兄妹だけどお兄ちゃんが好きすぎる

東雲三日月

第1話お兄ちゃん大好き

──朝目覚めると、さっきまで隣で寝ていた ゆう兄がいない。


──あれ、何で優兄がいないの!?


私達は血は繋がっていないけど兄妹という関係で、優兄は大学一年生、私が高校一年生だ。


優兄は実の兄ではなく養子であり、両親に赤ちゃんができなかった時、知人の紹介もあり養子縁組をしたのだという。


でも、それから三年後に私、菜摘 なつみが産まれたそうで……このことを知ったのはつい最近のことである。私が高校入学が決まった時、両親が私達に話してくれたのだ。


それ迄は、優兄のことを普通にイケメンで勉強も教えてくれて、何時も優しくてゲームで遊んでくれる自慢のお兄ちゃんとしてみていた。


優兄はずっとモテてて、バレンタインにはチョコを何個も貰ってきたり、彼女だっていた時もあるけど一度も嫉妬したことは無かった。それなのに、今は何故か意識してしまう存在である。


でも、優兄は両親からの話を聞いた後も、私を可愛い妹としてしか見ていないらしい……少しくらい妹ではなく女の子として見てくれたら良いのに!


私達は二階建てアパートの二階の一番左端に住んで居る。学校から家迄の距離が遠いので優兄が部屋を借りることになった。しかも、お父さんの知人が不動産会社の社長らしく、父にお世話になっているからと言う理由で無料で借りることができているらしい。


その部屋に私も転がり込んだのだ! 私の学校もどちらかと言うと優兄のところからの方が近いこともあり、両親に相談したところ、何故か一緒なら安心だと言って許して貰えたのだ。


「全く、父さんは何を考えてるんだろうな? それに母さんもだ!」


優兄は私が引っ越してきた時、少し苛立ったかのようにそう言ったのだ。


私は目で笑いながら、その時黙って片付けをしていた。嫌々……引っ越す前に、優兄に確認したら一緒に暮らしても問題ないから大丈夫だって言ってたじゃないか? そう思いながら、まだポカポカ陽気の午前中……日が差し込む部屋で少し汗だくになりながら作業を続ける。


午後になりようやく片付けが終わる頃、さっきの苛立ちはなんだったんだろうか? 全く気にならないと思う程、とても優しい何時もの優兄に戻っていた。


こうして優兄との同居生活が始まった。ところが、二LDKの此部屋は、二つある部屋の真ん中に区切り用の扉があるものの、その扉を開ければ直ぐに行き来できてしまう仕組みだったので、一人一人区切られた部屋のくせによく遊びに行く事が多かった。


「オイ、勝手にこっちに来んなよ!」


「えへへ……いいじゃん」


幾度に良くそう言われたけど、だからと言って優兄は拒むことはせず、何時もゲームで一緒に遊んでくれた。


だから、 昨夜も次の日が休みの日とあって、一緒にゲームでオールして遊ぼうと思い優兄の部屋に行ったのに、気づいたら先にベットで寝てしまった為、その日は私も一緒にそのまま優兄の隣で寝たのだった。


──それなのに、朝目覚めたら隣に優兄が居ないじゃないか。寂しい! 寂しくて死んじゃうよぉ。


時計を見るともう九時になっていた。一緒に起こしてくれたら良いのに! そう思いながら一階にあるリビングルームに向かうと、朝食用に優兄が作ってくれたにぎりが置いてあったので食べることにした。


今日は何処に言ったんだろう? もしかして優兄には、誰か付き合ってある彼女でもいるんじゃないだろうか? 菜摘はふとそんなことを思った。


まさか……何日か一緒に生活しているけど、彼女がいるような雰囲気は感じられなかった。すると、やっぱり……彼女では無いのかもない! でも、私には言えない場所に出掛けたってことになるのだろうか?


──それなら、優兄はいったいどこへ出掛けているんだろう……?


