FPSで伍長だから雑魚だと思った? 実は最強クラスです。僕を追放した奴等は後悔しても、もう遅い。あと、リアルで会ったフレンドはメスガキでした。一緒に仲良くゲームします。
第18話 FPSを語るときの僕は饒舌で早口になる
第18話 FPSを語るときの僕は饒舌で早口になる
十分の休憩を挟んで始まった第三ラウンドは、別のマップを使った殲滅戦になった。
夜の廃病院だ。
診察台や医療機器が乱雑に転がる部屋や、狭い通路での近接戦闘がメインになるマップ。
僕とアリサがバス停で遊んだマップの拡張版かな?
12人対専用の中型マップなので、部屋や移動可能範囲が増えている。
復活無しの12対12で戦い、相手チームを全滅させた方が勝利するというルール。
室内での戦闘は、爆発物で一撃死を狙える工兵や狙撃兵が有利だ。
けど、ラウンド開始前のローディング画面に出てきたプレイヤーリストでは、衛生兵だらけ。
衛生兵が持っている軽機関銃は弾丸の装填数が多いから乱射しやすく、初心者が好みやすいからしょうがない。みんな、第一ラウンドと第二ラウンドで色々と試して、衛生兵を気に入ったのだろう。
通常、このローディング中のプレイヤー一覧で、兵科が被りまくっていたら、別兵科に変えるんだけど、誰も変更しない。
衛生兵以外を選択しているのは4人。
僕が工兵。
ジェシカさんが突撃兵。
さっきもずっと突撃兵を使っていたようだし、アサルトライフルが気に入ったのかな。
アリサとモジャモジャが狙撃兵。
アリサは、狙撃銃をゼロ距離射撃して敵を一撃で殺すという、いわゆる突砂だ。突砂は、上級者が使えば、対人最強。
モジャモジャが狙撃兵を選んだ理由は分からない。
モジャモジャした服装が気に入ったのかもしれないけど、屋内ステージではギリースーツは目立つだけで不利……。
「アリサ、どうしよう。いつもどおりで行く? 対人戦オンリーの殲滅戦なら下手に連携するより、アリサが好き勝手やった方が勝てるよね?」
「うん。ジェシー、いいよね?」
「ああ。いつもどおりやれば、アリサとカズなら上手くいくさ。さっさと勝って一緒にドン勝を食うぞ!」
「あ、あの、和く――」
『戦士達よ栄光を掴め』
NPCキャラの宣言によりラウンドが開始。
いま誰かが話しかけてきた?
まあ、いっか。気にしないでおこう。
「アリサ、行こう」
「うん」
「ふたりとも頑張れよ。オレはワンキル目標に頑張るわ」
「私も一緒に食事――」
また、話しかけてきた?
多分、状況的にモジャモジャなんだろうけど、
走りだした僕にはもう聞こえない。
アリサが左側の最短ルートを選んだから、僕は右側のルートを選んだ。
マップは輪っかになっているから、挟撃される事態だけは避けたい。
アリサの背中は僕が護る。
待合室を抜けて通路を横切り、手術室らしき部屋に入り、素早く索敵。
タイミング的に相手が最速で突撃してきたら、ここで接敵する。
しかし、敵は居ない。
別ルートを進んだか、こちらの速攻を警戒したか……。
いや、単に敵プレイヤーは、BoDシリーズ経験者の僕よりも、動きが遅いんだ。
足下に物が散乱しているから思うように移動出来ないのだろう。
遠くから銃撃音が響いてきた。
みんな最短ルートの方を選んだのか。
一度死ねば復活できないというルールなので、あっと言う間に状況が動く。
キルログを見ると、僕達のチームは劣勢のようだ。
次々と味方が倒されていく。
「げ、一瞬で残り4対8になってる……」
キルログを見る限り、敵は出会い頭にRPGを打ち込む作戦のようだ。
僕は部屋に罠を設置。
残るジェシカさんとGameEvent01の能力は未知数なので、僕とアリサで8人倒さないといけない。
Ⅱで僕のキルレートは、0.6。
10回死ぬまでに6人殺せる実力だ。
アリサは1.7だから、ふたり合わせて2.3……。
8人倒すのはかなり厳しい。
いや、相手はいくらスポーツ選手とはいええ、ゲームは初心者。
弱気になるな。僕なら勝てる!
