ふまじめなあとがき

(注意)タイトルにとあるように、このあとがきは裏話・ネタバレ・筆者の自己満足を多分に含みます。それでもよければお付き合い下さい。



”彼の鳥は生きている”楽しんで頂けたでしょうか。楽しんで頂けたのであれば大変嬉しいです。


前作の医療小説で完全燃焼した私は、次に何を書くべきかでしばらく悩んでいました。候補として「より細かい医療知識に踏み込んだ診療エピソード(つまり前作の続き)」か、「ジャパリパークのドロドロとした闇の部分を描く話」の2つがあったのですが・・・


細かい医療知識ばかりを書いても全く面白くないだろうし、かといってパークの暗部を主軸にすると、フレンズがひたすら虐げられる大変後味の悪い作品になりそうだ。

うーむ・・・


かなり考え込んでいました。一方それと平行して、リアルの方で「親」や「大人」について深く考える機会があり、自分の脳内で「フィクション」と「現実」の悩みが自然と繋がっていきました。そしてある日私はポンと思いつきます。


今私が悩んでいることを、自分の作った物語の中で主人公と一緒に考えてみれば良いんじゃないか?


そのようにして「染色体という医学的知識と過去に行われたヒトの卑劣な麻薬犯罪を背景にした、ティーンエイジャーの成長物語」という、この物語の枠組みができたのです。



今作では前作での反省点を意識し、なるべくコンパクトに話をまとめられるよう努力しました。具体的には以下の2点を目標に、今作を書き進めていきました。


①プロットで想定したスケールと深さのストーリーをきっちりと書き切る。

②毎回のエピソードは1万字を超えないようにする。全体の文量は文庫本の小説1冊程度(10万字〜15万字)で収める。

(☆)始めたストーリーは責任を持って終わらせる。


最終的に何とか目標を達成できました。読者の皆様、ついてきて下さりありがとうございました。


しかし他の部分では反省もあります。

大きな反省としては、第三〜第五篇あたりでストーリーが中だるみしてしまったことです。鵺島の暗い過去についてダラダラと記述する展開が続いてしまい、自分でも書いていて「やっちまったな」と思いました。後でも書きますが、こういう経緯があったために、登場させる予定のなかったセンとアルマーを賑やかしキャラとして急遽投入しました。この構成の失敗はちゃんと反省し、次回作に活かしたいと思います。

他にも失敗点はきっとあるはずです。もし読者の方の中で、「ここが読みにくかった」とか「ここに矛盾が発生している」など、気づいた方がいらっしゃいましたら教えていただけると助かります。


☆舞台設定

2075年のパークが舞台です。ちょうど100年前にベトナム戦争が終了しています。ジャパリパークプロジェクトの設立は2030年代、パークセントラルが建設され営業が始まったのが2040年代後半と勝手に設定しています。端的に言うと今回の舞台は前作の9年後です。

ジャパリパークが地球上のどこにあるのかは、公式でも言及されていません。なので太平洋の西側、台湾に近い海域にあると勝手に設定しました。出てくる食べ物にアジア系の料理が多かったのは、このような地理的背景があったからです。北港のあるアンインエリアはパークの北部にあり、それよりも更に北にクプ島(鵺島)があります。

孤島が舞台となった理由は、筆者が金田一耕助シリーズのファンで、「獄門島」のような島での奇怪な事件を書きたかったからです。でも一番好きなのは「悪魔の手毬唄」。



☆主な登場人物に対するコメント

・セキレイ 声のイメージは日高里菜さん

本作の主人公。

子どもだったセキレイが大人になっていく、その過程を描くことが今作の大きなテーマでした。

ターナー症候群の発覚をきっかけに、父親がフレンズを虐げた悪人ではないかと思い悩んで心は荒れ、ついには家出してしまいます。そんな自暴自棄になったセキレイを救ったのは、当初面識のなかったセンとアルマーの二人でした。マイペースで陽気な二人と関わっているうちに、セキレイは元気を取り戻し、一皮剥けたティーンエイジャーとなって鵺島に向かっていきます。

人は基本一人で生きていく生物。しかし他人と触れ合ったり、笑い合ったりすることは人生の奥行きを深くし、面白くしてくれるものです。人と会って話すことが自由にならないこのコロナ禍において、私はその重要性をひしひしと感じるのです。


・オオカラス 声のイメージは中尾衣里さん

本作のもう一人の主人公。オオカラスの種族は初期プロットでは”ヤタガラス”でしたが、ヤタガラスはNEXON版けものフレンズに既に登場していたため、同じ三足烏である”金烏”に変更しました。ちなみにオオカラスという名前の動物は存在しないようです(オオラスはいる)。

