ぼーさんとやーさん

モリナガ チヨコ

第1話 橋

「身投げ橋?」

「ちがうちがう、美眺橋ミナガバシ

眺めが良くて橋の真ん中に少しせり出たところがあって。

いや確かに、身を投げ出す人も多いんだけど…」

「あ、あの橋に? いたって?」


「元気なのかしらね、、、」とママさんが心配していたのは先週のこと。

火曜日には必ずと言っていいほどここに来ていた、ぼーさんが、2ヶ月も顔を見せない。

が、昨日、見かけたのだ。

自転車を橋の真ん中に止めて川を覗いているぼーさんを。


「多分。ぼーさんだったと思う。夜中で暗かったけど頭の感じが似てたんだよ」

「ふぅん。 タクちゃん、あの頭はけっこういるもんよ」

「そうだけどさー」

「まあ、元気でいるならね、、それでいいのよ」

「…。そうだけどさー、なんか気になるじゃん。 オレ、常連客の中でもぼーさんが好きだったんだもん」

不貞腐れた顔でタクちゃんが焼酎を飲み干し「おかわり」と空いたグラスをカウンターに戻すと、ママさんは黙ってそれを受け取った。


ガラガラガラ…

その時、引き戸を開けて、1人客が入って来た。

「いらっしゃ…」と顔を上げたママが一瞬固まった。

よく似ていたのだ。ぼーさんに。



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