第16話 敵の潜水艦を発見!
第二ラウンドは同じ森のマップで、拠点を入れ替えての再戦だ。
僕達が北側のソ連軍陣地から出撃し、スポーツ選手チームが南側の米軍陣地から出撃することになる。
マップローディング中の僅かな時間に打ち合わせしたとおり、僕は突撃兵、アリサは狙撃兵だ。
「アリサ! 速攻で、マップ中央の拠点Bまで行くよ!」
「OK. 私の足を引っ張らないでよ」
「残りの皆は可能な限り早く、僕達に追いついていください。追いついたら、とにかくひたすら、中央を死守で!」
周囲に向かって作戦を告げると、僕はジープに乗り、アリサを後部に乗せて走りだす。
中央を僕とアリサで占拠。追いついた仲間に死守してもらい、僕とアリサが、他の拠点を制圧する。
そうすればゲーマーチームが常に二拠点を制圧し続けることになるので、かなり有利になる。
森の坂道は凹凸が激しく、バギーは激しく揺れる。
「ねえ、カズってガールフレンドいるの?」
「え?」
ゲーム中になんでこんなこと聞いてくれるんだ?
……あ。
死亡フラグネタか。
「この戦いが終わったら、結婚を申し込むつもりさ」
「えっ?! カズ、お付き合いしている人、居るの?!」
めっちゃ驚いているっぽい。
どうやら死亡フラグネタじゃなかったようだ。
「ゲームばかりしている半ひきこもりなんだから、いるわけないじゃん」
「だよねー。カズってエロいもん。ショボい顔してるし、ガールフレンドなんているわけないよね! きっと、これからもずっと、カズのこと好きになる人なんていないよ!」
「はいはい。どうせ、モテませんよ」
アリサだって土日は頻繁にゲームしているんだし、ボーイフレンドなんていないだろと軽口を返そうと思ったけど、やめた。
冴えない容姿の僕と違って、アリサは多分、学校ではモテモテだろう。
「わ、私も、別に、そういうの、居ないから……。えへへー」
「え?」
アリサが何か言ったみたいだけど小声だったから、バギーの走行音に紛れてしまい、ハッキリと聞き取れなかった。
しかし聞き返すわけにはいかない。
残り数メートルでマップ中央の拠点Bだ。
僕達のゲーム内の会話は、敵にも聞こえてしまうので、不用意な発言は位置をバラすことになる
僕達はバギーを乗り捨て、最後の距離を徒歩で詰める。
見える範囲に敵は居ないし、拠点の制圧ゲージも変動はない。
周囲に敵は居ない。
罠の可能性は低く、僕達が先行した可能性が高い。
狭い森の中を走るにはバギーは操作が難しいから、おそらく敵は徒歩で移動している。
「このまま制圧できればいいけど……」
僕とアリサは同じ倒木の陰に身を隠す。
顔だけ出して敵側陣地へと続く林道を監視。
すると、アリサが何かに気づいたらしい。
「敵の潜水艦を発見」
「駄目だ」
アリサの言葉に、やや被せ気味に返す。
本当は潜水艦ではなく、敵の兵士を発見したという意味。
何かを発見したら、潜水艦発見と報告するやりとりは、FPSの伝統らしい。
元ネタは知らないけど、BoDⅡの知り合いがボイスチャットでよく使っているので、僕もアリサも気付いたら真似するようになっていた。
銃声が一発。アリサが狙撃し、敵を倒した。
走っていた敵をヘッドショットするなんて、相変わらず凄い。
「Target down……」
「グッジョブ、メーン」
僕が走っている敵兵をヘッドショットしたら、調子のいい日でも、命中率は三割程度かな……。
接近中の敵をアリサが次々とヘッドショットしていく。
曲がりくねった林道だから直線距離は短いけど、敵はアリサの姿に気付くことなく撃ち殺されているだろうなあ。
それ程までに、アリサの仕事が早くてスムーズ。
アリサが撃ち漏らした敵を、接近される前に倒すのが僕の役割なんだけど、はっきり言って仕事がない。
不意に、アリサ自身がどういう姿勢でゲームを操作しているのか気になった。
いや、だって、コントローラーならボタン一つで伏せることが出来るけど、カメラと専用マットで遊ぶモーションセンサーコントローラーだと、どうやって伏せるのか、気になるじゃん?
隣を見てみたら、アリサは床に伏せていた。
結婚式に着ていけそうなお洒落な服なのに……。
というか、パンツ見えそう。
スカートは、太もものかなり際どい位置まで捲れていて、少しでも動いたらチラリしそう。
「四人倒した。もうこっちには来ないかも?」
「あ、うん」
「どうしようカズ。もうすぐ味方も到着するし、Aを攻める?」
アリサが立ち上がろうとするから、僕はつい「見えた」と口にしてしまった。
僕、悪くないよ?
スカートなのに狙撃姿勢を取っている方が悪いんだよ?!
「えっ? 何処?」
アリサが伏せ直し、銃型コントローラーを素早く左右に振る。
「敵、何処?」
「ご、ごめん。勘違い。木が風で揺れていただけ」
ゲーム画面ではなく、アリサの方を見ていたなんて言えるわけがない。
僕はアリサから視線を外し、ゲーム画面に意識を戻す。
「ん。分かった。カズが敵に気付くのに、私が気付かないなんて有り得ないもんね!」
「う、うん。ごめん」
誤認したことを謝るふりして、パンツを見てしまったことを謝る。
「じゃ、カズ、行くよ。アリサのお尻から目を離すなよ!」
「うっ」
お尻から目を離すなっていうのは、海兵隊用語で「俺についてこい」って意味なんだけど、白いパンツが脳裏をよぎり、コントローラーを落としかけた。
隣のお尻が気になって戦死なんて洒落にならない。
視界の真ん中に据えるのは、兵士の尻だ。
「集中しろ、集中……」
移動の鉄則!