色々な可能性にを少しの間考えていたけど、無性に気になり何度も電話をする。繋がるのに出ない電話に不安になっているとようやく電話に出てくれたので安堵する。


「ねぇ、何処に居るの!? 寂しいよぉ」


「今は病院だよ……その、アトピーだから手の薬が必要で! 菜摘が良く寝てたから朝は起こさずに来たんだよ」


「ムゥ……起こしてくれたら良かったのに、そしたら一緒に病院着いてったんだから」


「あのなぁ、子供じゃないんだから着いてこなくて大丈夫だよ!」


「ムゥ……」


「……あっ、ごめん。帰っきたらカップ麺食べるから用意しといてね」


「ムゥ……優兄のところに今から行くもん……」


「外は雨降ってるから大丈夫だよ! ちゃんと待っててね」


「……うん……分かったぁ」


優兄はそれからちっとも帰ってはこない。病院だと言っていたけど、本当は違うんじゃないだろうかと考えてしまう。


寂しい気持ちを紛らわすかのように、女の子なのに普段やらない……むしろ生まれて初めてだろう洗濯物を洗濯機に入れると、スイッチを押して回した。


それから気を紛らわすかのように雑巾を固く絞って床を拭く……普段やらないことをやっていることに、自分でも驚きながら……。


掃除が終わると、お昼用にお米を研ぐ……学校の調理実習くらいでしかやったことが無いけど、一応炊き方くらいは知っている。優兄の為にカップ麺じゃなくお昼でも作ってみようと思ったのだ。


キッチンを漁るとカレー粉のルーを見つけたので、普段作ることも無いのに料理に取りかかる。冷蔵庫を漁ると豚肉と玉ねぎは見つけることが出来た。人参は無かったから入れられないけど、それでも充分美味しいのが作れるに違いない。


ところが普段料理なんてすることが無いから、やたら作業に時間がかかる。カレーごときでこんなに神経を使う程大変だとは思わなかったのだ。


そんなわけで、調理に取り掛かってから時間が慌ただしく過ぎていった。ようやくカレーができた頃……ドアの開く音がして優兄が帰宅してきのが分かった。


ずっと寂しかった気持ちが蘇り、走って玄関まで行くと優兄に飛び付いた。


「お帰りなさい! すっごく寂しかったよ」


……ふぇーん……。


優兄に抱きついたまま我慢していた涙が止まらずにずっと泣いた。


「ただいま! 帰ってきたんだからそんなに泣かないで……菜摘は可愛いな……」


…ぐすん……。


「ねえ、どこへ行ってたのよ! 本当に病院?」


「本当だよ……ほらね」


そう言って手に持っていた袋から薬を取り出して見せてくれた。嘘を付いていないことを知りほっとする。


「あれ、何か美味しそうな匂いがするけど……これはカレーかな? これって、まさか……な……菜摘が作ったのか?」


「えへへ……優兄の為に頑張っちゃった」


優兄に褒めてもらえるとばかり思っていたのに、ぷッと吹き出して笑われた。


「ちょっと、何よその変な顔……そんなに笑うこと無いじゃない! それなら食べさせないわよ」


「嫌々……ごめん……でも驚いた! 食べさせてください」


まさか普段料理なんてすることが無いのに作ったものだから、優兄にもの凄く笑われたけど、直ぐに謝ってくれた。


「なら良し、食べさせてあげるね!」


それから急いで用意をすると優兄と一緒にカレーを食べる。


「うん、菜摘の作ったカレーめっちゃ美味しい」


「えへへ」


私は嬉しそうに照れた。


──これから毎日一緒に暮らす!


──ひとつ屋根の下。


「ねぇ、私が引っ越してきた時……どうしてイライラしてたの?」


苛立ってたことも我慢しないで聞くことにした。


「うん、これからずっと一緒に暮らすんだろ! そしたらもっと好きになっちゃいそうだったから」


「えっ……」


「あっ、忘れてくれる……何でもないから」


「ううん、忘れないよ。私も優兄が好き! これは本当だよ」


「なら、俺たち付き合おう! 兄妹ってのはまだ当分続くけど……」


「うん……いいよ! これからも宜しくね……えへへ」


この日から、部屋を区切る真ん中の扉は開けっ放しになった。寝るのは優兄と一緒! めっちゃ幸せだなって思ってる。この幸せがずっと続きますように……。






















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