第18話 柳生新陰流奥義・無刀取り!
男の手が
「ガハッ!」
不思議な事に、みどりの目には但馬守は相手に触れていないのに男が勝手に手の動きに合わせて宙に舞った様に見えた。
それは若い男達も同じようだ。
「おい、ジジイ! てめぇ、何しやがった!」
「
「訳分かんねぇ事抜かしてんじゃねぇぞ、ジジイ!!」
今度は逆上してナイフを取り出した男と長身のバネのありそうな男が、但馬守の両側から奇声をあげながら襲い掛かかる。
「あ、危ない!」
声を上げたみどりに余裕の笑みを返した但馬守が両手をクルッと回すと、またも襲い掛かった二人が宙を舞い、背中から叩き落とされた。
残った二人は眼前で起こる不思議な光景に
「そこの二人、次はそなたらの番じゃ」
但馬守から声をかけられた二人は悲鳴を上げながら一目散に逃げ出してしまった。
「やれやれ、
そう言うと、寝転がっている3人に喝を入れて無理やり起こし、脅しを掛けて退散させる。
「
小さな悲鳴を漏らしてフラフラと去っていく三人を見届けると、但馬守はシルクハットの角度を直しながらゆったりとした足取りでみどりに近づいてくる。
「危ない所を助けて頂いてありがとうございました!」
「よい、それより
「はい!大丈夫です! あ、あの……今の技は念力か何かですか?」
但馬守は一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、すぐに口を開けて笑い出した。
「はははは、そう見えたか! これは愉快! はははは」
何がおかしいのか分からずに戸惑っているみどりに但馬守が声をかける。
「あの技は『
無論、念力などではないのだが、ご先祖様の無刀取りもまるで念力の様だったと伝え聞いておる故、ワシの技もついにその域に至ったかと思うとつい嬉しゅうての」
「はぁ、そうですか……」
みどりには話の半分も分からなかったが、怒られる事がなさそうなのは分かった。
「それよりそなた、ここで何をしておった? まさか
「あ!」
「やはりか……、
「そ、そうですか」
「それより、そなたの仕事は
「はい、すみません」
「まぁよい、それよりそなた、犬江と一緒におった女の方に心当たりはないか?」
その女こそがまさに猫江の彼女なのだが、それが何故犬江親兵衛と一緒にいるのかは、みどりにも分からない。
その事を話すべきかどうか迷ったが、今話せばきっと猫江が犬江親兵衛とグルになってると疑われるだろう。
もちらん、その可能性が無いとは言えないが、猫江本人と会ったみどりの勘はその可能性を否定している。
なんとも
「い、いえ、分かりません」
「そうか、まぁ、
「そうですね、多分、犬江親兵衛が貢がせてる客だと思います」
「うむ……」
何事か思案する様に口をつぐんだ但馬守に思い切って提案してみる。
「あの、但馬さん! 私が段取りを付けますんで一度猫江さんと会って貰っても良いですか? できるだけ協力する様にと山下からも申しつかってますし」
「猫江? しかし、彼奴は犬江親兵衛と同じ店で働いておる
「でも、同じ店で働いてるからこその情報もあるかもしれないし、それにもし犬江親兵衛の仲間なら逆に利用もできませんか?」
「ふむ、
「ありがとうございます!じゃあ、段取り付けたら連絡しますね!」
礼をして急いでホテルに戻ろうとするみどりに背後から声が飛ぶ。
「それまでは1人で危険な事に首を突っ込むでないぞ!」
みどりは振り返って一礼すると、キャリーバッグを抱えてホテルへと駆け出した。
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