複数の足音が接近! 考え込んでいる暇はない。
3人の敵が室内に突入してきた。
全員RPGを持っている。
数で不利。
撃たれた瞬間に死が確定する。
一瞬で全員を撃ち殺さないと負ける状況だ。
けど、僕にそんな技量はない。
だから僕は予め入り口付近に並べておいた対戦車地雷に向かって、RPGを撃つ。
RPGと誘爆した地雷が一斉に爆発。
ゴバァァアンッ!
うるさい効果音と共に画面が真っ白に染まる。
「よし」
自分の体力も半分減ったが、3人の敵を同時キルした。
「運良く3人倒せたけど、敵は残り5人か。地雷は使い切ったし、残りRPGは2発。キツいな」
残りの敵を探して移動を開始。
隣の部屋は無人。
さらに隣の部屋に入ろうとしたところで、室内で爆発。
敵がふたり吹っ飛んで壁に叩きつけられた。
アリサがC-4でふたりの敵を倒したとキルログに表示された。
部屋が輪っか状に連なっているマップをぐるっと一周して、同じ部屋に到達したらしい。
当のアリサは既に部屋にいない。
他の敵を探し求めて引き返していったのだろう。
ああ。
信頼されてるな。
僕がここに居るから、アリサはこっちに敵が居ないと判断して引き返していったんだ。
よし、アリサを援護しに行こう。
と、部屋を飛びだしたところで敵と鉢合わせ。
廊下の物陰に潜んでいた?!
咄嗟にRPGを撃つが、これはもう、単純に反射神経の勝負!
僕の攻撃と同時に敵はショットガンを撃っていた。
いや、敵の方が早かった。
僕は直撃を喰らってダウン。
僕が射撃ボタンを押したときには、既に相手は発砲し終えていたので、僕のRPGは発射されていない。
さすがにプロスポーツ選手だ。反射神経が半端ない。
僕は隣のゲーム台を見る。
アリサが小刻みにライフルを動かして奮闘している。
小さく動かしたかと思えば大きく横に振ったり、身体自体を傾けたり前後に位置調整したり、せわしない。
パッドオンリーの僕には、あの動きが兵士にどのように反映されているのかあまり想像できないけど、運動神経を使いそうなことは、端から見ていてもよく分かる。
下半身だけ見ていると、足でリズムを取る音ゲーやっているみたい。
今時のゲームがeスポーツなんて言われる理由が良く分かる。
あれは、疲れそうだ。
観戦モードでゲームの様子を見ていたら、相手チームの話し声が聞こえてきた。
殲滅戦で死亡したプレイヤーは敵味方関係無くボイスチャットで会話が可能なのだ。
「さっき、スナイパーにヘッドショットで殺されたぞ。意味が分からん」
「佐々木さんもですか。私も出会い頭に撃ち殺されましたよ。偶然ですかね」
敵プレイヤーはアリサの技量に驚いているようだ。
分かる。
上手い突砂って、もう、遭遇した時点で死亡確定というか、遭遇したことに気付かないまま撃ち殺されてしまう。
敵プレイヤーは突砂を知らないみたいだし、教えておこう。
「アリサ……じゃなくて、ID:OgataSinは突砂なんですよ」
「とつすな?」
「突撃スナイパーの略です。スナイパーライフルで、近距離戦闘をするんです」
「マジかよ。近距離でスナイパーライフルって、当てられるの?」
「当てられるように練習しているんです。腰だめで敵を画面中央に捉えて、スコープを除いた瞬間に微調整して撃つんです」
「いやいや、マジで? 俺さっき出会い頭に撃ち殺されたぞ。俺が射撃ボタンを押すよりも早く、ヘッドショットされたんだけど。そんなの無理じゃないの?」
「それは出会い頭だけど、出会い頭じゃないというか……。Sinさんは最初から、狙っていたんですよ。室内に敵が居なかったら、ドアから来るって予想がつくし、事前に敵プレイヤーの頭が来そうな位置を画面中央に捉えておくんです。で、相手が見えたらスコープを覗きながら、身体の方を動かして微調整しているはず」
「俺が射撃ボタンを押すまでの僅かな時間に、それやったの?」
「だと思います。カメラ選択でOgataSinを選ぶと、Sinさんが見ている画面が表示されますよ」
「マジで。見てみる」
僕はいつも死んだら、ゲーム画面をSinさん視点にして勉強している。
ほんと、Sinさんの動きは、頭で理解できても、到底真似出来るとは思えない変人の領域だ。
「視線がやや上を向いているの、分かります? ヘッドショットしやすいようにしているんですよ。FPSって近距離になればなる程、視点を上に向けないと頭を狙えないから、マップの状況に合わせて視線を上下させてます。今も、ドアに向かう直前、ライフルをやや上に向けましたよね。あれは、鉢合わせを想定して、次の瞬間に敵が居るかもしれない位置に狙いをつけているんです。あ、今、画面に敵が映っていないけど手榴弾を投げましたよね。あれはあそこに敵が居るかもしれないから、投げたんです。ヒットマークが出ないから無人ということで、警戒せずに隣の部屋に行けます」
「マジかよ……。アリサって子、凄いんだな……。というか、そんなことを冷静に語れる君も、相当凄いんだろうな」
「僕はキルレート1未満の、ただの糞雑魚プレイヤーです……」
「そ、そうか……」
あ……。
プロのスポーツ選手を相手に、偉そうに蘊蓄を語ってしまった。
恥ずかしい……!