本作ではオオカラスの「親心」と「精神の蘇生」がもう一つのテーマになっております。ヒトの犯罪により生まれた鵺と孤独に闘うこととなったオオカラス。その精神は長い闘いによりすり減り、閉じていきました。そんなオオカラスの前に、ある日親友の子どもの生まれ変わりであるセキレイが現れました。セキレイとの出会いにより、オオカラスは再び生きる意味を得ることとなります。そうして我が子のように真心込めて育て上げたセキレイに、今度は自分が救われることになるのです。

セキレイが「大人になろうと足掻く子ども」であるのとは対照的に、オオカラスは「子どもな部分を捨てきれない半・大人」です。この点を強く意識してオオカラスを描きました。


・博士と助手

前作より引き続いて登場の博識コンビ。相変わらず博士は賢さに全振りしたキャラ付け、助手はパワー系常識人というキャラ付けです。この二人は最初、鵺島にあるヘロインを処分するためという、かなりドライな理由でオオカラスに同行していました。しかし旅の過程でオオカラスと仲良くなり、オオカラスを精神を救いたいという温かな気持ちを持つようになっていきます。なんだかんだいいながらいいヤツらなんです。


・ヒイラギ 声のイメージは真田アサミさん

イエイヌのフレンズであり、若手医師。前作ではサキの助手をしていたヒイラギ、今作では立派にサキの代わりを果たしました。そしてエピローグをセキレイと担当してくれました。当初ヒイラギをここまで活躍させる予定はありませんでしたが、筆者としては成長したヒイラギの姿をどうしても書いてあげたかったのです。お疲れ様でした。


・サキ 声のイメージは小清水亜美さん

ヒイラギの指導医のフレンズ。フレンズ(ハブ)とセルリアンのハーフという少々変わった生まれの医師です。今作では9年目の医師になっており、頼りがいのある先生として登場しています。前作の主人公でもあるサキは紆余曲折を経て、医師として活動しています。サキの歩みを知りたい方は、ぜひ前作”みつめたさきは”を読んでみて下さい。カルテ1だけでも良いので。


・センとアルマー

「皿洗いから傭兵までなんでもやる」のがモットーの探偵兼なんでも屋“よろずや“の二人。

先に述べた構成の失敗により、序盤から中盤頭にかけて重苦しい展開を続けて描くことになってしまいました。この問題を解決するためにはシリアスブレイクができる賑やかし的なキャラクターを登場させるのが良いと判断し、採用したのがこのセンとアルマーです。この2人はプロットでは博士の協力者という設定があっただけで、登場させる予定はありませんでした。そのためセンとアルマーのキャラクター設定はほぼ白紙だったのです。

とりあえず私はキャラクターを作るためにセンとアルマーの立ち絵を描いてみました(実はこの作品、最初に全キャラクターのイメージ絵を描いてからキャラ設定をつくっていました)。すると出来上がったのは、釣り眼で澄ました顔のセンと、こちらを向いて不敵な笑みを浮かべるアルマーの姿。


「この二人おもろそうだな。動かしてみよう!」


私はそう直感し、勢いのままにセンとアルマーのキャラ設定をこさえ、第六篇より投入しました。マイペースなセンとお調子者のアルマーが、読者の方々にどのように受け止められたかはわかりません。しかし少なくとも私は登場してもらって本当に助かったと心から思っていますし、何よりこの2人がとても好きになりました。


ありがとう。セン、アルマー。次回作は君たちが主人公だ。


ちなみにセンはシャーロック・ホームズシリーズが、アルマーは銀魂がお気に入りだそうです。


・ヨウ 声のイメージは小西克幸さん

セキレイの父。100年前に死亡。短髪で浅黒い肌をした、笑うと見える白い歯がチャームポイントのアジア人男性です。

フレンズたちを心から愛し、実際にフレンズと結婚し子をもうけた男。その優しさは妻はもとよりオオカラスたちにも好かれ、信頼されていました。きっと実直で逞しい、いい男だったのでしょう。彼はベトナム軍で工兵として働いていたため、土木工事や機械については非常に詳しく、その性質はセキレイへと受け継がれています。

この”ヨウ”という名前は、なるべく国籍が連想されにくい名前にしようという考えのもと決定されました。ヨウであれば、「陽太」など日系の名前、「楊・瑤」など中華系の名前、その他のアジア圏の名前としても不自然ではないと思いましたので。従ってヨウがどこの国の人かという設定は作っていません。他に「ショー」「リン」などが候補にありました。


・先代セキレイ 声のイメージは南條愛乃さん

セキレイの母。100年前に死亡。

ヨウの妻、オオカラスの親友。セキレイと同じハクセキレイのフレンズですが、羽毛のデザインや顔つきは少し違います。先代セキレイは、セキレイよりも全体的に顔のパーツが丸く、優しい雰囲気を持つ女性です。

ヨウと先代セキレイは「ヒトとフレンズがともに生きる楽園」という、2075年のジャパリパークにもつながる思想を、プロジェクト成立よりも60年も前に構想していました。100年の時を経て二人の思想が実現されたパークの姿は、あの世にいる二人の目にはどのように映っているのでしょうか。



