FPSで伍長だから雑魚だと思った? 実は最強クラスです。僕を追放した奴等は後悔しても、もう遅い。あと、リアルで会ったフレンドはメスガキでした。一緒に仲良くゲームします。
第30話 言葉にしなくても僕達は通じ合う
第30話 言葉にしなくても僕達は通じ合う
移動中GameEvent12のモニターを覗いたら、退室前と同じ市街戦だった。
というか、今日もモジャモジャしてる。マジでなんなんだろうね、この人。
第2ラウンドで決着が着かなかったらデスマッチで勝敗を決めるルールなので、マップが変わっていないということは、まだ第2ラウンドが続いているということだ。
「休憩エリアでけっこう話してたから、日本チームの敗北で終わっているんじゃないの?」
「仲間を信じろよ。みんなFPSは初心者かもしれないけど、他のゲームをやりこんでいるんだぜ。おら。お前等も早く再開しろ」
立ち止まっていたらジェシカさんに尻を叩かれた。
狙撃されたかと思うほどの、パーンという快音が僕のお尻から聞こえた。
「サー! 気合い入れて戦います! サー!」
僕は小走りで自身のゲーム台に向かう。
椅子に座りコントローラを手にして、ふと見たら、ジェシカさんが銃型コントローラーにダクトテープでペットボトルを巻き付けていた。
ダクトテープというのはミリタリー系の映画やアニメや漫画で頻出する、超便利アイテムだ。非常に強力なテープだから傷口に貼って止血したり、壊れた機械の部品を固定したり、とにかくアメリカ製エンターテインメント御用達のグッズだ。
ジェシカさんはなんで、コントローラーにペットボトルを巻き付けているんだ?
「何してるんですか?」
「言っただろ。オレの愛する仲間を虐めた馬鹿どもは許さないって」
ジェシカさんが手際よく工作をすると、コントローラーは随分と不格好になっていく。
「3500グラム」
「え?」
「M16A4の重量だよ」
ジェシカさんは六本ものペットボトルを装着した銃型コントローラを、重さを感じさせない手つきで構えた。
「玩具は軽すぎて調子が狂うんだよ。ガキの喧嘩に本気を出す大人げなさってやつを見せてやるよ。ほら、カズも早くしろ。アリサはとっくに準備完了だぞ」
「あ、うん」
重くした方が使いやすいというのは理解できなかったが、気にせずにスタートボタンを押した。
「えっ?」
米軍拠点に出現し、マップを表示して我が目を疑った。
米軍拠点の至る所が炎上しているけど、銃弾が飛んできていない。
敵が近くに居ない?
リスキル地獄はどうなった?
「え、何で? どうなってんの? 本当にまだ第2ラウンドの続き?」
混乱しつつ周囲を見渡していると、ガチさんがやってきた。
「お帰り。カズ君達が居なくなったら、敵チームの何人かが引き返していったんだよ」
「え? なんで……」
「なんでって、カズ君達が居なくなったからだよ?」
「え? え?」
「分からないの? 昨日の試合でも今日の一ラウンドでも、あれだけ活躍していたカズ君とアリサちゃんが居なくなったら、敵は警戒するよね? 前線を突破されたと思いこんで、自拠点に戻っていったんだよ」
「そうなの?」
「うん。カズ君達、何度も隠密行動で敵拠点を制圧していたでしょ。そんなふたりのIDがキルログに出てこなくなれば、敵は警戒して当然だよ」
「そうか。旗を取られたら負けが確定する以上、プロチームは防御を強化して慎重な戦術をとるしかないんだ……」
なんという偶然。
敵は僕達に前線を突破されたと勘違いしたんだ。
まさかゲーム中に離席しているとは思わなかったのだろう。
もし蛇野郎リーが、また僕の方を見ていたら、一発アウトだった。
際どい偶然の結果……。
いや、違う。
みんなが頑張ったから、持ちこたえられたんだ。
経験者のガチさんが敢えて拠点に残り、復活した仲間に指示を出していたのも効を奏したはずだ。
……勝ちたい。
ここまで状況が整っているんだから、勝たなきゃ嘘でしょ!
思い描く勝利の軌跡を辿るための、最高の相棒が隣にやってくる。
というか、背後からナイフで切りつけてきた。
「カズの馬鹿!」
なんでえ?
ガチさんから戦況を聞いていただけなのに、なんで攻撃してくるの?!
仲直りしたよね!
振り返れば、小学生みたいな小柄なプレイヤーが操っているとは思えない、屈強な兵士が立っていた。
肩も胸も筋肉で盛り上がっていて、顎は煉瓦のようにごつく、眼差しは勇ましさに溢れている。
兵士は足を肩幅に開き、アサルトライフルを肩に担いで楽な姿勢で立っている。
通常のコントローラーには不可能な仕草ができるのは、彼女がモーションコントローラーを使い、実際にテレビの前で身体を動かしているからだ。
僕はモニターから目を離して右側の様子を窺った。
縦も横も兵士の半分すらない小柄なアリサが、兵士と同じ姿勢で立っている。
そして、その隣に寄り添うように、もう一人の頼れる仲間が出現した。
「アリサ、ジェシカさん、ガチさん作戦を伝えます」
「うん」
「おう」
「ガチって、もしかして私?」
しまった。
声優の青葉さんを、僕が頭の中で付けた渾名で呼んでしまった。
昨日と今日でアリサやジェシカさんの名前を呼ぶのは平気になったんだけど、声優さんの名前を呼ぶのは抵抗がある。
「訂正。アルファ2、ブラボー1、チャーリー1、聞いてください。ブラボーとチャーリーは協力して通信施設を占拠してください。そうしたら、チャーリー1は昨日話した例の作戦を実行してください。その後、僕とアリサで敵拠点の旗を取ります」
「チャーリー1、了解。任せてください」
「Bravo one roger.」
「アリサも当然、了解!」
「よし、行くぞ! 野郎ども、敵のケツに弾を、ありったけ喰らわせてやれ!」
言ってから気付いたけど、野郎は僕ひとりだ!
