彼の鳥は生きている

平衡

プロローグ 狭霧の島さ 鵺の島

世界中、あらゆる地域で言い伝えや説話という文化は存在する。勿論ここジャパリパークにも言い伝えはある。今、パークの図書館の静謐な館内で、アフリカオオコノハズクのフレンズ・博士とワシミミズクのフレンズ・助手、この二人の視線を釘付けにして離さないモノが、その内の一つである。

二人がじっと見つめている卓上の紙面には、パーク北西部に位置するアンインエリアに伝わる、ある唄が記されている。


狭霧さぎりの島さ ぬえの島

気狂い娘の 姦しき

声を響かせ 来たりけむ

命惜しくば 寄らぬべし


悪しきあやかし 鵺の血を

啜りし者も その子らも

永久とわにとらわれ 鵺の

惹かるる前に とく逃げよ


「七五調の唄に仕立ててありますが、これはどっからどう見ても警告文なのです。」


助手の言うことに博士は頷き、”鵺”という文字を指さす。


「鵺・・・というあやかし、妖獣がいるこの”鵺の島”は、危険だから近づくなと、そういうことを言っているのです。」

「実際、この島は付近のフレンズからは”鵺島”と恐れられ、誰も寄りつかない島になっているとのことです。本当に鵺なんてものが存在するのかは半信半疑ですが。」

と、鼻を鳴らす助手の傍らで、博士は腕組みして言う。


「アジアのある国に、鵺という気味の悪い声で鳴く妖獣が出てくる伝説がいくつかありますが、尾がヘビだったり狐だったりと、伝説によって姿の描写はまちまちです。一説によれば、トラツグミとかレッサーパンダとか言われていますが、結局鵺の正体は不明なのです。」

「これだけおどろおどろしい唄が残されておきながら、その正体が実はレッパンでしたとなったら超可愛いものですがねぇ、ふふふふ。」


助手が不敵に笑うので、博士もそれにつられて肩を揺らす。


「ふふふ。まあ、その正体を調べて欲しいというのが依頼人の要望なのです。」

「ああ。ここキョウシュウエリアの漁協のフレンズでしたっけ、依頼人。」

「ええ。この言い伝えが不気味で漁がやりにくいから調べてくれ、ということなのです。報酬は山盛りの干物や珍味なのですよ。じゅるり。」

「そうですね。冬になる前にさくっと片付けて、美味しい海の幸をゲットしてやるのです。じゅるり。」


こんな軽い気持ちでこの依頼を引き受けたことを、後に二人は大いに後悔することになる。”命惜しくば 寄らぬべし”と歌われるこの唄は、真実を伝えていたのだ。



の鳥は生きている−

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