・ヨウを除くヒトの連中たち5人

この物語を引き起こした外道な悪役どもです。彼らが行った行為は、強者が弱者を虐げ踏みつけにするという卑劣極まりない犯罪であり、ヒトの歴史で幾度となく行われてきた行為です。何百年、何千年経とうがヒトの本質は変わらないのでしょう。

この5人にはそれぞれ名前があります。ここで彼らの設定についても少し書いておこうと思います。


BOSS:連中のボス的存在だったベトナム人。ベトナム南軍の元高官であり、英語が堪能です。軍に在籍していたころから麻薬の密売に手を染めており、アメリカ軍からマークされていました。こいつが諸悪の根源です。

エノ:英語ができるベトナム人の元ヤクザ。イケメンだがサイコパス。島民のフレンズをナンパして洞窟に連れ込み、ヘロイン漬けにしたのはこいつです。

ダン:中国人の傭兵としてベトナム戦争に参加していました。5人の中ではヨウと最も仲の良かった人物です。貧しい漁村の出身でお金に執着する癖があり、BOSSの犯罪に加担してしまいます。しかしBOSSに捕らえられ拷問にかけられるヨウを見ていられず、隙を見てヨウを逃してくれました。金に釣られて犯罪に手を染めながらも、友やフレンズたちへの良心を失ってはいなかった、人間らしい男だと思います。

チョーク:農家の生まれのラオス人。ケシの栽培や麻薬の製造法を知っていた人物です。用済みになった後、BOSSに始末されました。

アニン:カンボジア人の元ゲリラ兵。力持ちなマッチョ。性格的にはBOSSに負けず劣らずゲス野郎だったようです。


当初は彼らがフレンズに対して行っていた残虐行為をもう少し細かく書く予定でした。しかし、そこが物語の本筋ではないし、何よりフレンズ達やオオカラスが可哀想に思えてきたので、バッサリとカットすることにしました。


・鵺

物語序盤では実在する妖獣と思われていましたが、実際には存在せず、ヘロイン中毒者のフレンズの奇声のみが「鵺」という虚像をつくっていました。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ということわざがありますが、その言葉通りのキャラクターです。その他、東方projectの「封獣ぬえ」というキャラクターの設定も参考にしています。



☆サンドスターについて、本作での見解

けものフレンズという作品の世界観にSF的な深みを与えているのが、このサンドスターという特殊な物質の存在です。動物にヒトの身体を与えてフレンズを生み、セルリアンのエネルギーとなり、気候や環境の形成にも大きく関わっている未知の物質ですが、この作品ではサンドスターの「フレンズを生む」作用に特に注目しています。サンドスターがフレンズを生む3つの条件については作中で触れた通りですが、3つの条件を解釈すると、以下のようなことが言えます。


生きた動物でも、死体でも、そこにサンドスターと”かがやき(思い出)”さえあれば、フレンズの身体を得る。


これが本作のトリックの根幹をなす、”死者蘇生”という考え方です。この考えに基づくと、ジャパリパークは生者に混じって元・死者のフレンズが歩いている不思議な場所ということになります。


つらつらと書きましたが、これはあくまで今作での私の見解です。サンドスターの詳細部分については、「まだ分かっていないのです」ということでご理解下さい。



☆各話タイトルについて

作品を書き進めていく上では、何かしら基本の方向性を決めておくようにしています。前作ではラッセルの「幸福論」を指針とした私ですが、今作では3つの楽曲に指針を見出しました。この3曲は作品のテーマ曲として、ストーリー展開に困った時などに聴くようにしていました。この作品の羅針盤となってくれた3曲に敬意を払い、いくつかのエピソードタイトルに3曲の歌詞を引用しています。いずれも名曲だと思いますので、是非聴いてみて下さい。


エニーワン・ノスタルジー/秋山黄色

https://www.youtube.com/watch?v=Md4xYht73T8

ティーンエイジ・ネクラポップ/石風呂・ネクライトーキー

https://www.youtube.com/watch?v=nQZAL6QF7nk

居場所/ LEGO BIG MORL


それ以外のタイトルは自分でつけました。出来の悪いタイトルがあったら、多分それは私が考えたものです(笑)



☆終わりに

この作品は私にとってかなりの挑戦となりました。前作以上に舞台設定や時間軸を細かく考えなければならず、一方で文量も長くなりすぎないよう調整する必要があったからです。プロの作家さんや脚本家さんは本当にスゴい人たちなのだなと痛感しました。

それでもこの作品を最後まで書き切ることが出来たことは、私にとって大きな自信となりました。エピローグの最後のセキレイのセリフは、プロット初期からずっと温めていました。そのセリフを物語の最後にセキレイにちゃんと言わせてあげることができた時は、本当に嬉しかったです。


最後に。ここまで読んでくれた皆様、本当にありがとうございました。

また次回作でお会いしましょう。


今後ともご贔屓によろしくっ!!



小向涼太 拝

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