第9話 選択

和之かずゆきの説明は続く。


「これは、Motoモト Guzziグッツィ Stornelloストロネロ Regolaritaレゴラリータ 125と言って、モトグッツィの小型車のストロネロをベースに1966年の一年間だけ作られたレゴラリータ、いわゆるオフロードレーサーだな。レーサーと言っても、そんなにとんがってなくて普通に公道で乗れる。ミッションは四速。未舗装の林道とか走るなら最適の一台だね。ただレーサーだから荷物を積むことは考えてなくて、荷物はバックパックに入れて背負うしかない。」


和之は、卵を横にしたような独特な形のエンジンを積んでいるオートバイのシートに手を置いた。


「最後は、1968 年のMotobiモトビ125 Sportスポーツ Special スペシャル。モトビというのはBenelliベネリという、これまた戦前からの古参のメーカーから派生したメーカーで、この独特な卵型の形状をしたエンジンでつとに有名だな。性能も確かで最近までZanzaniザンザーニさんという人が旧車レース用にアップデートしたレプリカのエンジンを作っていた。イベントで見たことがあるが、めちゃくちゃ速かったぞ。それはともかく、こいつのミッションは当時の小型車としては贅沢な五速で、キャリアはないがフラットなダブルシートだから荷物を積むのもまあ問題ない。」


「ざっと、こんなところだな。何か質問はあるかい?」


佳が手を挙げた。


「4台もあると逆に迷ってしまうんですが、推薦とかおすすめはないんですか?」


「こいつらは俺が仕事を引退したら、のんびりあちこち走り回ろうと思って買ったんだ。性能的にはどれを選んでも問題ないよ。あえて言うなら足付きがいいとか、センタースタンドをかけるのが楽か? とか、ライディングポジションが楽か? とかで選べばいいんじゃないかな。もっと言うなら自分にとって、どのオートバイが一番格好いいかで決めても良い。」


「なるほど。」


美生と佳は代わる代わる4台のオートバイに跨がったり、センタースタンドを上げ下ろししたりしている。和之はカーミットチェアに座りながら、その様子を嬉しそうに眺めていた。


「決まったかい?」 和之が尋ねた。


「美生、君が先に選んでくれ。」

「わかった。私はモトビ。」

「私はヴェスパにする。」


「決まったな。じゃあ、俺はツーリングまでに、この2台を動かして調子を出すようにする。ただ、もし大きな不具合が出たらオートバイを変えてもらうことになるかもしれないから、それは頭の隅に入れておいてくれ。」


「「よろしくお願いします!!」」美生と佳は頭を下げた。


「昼ご飯ができたぞ。」父の貴生たかおが声をかけた。


昼食は貴生が作ったパスタだった。美生の家の休日の昼食の定番であり、佳も良く食べている。ニンニクと玉ねぎをみじん切りにしてオリーブオイルで炒めてトマトソースに入れて味付けしたものをパスタにからめただけの一品なのだが、どういう訳か、貴生はこれしか料理を作ろうとしない。とても美味しいが、人に会う用事がある時は食べにくい料理でもある。


佳はお昼を食べると礼を言って帰った。その後ろ姿を見ながら、美生は和之に頼んだ。


「佳はまだ教習所に行けてないの。免許が間に合わない可能性もあるから50ccのオートバイも一台準備してくれないかな。」


原付免許なら学科試験と講習だけで取れる。


「俺が持っている50ccは、1948年のDucati ドゥカティ Cuccioloクッチョロと1955年のMotom モトム48SSの2台だけど、モペッドというペダルの付いた自転車の親戚みたいなオートバイだからツーリングには厳しいぞ。あえて選ぶならモトムだけど、わかった、モトムも動かしておく。」


「ありがとう、おじいちゃん。」


とりあえず故障せず、走り続けることができればツーリングはできる。荷物はなるべく美生の方に積んで、走行ペースも落とせば良いのだ。


これで、北海道に行くための準備は本格的に動き出した。あとはルートを決めてフェリーやキャンプ場を予約しなければならない。もう一つ重要なことが残っている。アルバイトだ。ヘルメットやブーツは祖父の和之や父の貴生が買ってくれたから、自分で買うのはレインウェア位で済む。荷物を入れるバッグやテント、シュラフも家にある。だが、旅費は自分で稼がなければならない。


さて、どんなアルバイトをしようかな? それさえも楽しみな今の美生でありました。

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