第23話「この恋の最終便は、22:30」 第1章「電線でつながっている、雪乃の恋」

雪乃ゆきの①「電線・つなぐ」

遠距離恋愛は、電線だけでつながっているみたい。

画面ごしでは声と顔しか見られなくて。

あつしの体温も匂いも感じられない。


せつなくてせつなくて。

あたしはもう息もできないのに。

画面のきみは冷静そのもの。


距離が、不安を連れてくる。

電線だけが頼りの恋はこころぼそい。

なんて。

篤には言えない。



雪乃②「悪口・つなぐ」

篤はめったに悪口を言わないのに、今夜はやけに後輩の悪口を言う。

「後始末も大変なんだ。女だと思って、甘えやがって」


女?

女だなんて聞いてない。

悪口でも、あたし以外の女のこと言わないでよ。


その飲んでいる黒霧島。

こっちにちょうだい。

せめてお酒でつながって、黒いキモチをなくしたい。



雪乃③「記憶・つなぐ」

最後にキスしたのはいつ?

最後に篤の体温が、あたしの中に入ってきたのは?

篤の愛情を皮膚で受け止めたのは、いつ?

思いだせない。


記憶すら、つなげない恋を。

続けていくことが篤のためになるの?


あたしが手を離したら、篤の世界はどうなるんだろう。

もっと楽に。

自由に生きられるんじゃないかな。



雪乃④「ビル・つなぐ」

「このビル、建て替えだから引越すよ。次は2LDKでどうかな」

誰のために部屋がいるの?


パソコンの画面ごしにそう聞きたいのを、ぐっと飲みこむ。

あたしの手はスマホの上で走っている。

時速285キロの新幹線みたいに。


新大阪発、名古屋駅行き。

最終便は22時30分。

これが。

この恋の最終便だ。


(第2章 「距離で見失いそうな、篤の恋」へ続きます)


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