8/15。総選挙中のエントリーアイドルの集合コンサートの日にてトゥルミラは新曲……第8シングルをリリースします」
そう言って、白井さんはビシィッと指を突き付けた。
「それに向けてスタープラネットミュージックは、トゥルミラガチオタニキこと藤枝和紀氏に、TRUE MIRAGE第8シングルの作曲と演奏を正式依頼します!」
その指の先にいたのは――俺だった。
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