フィルム
植物園を散歩していると、木陰にカメラのフィルムが落ちていたので、管理事務所に持って行く。
事務所の前ではカメラを提げたおじさんが、職員と話していた。
あ、とこちらを指さす。
「あ、それですそれです」
無事、フィルムは持主の元に戻ったようだ。
「人にとっちゃ何でもないものでも、私には大事なものなんですわ、ありがとうございます、ほんま」
そう言って千円札を何枚か差し出した。
「いや、いいですから、そんなの」
「気持ちやから取っといてください」
「いいですから」
「ま、取っといてや」
早足で逃げる俺。追うおじさん。
どこまでも逃げる俺。どこまでも追うおじさん。
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