敵の位置と視界を想像して、自分の姿が見つからないように有利な位置を取ること!
木を盾にしながら前進する。
敵拠点手前の三叉路に到達したが敵は居ない。
僕達は右折し、拠点Aへ向かう。
暫く進み、敵の背面を捕捉した。米軍拠点から出撃し拠点Aを向かっている途中だろう。
僕は立ち止まり、銃を構える。
しかしアリサは止まらず走り続ける。
ああ……。
敵をナイフで仕留めるつもりだ。
第一ラウンドでナイフキルをしたのが楽しかったんだろうなあ。
拠点Aへ向かう敵と、その背中にナイフを刺そうとするアリサと、それを追いかける僕による追いかけっこが始まった。
敵がもたつけば追いつけるんだけど、敵は普通に走っている。
ゲーム中の兵士は全員、足の速さが同じなので、追いつけない。
相手が立ち止まるか、木に引っかかりでもしないと、僕達の差は縮まらないのだ。
結局、敵は拠点Aのコテージに到達。
木製の低い階段を上がり、一階玄関へと入って行く。
さっさと撃ち殺せばいいのに、アリサも追いかけていく。
仕方ないから僕もアリサに続いてコテージ内に侵入。
さすがに敵は室内ではスムーズに移動することなく、家具に引っかかり、移動速度を落とした。
その背中にアリサがナイフを突き刺す。
拠点Aの制圧ゲージが減らない。
つまり、コテージ内に2名以上の敵が居ることを意味している。
アリサはなおもナイフを構えたまま隣の部屋へ向かう。
手榴弾でも投げ込めばいいのに……。
ナイフキルに拘っているだけなのか、敵に気付かれないように隠密行動をしているのか、どっちだ?
アリサが隣室に居た敵兵をナイフで仕留めた。
敵プレイヤーがキルログを見ていれば、ナイフ野郎が近くに潜んでいることに気付くはずだけど……。
あっ。
廊下を出て階段に差し掛かったアリサの背後に敵兵!
敵はナイフを構えている!
アリサが調子に乗ってナイフキルしまくっていたから気付かれたんだ!
アリサは気付いてない!
「Sinさん、背後!」
「アリサ!」
咄嗟のことだったので、いつもの癖で呼び間違えた。
「あ、ごめ――」
アリサがダッシュで階段を駆け上り、二階の廊下から階段へ飛び降りて、敵の背後を奪った。
敵はアリサの姿を見失っただろう。
そのままアリサは敵をナイフキルした。
そしてアリサは振り返るのと同時に、僕へ銃口を向ける。
「カズ、右!」
「えっ?」
右側を見るが、何もない。
僕はまだ一階に居る。
右側にはコテージの玄関が有るだけ。
ズガンッ!
発砲音がし、コントローラが振動。
ダメージを負った演出で、画面が赤く汚れる。
敵がどこにいるか分からないから、僕は反撃を諦め、玄関に向かってダッシュ。
僕を撃った敵は、多分、アリサが仕留めてくれるだろう。
僕は玄関を飛びだした。
画面は真っ赤を通り越して、灰色になりつつある。
コテージの脇にある、薪を貯めている小屋に身を潜めた。
このまま体力が回復するまで暫く大人しくしていよう。
すぐにアリサがやってきた。
「カズの馬鹿! 右って言ったのに!」
「え、だから、さっき右を」
「カズ左見てた!」
「……あっ!」
アリサから見て右側、つまり、逆方向を向いていた僕にしてみれば、左側なのだ。
ふだんならあり得ないような単純ミスだった。
「ごめん。ちょっと焦ってた」
「地下から敵がいっぱい湧いてきてる」
「あー。さっきのいきなり出てきた敵は、地下道を通ってきたのか。あっ――」
足下に敵の手榴弾が転がりこんできた。
爆発の演出が画面を埋め尽くし暗転。
僕の操作する兵士はダウンした。
「ごめん。死んだ」
僕の兵士は死亡したから、もうアリサとは会話ができない。
画面にもアリサは映らないため、状況は何も分からない。
同じ分隊に所属しているアリサが生き残っていれば、すぐ背後から再出撃が可能になる。
アリサが死亡したら、ふたりともソ連軍の本拠地か、ジェシカさんかモジャモジャの背後から出撃することになる。
拠点Aを制圧したいから、出来ればアリサの背後で復活したい。
アリサになんとしても30秒間、生き延びてもらわなければ。
1秒でも早く復活したくてボタンを連打するが、再出撃までのカウントダウンは、ゆっくり進む。
画面から目を離して隣を見ると、アリサがせわしなく小さな身体を動かしている。
どうやらまだ生きている。
ナイフキルは諦めて銃撃しているのかな。
反復横跳や屈伸運動をしたかと思えば、彫刻のように動きを止め、綺麗な射撃体勢を取る。
停止するのは一瞬だ。
再び、素早く身体を動かす。
1メートルもあるライフル型コントローラーをまるで苦にしていない。
「うわ。すげ……。なんかオリンピックの卓球みたい。そりゃあ、接敵即ヘッドショットするようなプレイヤーは、リアルでも機敏に動くよなあ」
見とれている間に30秒が経過したので、僕はアリサの背後に再出撃する。
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