第3話 睨まれた蛙と鎌の遣い手
ご存じですかと聞かれても何を言えばいいのか、分からなかったので、取り敢えず、思いついたことを、アルドは口走ってしまった。
「え、永遠の命?何だかよく分からないけど…、俺達…、えーと何だかよく分からない世界に来ちゃったみたいで、いや、頭がおかしいとかそういうことじゃないんだ。その、要は今晩寝る所とかないんだ…。も、もし良かったら、と、泊めてくれないかな?なんて…。」
(待つでござる!アルド!いくらなんでもそれは、慌てすぎるうえに不審がられるのでは?)
(いや、急に入りたいていうのは、やっぱりまずいって。)
女性は、アルドの返答に対し、少し困ったような表情をしていた。
ああこれはもうだめだとサイラスは、顔に手を当てる。
しかし、返ってきたのは、意外な言葉だった。
「分かりました。見ず知らずの世界に来ると、どんな者であれ慌ててしまうものです。一見ると、あなたは魔獣と共にに行動していらっしゃるようですね。でしたら、ひとまず私たちの教団”回帰命”の拠点に寝泊まりするのがよろしいかと思います。」
(おっ、何だか行けそうだぞ!俺って演技が上手いのかな?)
(偶然でござろう。)
「それでは、参りましょう。あの、どうかなさいましたか?」
「い、いや、なんでもない。」
「そうですか…。」
女性に案内されるまま、アクトゥールの外れにある人喰い沼の入り口に向かった。
人喰い沼の中は、相変わらず妙な植物が生え、スライムやらフォッシ・ルー、シーラスといった魔物がうようよい居た。
どう考えても人間が拠点に出来るような所ではない。
サイラスが以前住んでいたという点は除いて。
(むう。拙者の元居たところを勝手に拠点にしおって…。)
(おい、サイラス。静にしろって。)
「本当にどうかなさいましたか?」
「本当に大丈夫…なはず。」
「そうですか…。」
女性は、アルド達のことを本当はどう感じているのか、何だかよく分からない。
ロキドはどうしたのだろうか、先ほどから何もしゃべらない。
アルドは、歩きながらロキドの方を振り向いた。
特に動揺もせず、黙って付いてきている。
こういうことには慣れているのだろうか。
「あのさあ、ちょっと聞きたいんだけど、いいかな。」
思い切って聞いてみることにした。
「何でしょうか?」
「いや、その俺たちみたいなのが''回帰命''に入ってもいいのか?」
「俺たちみたい?ああ、そうですね。私たちの信者の中には、人間であったり、魔獣であったり、まあ正確には、そういうものだった者が多いと言った方が正しいですね。」
「そうなのか。」
「はい。」
また、会話が途切れた。
長時間こんな気まずい状況にいるのは、正直酷だ。
早く目的地に着かないのかと考えていると、急に女性は立ち止まった。
「ん?どうかしたのか?」
「ここですよ。信者の皆さんがいらっしゃいますから、きちんと挨拶なさってください。」
三人共周りを見渡したが、女性一人しか見当たらない。
「何を言っているのでござるか?そなたしかおらんではないか?」
「アルド!サイラス!よく見ろ、何かいる!」
ここに来て、ロキドは一番大きな声を挙げた。
前方を見てみると、蜃気楼のように何かが沢山いるのが見える。
宙に浮かんでいるのだろうか?
次第に奴らの輪郭がはっきりしてきた。
そこには、全員が黒フードを身に纏った奴らがいた。
そして、彼らはアルド達の周りをぐるっと囲んでいたのである。
「な、どういう原理なんだ?」
三人共ただ信者たちを見つめることしか出来ず、立ち
そいつは、周りの信者たちと異なり、複雑な白い
「よくいらっしゃいましたね。」
「大司教様、恐れ入ります。この方たちは、事情がございまして、今晩泊るところがないのだそうです。
話しかけてきたのは、ロゼッタが言っていた大司教だったようだ。
「では、新たな信者ではないのですね?よろしいのですか大司教?」
「三人ぐらいの寝床を提供するくらいなら何とも思いませんよ。」
「あまり良いとは思えませんが。」
大司教の隣にいる奴は補佐だろう。
アルド達のことを歓迎しているとは言い難い。
「せっかくお越しいただいたのですから、これから行う詠唱を聞いてみたらどうでしょうか。それほど長いものではありませんから。」
「詠唱?」
「はい、そうです。」
「それでは皆さん始めましょうか。」
「はい。」
「老い、苦しみ、悲しみ、そして死を恐れる、これらの中で生きる者たちよ。これらの障害から解放されることを願い、私は稚拙ながらもこのような神聖な場を設けました。不老不死を授けるような戯れ言を述べる輩は、多くありました。しかし、そのような戯れ言ではなく、私には本物の''永遠の命''を授ける能力を天からいただいたのです!」
(なんだこれ?ひでぇもんだな。)
ロキドの小声は、誰にも気づかれなかった。
「そして、今ここにいる者たちは、''永遠の命''を受け取り、多くの障害から解放されたと言っても良いのです!
