血族にいた魔物

「待て待て待て! 待つのじゃ! そんな怖い顔で詰め寄るな」


 ルーリィが俺と女の間に割って入って来た。


「この者はわらわ達への協力を受諾しておる。警戒せんでも大丈夫じゃ」


「いいや、大丈夫じゃない。あれは何だ? 何故、魔物がいる!?」


 俺の剣幕に割って入ったルーリィも『血族』の女も気圧されている。


「あの大男、牢獄内や王都で見た時は完全に人間だった。ましてや魔物とは思えない程に魔力が小さかった。なのに、今戦ったアイツは見た目も魔力も完全に魔物だった。アイツはいったい何だったんだ!?」


「魔物……あれが……魔王の配下だった……魔物……」


「あの大男はどういう者だったのじゃ? 出自等はわからないのか?」


 戸惑っている女にルーリィが質問する。


「アイツは……ダイは……人間です。それは間違いない。遠方の村に両親もいる。……あの魔物は……ダイに成り代わっていたのでは……」


「……それはない。見た限り、大男の頭部の自我と首に現れていた魔物の自我は別物だった。……ああ、頭に血が上っていて、説明になっていないな……」


 俺は頭をきながら、一呼吸おく。


「あの大男が人間だったのは間違いないだろう。さっきも言ったが、大男の自我と魔物の自我が別物に見えた。……つまりだ。俺が聞きたいのは、あの大男が魔物になった……もしくは、取り憑かれた経緯が知りたいってことだ」


「……経緯と言われましても……まったく……心当たりが……」


 女は俯く。


「何でもいい。魔物に噛み付かれたとか魔物の体の一部を移植したとか……」


「ありません! 第一、魔物の実物を見たのも初めてです。他の『血族』もその筈です。ましてや、我々は勇者様に仕えるための組織です! 魔物と敵対することはあれど、媚びるなどと……」


 そこまで言って女はハッとした顔をする。


「あったのか? 心当たりが?」


 女が弱々しく頷く。


「これが本当の理由かはわかりませんが……。ダイは……『超化薬液』という物の被験者だったんです……」


「何じゃ? その……『超化薬液』というのは……」


「『超化薬液』というのは……体内に注入するだけで、どんな人間も強靭な体や強大な魔力を手に入れられるという薬だと聞いていました……」


「怪し過ぎるじゃろ……」


 ルーリィは呆れたような声を出した。


「で? それの出所は?」


「それが……わからないのです」


「わからないだと!?」


 女の言葉が信じられず、思わず声を荒げる。


「……申し訳ありません。この『超化薬液』は……『血族』の出資者が持ってきた物なのです……」


「出資者がおるのか……。いや、よく考えれば当然か。『血族』のような地下組織がまとまった運営資金を得るにはそういった存在は必須じゃな……」


「何者なんだ? その出資者ってのは……」


 女が首を横に振る。


「大量の武器を支援してくれたり、『超化薬液』のような研究段階の品を提供してきたりするので、おそらくは『死の商人』だとは思うのですが……」


 俺は頭を掻きむしる。


「その『超化薬液』ってのに魔物の血が入れられていた可能性はある。その出資者って奴を探し出す必要があるな」


「ふむ……『血族』の中に出資者と接触できる奴はおらんのか?」


「すいません。本部の内部事情等は私にもわかりません」


「そうか……」


 真面目な空気で会話していたが、どうしても我慢できなくなり、思ったことを口にしてしまう。


「何で……お前は敬語でそんなに協力的なんだ?」


「さっきも言ったであろう? この者は協力を受諾しておると」


 俺のツッコミにルーリィが答える。


「だから! 何でだよ!?」


「それは……我々『血族』が勇者様に仕えるための組織だからです。貴方様が勇者様の末裔であることがわかった以上、お仕えするのが当然です」


「ああ? 何で急に俺が勇者の末裔って信じてんだ?」


「目だそうじゃ」


 ルーリィが自分の目を指差しながら俺の目を覗き込んでくる。


「赤くないのう……」


「赤? ああ、うちの家系は魔力を高めると目が赤くなるんだよ。それが勇者の末裔の証拠なのか?」


「はい。歴史上、赤い瞳は勇者様だけだったそうです」


「それでねえ。じゃあ、王都内に潜伏してる奴らも本部の奴らも俺の言うこと聞くのか?」


 女は弱々しく頷く。


「そのはず……です」


「そういや、ここの他の奴らが出てこないのも、俺が勇者の末裔だからか?」


「そうじゃのう……魔物に殺さてしまった者達以外、見かけんが……」


 ルーリィが辺りをキョロキョロと見回す。


「帰還するワイバーンがおらず、表から爆発音がしたので、他の者には撤退を指示していました。残っていた者も先程の魔物に殺されてしまったので、私以外はもういない筈です」


「どうするのじゃ? このまま本部に向かうか?」


 ルーリィが俺に問いかけてくる。


「いや、王都に戻る。お前をファティスとかいう奴に引き渡さなきゃならないからな」


「ファティス姉様が……」


 俺は『血族』の女を指差す。


「お前も一緒に来い。王都内の『血族』に武装を解除するように説得してもらうぞ」


 女が神妙に頷く。


「では、戻るとするかのう!」


 ルーリィはそう叫ぶと俺の背中に飛びついた。俺は『血族』の女を抱えると飛翔呪文(ハイラーフ)を唱えた。

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