「Oorah!」「Oorah!」「うーら?」
僕はアリサとともに兵員輸送車両でマップ中央にある橋の手前まで急行した。
道路は度重なる爆発によりでこぼこになっていたため、画面は揺れまくったが、気にしない。
この程度の障害では、僕はハンドル操作を誤らず、まっすぐ進める。
橋はアルファ3、4が防衛していた。
地雷敷布担当と、治療担当と、役割分担をして相手の車両を完全に阻止している。
「ふたり共、席を外してごめんなさい。戻ってきました! 僕がスモークを投げたら、煙に向かって射撃してください。敵を引きつけてください。僕とアリサに5分ください。そうしたら、敵拠点の旗を取ってきます!」
誰かがぴゅーと口笛を吹き、別の誰かが頼んだぞと返事をくれた。
「よし、アリサ! 行こう! プランB!」
「OK! Move! Move!」
僕は橋の渡った先にスモークグレネードを投げ、煙で敵の視界を奪ってから、川に飛びこんだ。
スモークで橋の上に敵の警戒を惹きつけ、川を泳いで渡る作戦。プランBと言ったことに深い意味はない。
対岸にたどり着いてから声をかける必要はない。
僕が走りだすと、アリサは既に併走している。
(燃えてる戦車の残骸や煙に身を隠して! 炎で影が伸びない位置を選んで!)
僕が過去、Sinさんに言った言葉だ。
当然、アリサも聞いていた。
今は何も言わなくても、いつかふたりが何度も経験した時と同じ行動を再現する。
たとえ新シリーズの新マップだろうと、僕達が培った経験があれば攻略可能だ。
丁字路だ。
西側へ向かうルートを選び市街地に身を隠す。
「敵は僕達の奇襲を警戒している。少しの間、無言で行くよ、アリサ。いつもみたいに突撃しないでよ」
「OK. カズこそ、アリサとお喋りできなくて寂しいからって、泣いて敵に気付かれないようにね!」
僕たちは接近してくる敵をやり過ごし、避けられない場合は必要最小限を仕留めつつ、マップ北端の敵拠点を目指す。
「うん?」
コンクリートブロックと有刺鉄線でバリケードになっている曲がり角は、僕が敵チームなら確実に待ち伏せ要員を置く。
僕とアリサは、道路の左右に分かれて、互いの死角をカバーして走る。
(うん。そこから来ると分かってた)
キシュシュッと自転車のチューブから空気を抜くような音がし、弾丸が飛ぶ。
サプレッサーを装着した僕のアサルトライフルが、アリサの背後にいた敵を倒す。
同時に、僕の真横でも敵兵士が倒れる音がした。
互いに死角をフォローしあえば、不意打ちには負けない。
僕たちは爆発物による攻撃で全滅しないように、一定の距離を保つ。
アリサが弾を撃ちつくしてリロードしている最中は、僕が敵の予想地点に牽制射撃をばらまく。
逆もまた同様なので、ふたりが同時に撃ちつくすことはない。
(正面から来た敵を4人倒した。橋付近の敵が防衛戦を下げるとしたら、右から来る可能性が高い。けど、そう思わせて、僕たちを逆に誘導している気がする)
嫌な予感で肌がざわつくので、ふだんなら右に曲がりたい場面だが直進した。
打ち合わせをしなくても、アリサが追随してくる。
二年間、フォローし合ってきたのだから、相手の思考パターンは分かる。
(皮肉だよなあ。ゲームなら恥ずかしがらずに会話ができるのに、喋らないなんて)
僕たちが進軍している間にも、自拠点付近の味方が倒されているから、旗を取られる可能性はある。
急がないといけない。
進行方向に敵兵のふたりを発見した。
周囲を警戒しているようだ。
僕は右側の兵士に狙いを定め、撃つ。
ふたりの兵士が同時に倒れる。
アリサも僕と同じタイミングで左側の兵士を倒したのだ。
実力どおりならアリサの方が先に敵を発見して仕留めるのだが、ふたりで隠密行動をしているときは、僕に合わせてくれる。
(アリサがいつも僕に合わせてくれていたこと実感したの、今更だよ。同じ目標を撃たないってことは、アリサ、いつも僕の後から撃ち始めているんだ)
アリサが銃を撃ち、弾丸が僕の顔を掠め、背後から呻き声と倒れる音がした。
(うわ。油断した。後ろに敵がいたこと、気付いていなかった)
無骨なデザインの兵士が「感謝してよね」と言わんばかりに、僕の方を見ている。
ゲーム画面から目を離し右を向くと、アリサと目があった。
軽く笑いあって、再びゲーム画面に向き直る。
ドキドキして、頬が熱くなってきた。
(知り合ってから最初の頃はボイスチャットしてなかったけど、いつからか、連携できていたんだよなあ)
僕たちは敵の拠点に辿りついた。
敵の気配を感じたら隠れて足を止め、警戒が緩んでいるタイミングを計り、走る。
(ボイスチャットするようになってからも、たまに無言なんだよな。ジェシカさんがいなくて、アリサだけだったんだろうなあ。でも、連携に困ったことは少なかった。言葉にしなければ伝わらない気持ちがあるって、よく聞くけど、言葉にする必要もない気持ちだってあるのかな)
僕達の思いは今、勝利に向かってひとつになっていた。
けど、この時の僕は、アリサが抱えている爆弾に気付いていなかった……。
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