FPSで伍長だから雑魚だと思った? 実は最強クラスです。僕を追放した奴等は後悔しても、もう遅い。あと、リアルで会ったフレンドはメスガキでした。一緒に仲良くゲームします。
第4話 女性フレンドからリアルで会おうと誘われてしまった
第4話 女性フレンドからリアルで会おうと誘われてしまった
下校後、僕は流れる動作で自室のベッドに鞄を投げ捨て、床に尻を落とし、コンビニ弁当とお茶を間近に並べ、テレビとゲーム機の電源を入れる。
弁当のフィルムの切り取り線が分からなかったから無理やり引きちぎり、Virtual Studioのメニュー画面から新着情報をチェックし、箸を唐揚げにぶっ刺し《Battle of DutyⅤ》の開始ボタンを押す。
唐揚げと白米を口に押しこむ作業を二回ほど繰り替えし終えた頃に、オンライン対戦が始まった。
僕はアメリカ軍になったので突撃兵を選択した。
敵はソ連兵だ。
僕が生まれたときにはもうソ連という国は無かったのに、FPSだと未だにソ連軍が敵として出てくることがある。
Sinさんが言うには「悪役にするならソ連が無難だから」らしい。
国際情勢的には某国を敵として出したいらしいけど、そうしたら、某国で販売禁止になってしまうから、某国はゲームには出さないらしい。
ⅡをやりこんでいるからⅤもいけるだろうと、いきなりオンライン対戦に突撃したのは失敗だった。
ボタン配置がⅡと違う。
ダッシュしようとしたらナイフを振っちゃうし、敵が居たから伏せようとしたら手榴弾を投げてしまった。
操作を戸惑っているうちに足下に敵の手榴弾が転がってきて、僕は爆死。
再出撃が可能になるまでの待ち時間に弁当を詰めるだけ口に含み、お茶で流しこむ。
昼食が終わるまでに一試合を消化し、さらに続けて遊んで操作方法に慣れてきたかなという頃に、階下から母が夕食に呼んでいる。
時間が跳んだ。
いや、まあ、よくある。熱中しすぎた。つうか、帰ってきたのが2時くらいだから、すぐ夕方になって当然だ。
夕食を摂り、風呂に入って短い髪が乾く間もなく、ゲームを再開した。
生乾きの髪でヘッドセットを着けると頭に横線ができてしまうが、明日は土曜日だから問題ない。
「あれ?」
電源を入れて僅か数秒、Sinさんからボイスチャットの招待が来た。
引っ越しのはずなのに、ゲーム機がまだ出してある?
「Sinさん、引っ越しの準備はどうし――」
「カズ、明日、暇?」
「あ、うん。暇で――」
「明日9時、北栄駅の4番出口。出たところのコンビニな」
Sinさんは珍しく声を被せてくる。
「え?」
「9時、北栄、4番、遅れるなよ。緊急事態だ」
「いやいや、待って。急に何?」
「来てくれたらなんでもひとつ言うこと聞いてやる、ってやつだ。絶対、来い」
「え?」
「来れば一目で分かる。超絶美少女だ。時間がない。落ちる。じゃあな!」
ペポンッ。
軽い音とともに、ボイスチャットのメンバー一覧からOgataSinのIDが消えた。
「は? 何? 言いたいことだけ言ってオフラインになった?」
ゲームフレンド一覧からOgataSinを見つけ、ボイスチャットの招待メッセージを送信。
反応はない。
「いやいやいや、北栄に来いって、どういうこと。確かに電車で行ける距離だけど……。え、え? 何、明日って。……まさか、これ?」
ちょっとした心当たりがあったので、もしかして……と思い、Virtual Studioのホームメニューからイベント情報を表示する。
明日の予定で「《Battle of DutyⅤ》オンライン対戦の配信」というのがあった。
「えっと……。名古屋市国際芸術センターで名古屋エンタメフェスティバルというイベントがあって……。あれ、けっこう大規模? ステージイベントや屋台や、ゲームグッズの物販まで有る? 芸能人や声優のステージ……」
会場の最寄り駅は、Sinさんの指定した北栄駅だ。
「イベントに行くの? 僕に断る時間を与えないように、わざと落ちたでしょ! すぐ戻ってくるんでしょ?」
ゲームフレンドのステータス画面は相変わらず、OgataSinオフラインとなっている。
「いやいやいやいや、ちょっと待って。休日にふたりで出かけるって、いきなりすぎる」
そりゃあ、もちろん、会ってみたいと思ったことは何度もあるけど、いきなり明日と言われたら、心の準備が追いつかない。
「まじで明日、会うの?」
お母さん以外の女性とふたりで出かけたことなんてないぞ……。
「というか、自分で自分のこと超絶美少女って言っていたけど、冗談でしょ? 声の高い男でしょ? 本当に行ったら、動画を撮られて晒される系? いや、でもSinさんがそんなことするとは思えないし……。ヤバい。9時集合なら6時には起きたい。早く寝ないと」
僕は慌ててテレビとゲーム機の電源を落とし、室内灯を消してベッドに飛びこむ。
けど、目を閉じるけど、目が冴えていつまで経っても眠れない。
心臓が高鳴っていて、眠れるわけがない。
Sinさんとはフレンドになってから2年が経つ。
リアルフレンドがいない僕にとって、実質、最も長い友人だ……。
友人……。
いや、そういうとなんか照れるな……。
と、とにかく、一番長い付き合いだし、会話の総量なら家族の次に多いはず。
そんな女性(10%くらいの可能性で男の可能性も捨てきれない)といきなり会うなんて……。
遠くからバイクのエンジン音が近づいてくる。
へえ、新聞配達って3時に来るんだ。
待って。
一睡もしていないのに4時ってどういうことだよ。
っつうか、夜なのに時計が見えるのっておかしいじゃん、っていうか5時じゃん。
なんで、カーテンがオレンジ色の光に染まっているんだよ。
ヤバい。
時間が飛んだ。
一睡も出来ないまま一瞬で朝が来た。
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