第5話 幼馴染が応援の言葉を捏造して覚えていた件
「この前マネージャーさんからね、ようやくひとり暮らししていいよーってお許しが出たんだ~」
人がダメになるという丸形ふかふかクッションを抱きつつぽふっと顔を埋める美月。
確かに美月は今やトップアイドルだ。制約も多いだろう。
「今まではどうやって暮らしてたんだ?」
「ほら、高校生の頃にアイドルになってから、宿舎で暮らしてたんだよ。事務所的にもそっちのが管理しやすいってことでね」
そう言って美月はしゅん、と少し頬をすぼめる
俺たちは高校生の頃くらいまではお隣さんとして暮らしていた。
たいしたことがなくてもお互いの家を行き来したりしてたし、家族ぐるみでの付き合いも多かったし。
だがそれは、美月が高校2年生の頃――今のアイドル事務所からのスカウトを機になくなった。
かつては聞いたこともないような無名のアイドル事務所だったが、「TRUE MIRAGE」が大ヒットしてからというもの後発のアイドルグループも人気がどんどん伸びている。
名実ともにトゥルミラと共に成り上がった事務所である。
「あれから和くんとも離ればなれになっちゃったもんねぇ」
「そういやそうだな。でも夢に向かって突き進む幼馴染みを端から見てるの、それはそれで誇らしかったぞ」
「わたし、お引っ越しするくらいならアイドルなんてやりません! って言ってたんだよ? でもね、和くんが背中を押してくれたから頑張れたんだぁ」
それに関しては俺も覚えている。
――美月なら絶対にトップアイドルになれるから。俺はトップアイドルになってテレビの前で踊る格好良い美月が見たいんだ。
って。
今となってみるとあれはクサい台詞だったと思う。
でもあれが美月にとって心強い言葉になってくれたなら、それほど嬉しいことはない。
ついでに、あまりにも美月がごねすぎるから「美月さえ良ければまたアイドルになってからもお隣さんになればいいだけだしな! トップになればそこらへんも何か融通利くだろ。わはははは」みたいなことも言ってた気がするな。
なんたる適当さだろうか。
美月はぽふんと頭を俺の膝に投げ出して、俺の真似をするように言った。
「――美月さえ良ければまたアイドルになってからでもお隣さんになればいいだけだしな。トップアイドルにでもなれば、また俺と一緒に暮らせるだろ……って」
あ、そっち?
しかもすごく脚色されてる。
それだと俺が凄まじく偉そうな奴だ。
まるで「トップアイドルになったらようやく俺の隣に立てるな」みたいなやつだ。
否。断じてそんなことは言ってはいない。
――のだけれども。
「本当に嬉しかったんだぁ。アイドルになったら、和くんとも会えなくなるかなって思ってたけど和くんがそんな風に思ってくれてるなら頑張れるかなぁって。私がトップアイドルになったら、ようやく和くんに見合う女の子になれるんだなぁって」
「待て待てなんだその超絶解釈!?」
「でもね、まだわたし日本で一番じゃないから和くんと一緒に暮らすまでは出来ないんだよね。私はお隣さん止まりのアイドルなんだぁ。ごめんねぇ……」
「……はっはっは、冗談キツいぜ美月さん。日本で一位取ったらまるでここに住むって言ってるように聞こえるじゃないか。っはっはっは」
すると美月は「?」と心底不思議そうな顔をした。
「えへへ、そうだよ?」
クッションから少し顔を出して懇願するようなその目つき。
「だから、もうちょっとだけ待ってほしいなぁ。わたし、絶対に日本一のアイドルになってくるから。そしたら一緒に暮らそうねぇ」
――美月のアイドルとしての根源は、どうやら俺だったらしい。
うっそだろ……。
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