それでは、詠唱しましょう。
一、永遠の命は、流転するものなり。
一、永遠の命は、全ての者に与えるべきものなり。
一、永遠の命を受けとる権利を阻害するようなことはあってはならない。
一、永遠の命を疑う者がいるのなら、厳罰に処すべし。」
(やべぇやつらだな。)
ある程度述べた所で、大司教はサイラスの方を向いて、一言述べた。
「さて、サイラスさん。」
「む?なぜ、拙者の名前を知ってるのでござるか?」
「私の命は、永遠であるが故に、全知全能、全てを知っているのですよ。」
宙に浮かんでいた大司教は、ゆっくりと地面に降り、サイラスに近づいていった。
「さて、サイラスさん、今度はあなたのことについて、語りましょうか。」
「何を…、でござるか?」
黒フードの中に見える口元が少し笑っている。
人ではない集団に周りから見られ、これから自分のことについて何か話されるのはいい気がしない。
「あなたは、元々何らかの呪いを掛けられたてそのお姿になったようですね。ですが、未だに呪いは解かれていないと見えます。」
「ふん。それがどうしたでござるか。」
「呪いが解かれず、蛙の姿のままであっても、人間としての心は失わなかった。それは、兄上であるヴァーンさんに対する優しさも含めてだ。しかし、悲しいことにヴァーンさんは亡くなってしまった。」
「何が言いたいのでござるか?」
「もし、貴方の師匠による奸計が無かったら、貴方と兄上ヴァーンとの兄弟子間での溝も無かった。ましてや、ヴァーンさんが死ぬことも無かったでしょうに。」
「それは、拙者の師匠が妙な策略を企てたことが、全ての元凶であると言いたいのでござるか?」
「そういうことになります。ヴァーンさんも可愛そうですね。よく考えもせずに師匠に促され、秘伝書を盗んで出ていくなんて。なぜ、貴方の師匠がそのようなことをしたのか理由知りたくありませんか。」
「知りたくもないでござる。」
「どうでしょう。我々の教団では、死者を蘇らせそのまま永遠に生きながらえる術を持っています。あなたの兄上を生き返らせてということも可能ですが。教団に入ってみる気はございませんか?」
兄上のヴァ―ンのことはアルドも知っている。
その場面では、アルドとサイラス自身しか知らなかったはずだ。
嘘なのか本当なのか、サイラスは、頭の中で考えを巡らした。
師匠がそのようなことを?いや、そんなことはありえない。
だが、この大司教の証言が本当でそのことに気づいていたのならば、兄上と戦うことはなかっただろうにと。
考えを巡らしているうちに、サイラスは一つの答えにたどり着いた。
「ご高説感謝!しかし…、お断りするでござる。」
「なんだと!?」
「なんて奴だ!」
「大司教様が慈悲をくださっているというのに…。」
「''永遠の命''を受けとるのに相応しくない奴だ!」
周りにいる信者達がヤジを飛ばしてきた。
だが、サイラスはそんなことで動揺しない。
すかさず刀を抜き、切っ先を大司教に向けた。
「たとえ真実であろうが、嘘であろうが、そんなことは関係ないでござる。要は、拙者のことをひどく言うのだったら構わんが、兄上や師匠のことをよく知りもせずに、くだらんことを述べるお前には、どうも勘弁ならぬ。だから、断ると言ったのでござる。こうなったら、この場で貴様らを成敗するのみ。」
「おい!サイラス落ち着け!」
今は、戦うことよりも、カトイの親父さんを連れ戻すのが先だとアルドは止めたかったのだろう。
「止めるでないアルド!円空自在流の技を受けてみよ!」
「それは困ります。出来るのでしたらの話ですが。」
「何!」
その時、巨大な音が鳴ったかと思うと、上空から雷が落ち、サイラスに直撃した。
「がっ!」バチッビリビリビリ!
「な!?サイラス!」
電撃を浴びたサイラスは、
「てめえ、何をしやがった!」
「ロキドさん、怒らないでください。こちらに危害を加えようとしたので、先に手を打っただけのことですよ。」
「…俺の名前まで知ってるのか?」
目を見開き、ロキドは大司教を見ていた。
「だから、私は全てを知ってると言ったでしょうに、あなたがたは、時空の穴についてご存じなのでしょう?」
本当に、こいつはどこまで知ってるんだ?
