第15話 柳生但馬守、参上!
『で、どうするのじゃ?』
キャリーバッグから出てみどりの
「どうするって言われても……」
チャラいホストになっていた猫江にお金をチラつかせて何とか言いくるめればいいや程度に考え始めていたみどりにとって、
思いがけずヘビーな状況に
「まずは山下課長にお金の相談よ! 私たちだけで犬江から
『ふむ、まぁお金の
(急に四億出せって言ってもあの山下課長がすんなりOK出す訳ないわね、何か理由をこじつけないと……。
それにOK出たのに猫江さんに断られたら私の立場がなくなっちゃう、今晩もう一回お店に行ってなんとか説得しなきゃ!)
そう思い直すと、現金なものでお腹が空いてきた。
腹ごしらえとばかりにスマホで調べたウニ丼で有名な
膨らんだお腹を落ち着かせるように熱いお茶を飲んでいると、隣のテーブルにダークグレーのスーツに身を包みステッキを持った老紳士……と呼ぶにはややギラついた目をした六十歳前後の小柄な老人が腰を降ろした。
浅黒い死人の様な
年齢の割にがっしりとした体格から言いようのない存在感を放つその男は、チラチラと様子を伺うみどりに気づいたのか鋭い視線を向ける。
いや、正確にはみどりの傍らのキャリーバッグにと言った方がいいだろう。
視線に気づいたのか、ウニのおこぼれに預かれずに
「やはり、
馬琴の姿を確認して、その男が馬琴に声を掛けて来た。
目はギラついたままだが、表情には
「馬琴ちゃん、知り合いなの?」
驚いて問いかけるみどりに、馬琴は短く
『
「えっ!?この人が
みどりは目を見開いてその老人を凝視した。
剣術の
『但馬よ、この
「ほぅ、この
意外そうな表情でみどりの方に目を向けた但馬守に、慌てて名刺を取り出して挨拶をする。
「は、初めまして、総務局文書課の滝沢です!山下から協力する様にと承っておりますので、何かあればお申し付けください」
「
それにしても、いくら
(え?お父さん?)
不意に飛び出した父親の話にみどりは思わず聞き返した。
「但馬さんは私の父の事をご存じなんですか?」
「う、うむ……、知っておると言っても職務上名前を知っておる程度じゃ、それより八猫士探しの方の
但馬守は平静を装ってみせたが、ギラついていた目には狼狽と
みどりにはその意味は分からなかったが、但馬守がこれ以上この事について喋る気がないのは分かった。
「八猫士の一人・猫江親兵衛の所在は確認して、現在任務について交渉中です。
それと、偶然ですが敵の八犬士の一人・犬江親兵衛も発見しました」
「うむ、山下殿より報せが届いておったな、
(ば、売春茶屋!? どうして時代劇口調だとこうも生々しくなっちゃうのかしら?)
言葉の響きに赤面しながらも、みどりは但馬守の疑いを否定した。
「猫江さんが八犬士の仲間って事は無いと思います、私が話すまで犬江親兵衛の事は知らなかったですし、彼にも色々事情があるみたいで……、仕方なくあんな所で働いてるんだと思いますよ」
「そうか、じゃが知った上でこれから仲間に加わるという事もある」
「そ、そんな!」
「事情があるとそなたも言うたではないか、
「それはそうですけど……」
「いずれにせよ、充分に注意いたせ。くれぐれも無理はするでないぞ、生きておればこそ親父殿に再び会う事も……」
「えっ!?」
また父親の話をしかけた所で邪魔が入る。
「お待たせしました!ウニ丼ダブルです!!」
「おぉ、これは美味そうじゃ!早速頂くとしよう!」
これ幸いと丼を書き込む但馬守からはこれ以上話を聞けそうにない。
「それでは私たちは失礼します、何か分かりましたらご連絡いたします」
残念さを押し殺す様に席を立つと、間の悪い店員の背中に恨めしそうな視線を浴びせてから、伝票を引っ掴んでレジへと向かった。
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