僕が相手プレイヤーとボイスチャットをしているうちにアリサが敵を連続キルし、僕達の勝利が決まった。
「アリサ絶好調じゃん……」
ゲーム終了後、変人スキルの少女がどんな自慢げな顔をしているのか見ようと、ヘッドセットを外して横を向いたら、アリサは既に真横でふんぞり返っていた。
「ふっふーん。どっちの得点が上か、成績の教え合いしようよ。わたし、7人倒したよ。カズは何人?」
汗ばんだちっこいのがニヤニヤしている。
「……三ラウンド合計だと、30は倒したと思う」
「今のラウンドは? ねえ、今のラウンドは何人倒したの? プレイヤーの真の実力が試される屋内近接戦闘で、カズは何人倒したのです?」
「さ、さあ……」
僕が身体ごと視線を逸らすと、アリサはオービット旋回を始めた。
オービット旋回とは、常に目標の方に顔を向けて周囲をくるくる回る動きだ。
攻撃ヘリが機首を地上の目標に向けたまま周囲を旋回し、ひたすら連続攻撃するときに使う動きのこと。
僕が背中を向けると、アリサはすすすっと横から時計回りでやってきて、見上げてくる。
何度も何度も。
自分の方が成績が良かったからって……!
「ほらほら。黙ってないで、何人倒したのか教えてよ」
「さ、さんにん……」
「汚ねえ口から糞を垂れる前と後に、サーをつけろ、な?」
「サー。3人であります。サー」
「そういえばさっき、銃じゃなくて、地雷で敵を倒している糞みたいな糞ログが出ていたんだけど、屋内戦闘で地雷を使う糞なんて、糞ザコだよね。誰だろうね。エイムに自信がないFucking noobかな」
「サー。自分であります。サー」
「プフッ」
僕の返事がツボだったのか、アリサはぷいっと横を向いて、プフフッと噴いた。
「カ、カズの下手くそ~。カズは私がいないと何にもできないんだから。どうしてもって言うなら、こ、これからも、ず、ずっと……。ずっと、一緒に遊んであげるから」
身体を動かして体温が上がっているらしく、アリサは耳や首筋が真っ赤だ。
とりあえず「サー、イエッ、サー」と応じておいた。
ジェシカさんは何をしているのだろうと思って探してみると、相手チームと何かを話している。
自分より一回り大きい男性を前にして物怖じした様子もないし、というか、相手を笑わせている。
初対面のはずなのに相手の胸板をどついちゃってるよ。
なんというコミュニケーション能力の高さ。
なんか、ちょっと、もやっとする。
上手く言えないけど、僕のゲームフレンドなのに、知らない人と話している姿を見るのは、なんか嫌だ。
OgataSinというゲームIDで僕と遊んでいたのはアリサなのかもしれないけど、一年間会話していたのはジェシカさんなんだし。
勝利したんだから、真っ先に僕に話しかけてほしかった。
いつもみたいに「オレ達が組めば勝って当たり前。最高の相棒だよな」と言ってほしかった。
しばらくジェシカさんを眺めていたら、
「カズのバカ!」
やんちゃな小悪魔からローキックを食らった。
なぜだ。
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