仲間一人が予想外な方法で負傷してしまったことで、アルドとロキドは、
このままでは、二人共やられる。
その時だった。
「いっただきぃ~!」
しかし、それと同時に、大司教の体は霧状になった。
そして、その霧は、寄せ集まり人の形を作り、黒フードを被った男の姿に戻った。
「あれ~、当たったと思ったのに~。」
「何ですか?危ないですね。そんなものを振り回して人に当たったらどうするんですか。」
「む~。大人しく刈られなよ~。」
「イルルゥじゃないか!」
「あ、アルドだ~。ヤッホ~。」
こんな状況でも
イルルゥの突然の登場に、大司教は若干しかめっ面の顔をした。
補佐二人は、すくに、大司教の傍に寄った。
「大司教様!お体に異常は?」
「気にするな。問題ない。」
「貴様!大司教様に何を…!」
「よせ、これ以上事をややこしくするな。」
二人を制した後、大司教は、右腕に巻いてある帯のようなものに手を触れた後、右手を掲げた。すると、突然青色の雷が四方から現れ、巨大な青色の渦を出した。
時空の穴だ。
「なっ!本当に…、自分で時空の穴を出し…た。」
「邪魔が入ったので、ここまでにしましょう。残念ですがね。」
「おい、待て!」
大司教と信者は、白い霧状になり、時空の穴へと吸い込まれていった。
あとは、アルド、ロキド、イルルゥ、そして倒れたサイラスの四人だけが残り、人喰い沼は静かになった。
アルドとロキドは、我に帰り、サイラスのもとに駆け寄った。
「大丈夫かサイラス!」
「ぐっ!」
「無理に話さなくていい。」
仲間一人が、自分の過去に関することを話されるだけでなく、負傷までした。
それなのに何も出来なかった自分に腹が立つ。
「取りあえず、宿屋で休ませよう。」
「ああ。」
サイラスをアクトゥールの宿屋まで運び、ベットで休ませることにした。
かろうじて、命には別状がなかったので、幸運だったと言えよう。
アルドとロキドは、なぜイルルゥが人喰い沼にいたのか理由を聞いてみることにした。
「何で、イルルゥも教団のことを追ってたんだ?」
「うん、何かね~、最近煉獄界に来る魂がいつもより多い感じがするんだよね~」
「煉獄界に来る魂が多いとは…?死んだ人たちが多いということか?」
「うん、そうそうそう~。なんかね~、たっくさんの魂の声に耳を澄ましてみるとね~。「これが永遠の命を受け取るということか」とか''永遠の命''について語ってる魂が多かったんだ。」
「つまり、煉獄界に魂が多くなった原因を突き止めるために、魂に話を聞いて、ここにたどり着いたということか。」
「そうそう♪」
「でも、あの大司教を狩ることには、繋がらないだろ。生きてる奴を狩っては駄目なんだろ。」
「いや、生きてないよ。」
何を言ってるの?というような顔で、イルルゥはアルドとロキドを見た。
いやいやこっちが何を言ってるんだと言いたいくらいだった。
何だかややこしくなってきた。
大司教は不老不死になっているのであって、死んではいないはず。
だけど、イルルゥが言うには、もうすでに死んでいる。
いやいやよく分からないとアルドとロキドは互いに顔を見合わせた。
「ちょっと整理したいんだけど、煉獄界で死んだ人が多いってどういうことだ?、結局多くの人を騙してたのか?やっぱり永遠というのは存在しないのか?」
「うーん、でもね。皆なんか騙さていないって感じてるんだよね~。まあ、煉獄界に来る魂はほとんど未練がないんだけどね~。あんまりよく分からないや~。」
結局何だかよく分からない。
あまり重要な情報はイルルゥから得られなかった。
アルドが、
「穴の先の景色は、月影の森のようだったが…。あいつら俺とアルドが元居た時代に行きやがったようだ。どうする?アルド、ロゼッタの乗った次元戦艦が来るまで待ってから行くか?それとも、ゾル平原にある時空の穴から次元の狭間を通って月影の森に行くか?を待ってから行くか?」
「ロゼッタには悪いけど、ゾル平原にある時空の穴を通って行った方がいいと思う。」
「となると、もう少し戦力が欲しいな。月影の森、つまり、あっちの時代にも信者は大勢いると考えられるし、俺かアルドがサイラスみたいに負傷したら、かなり危険だ。」
「あたしも行きたいな~!アルド~。」
「よし、じゃあイルルゥも一緒に行こう」
「もう少し戦力が欲しいんだがな…。パルシファル宮殿の衛兵たちに協力してもらうにしても、交渉したり、時空の穴の説明したりで、時間かかかりそうだな。仕方ない、俺たち三人で行くか!」
「ああ、行こう!」
サイラスのことは、宿屋のお姉さんに任せてもらうことにし、三人は月影の森へと急いだ。
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