御膳

ひとみさんは最近この旅館で働き始めた元バスガイド。

自分と同じで東京からやってきた。

すごい美人。女優を目指せばよかったのに。


その彼女が、客室から下げた六段ほどに積んだお膳を、台車に乗せたまま廊下で立ち往生していたのだ。

見ると、二段目のお膳の脚が、一段目のお膳に乗った器の中に入ってしまっている。しかも何箇所も。

それが原因で積んであるお膳のバランスが崩れる。これでは台車が動かせない。

みんな大抵一度はやる失敗。

これをやると、手が離せないから、お膳を直そうにも直せない。


その場に立ち往生してしまい、誰か助けてくれる人が通るのを待つばかりになってしまう。


「しっかり持っててね。そのまま」


一段目の器を抜いて、お膳の段を元に戻してあげる。


「惣一さん、優しいんですね」


その言葉、ドリンク剤数本分に相当したのは言うまでもない。

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