第2話 異端者
次元戦艦に着くと、合成鬼竜が声を掛けてきた。
「今度はどの時代に行くつもりだ。」
「ああ、今回はどこにもいかなくていいよ。ちょっと次元戦艦内の部屋を貸してくれるかな。少し大事な話をしたいんだ。」
「いいだろう。好きなだけ使え。」
意外に、あっさりと合成鬼竜は、了承してくれた。
敵対してた頃と違い、今では、大分丸くなったといっていい。
次元戦艦の甲板にあるエレベーターを使用して中に入る。
その後、エレベーターで下り、すぐ近くの部屋で事の
「まさか、ミグレイナ大陸に来てすぐに教団の一人と出会えるとは、思いもしませんでした。それに、自分から白状したので、拍子抜けでしたしね。これでは、断罪の申し子の名折れです!」
「え?あ、ああ。」
ロゼッタが部屋に入って、開口一番に少し苛ついた口調でそんなことを言ったので少し驚いてしまった。
話が進まないと思ったので、取りあえず、何故アルド達が教団について調べているのか、その経緯をロゼッタに話すことにした。
「そうなんですか。では、私が知っていることを話しましょうか。」
ロゼッタは、教団についての説明を始めた。
話を聞くと、ロゼッタがアクトゥールに来ていたのは、妙な教団が巷で布教活動をしていると、本部に連絡が来ており、調査に出ていたのだ。
そして、ミグレイナ大陸に来て、たまたま、ケルリの道を歩いていたところ、
道で倒れている男がおり、保護した。
すると、その男が教団から命からがら逃げてきた元信者であったようだ。
男は、相手が宗教関係の人物だと分かるとすぐに教団のことについて知っていることを全て話した、といった内容だった。
「道で倒れていたのか…。」
「結構やつれているようにみえました。」
ロゼッタは説明を続けた。
「元信者が言うには、教団は、数千人規模の信者で活動している''回帰命''という名前だそうです。入信すれば、''永遠の命''を受けとることができるといった内容で布教活動を行い、短期間で信者を増やしたそうですよ。」
「やっぱり胡散臭そうだな。」
腕を組みながら、ロキドはロゼッタを見据えていた。
「そんなに睨まないでください。ロキドさん♪」
「あ、ああ、すまん。」
やはり、この女性と対峙するのは、どうも気が引けると感じ、ロキドは目線を少しずらした。
ロゼッタは、構わず話続けた。
「また、この宗教団体には、階級制度なるものが存在しません。幹部にあたると思われる三人がほとんど指揮を執っているのだとか。」
「数千人規模だろ。それで、やっていけるのか?」
「アルドさん、大司教とその下には、二人の補佐います。特に大司教は、すごい頭のきれる者だそうでして、その者の通りにやっていれば、うまくいくのだといってましたよ。」
「そうなのか…。」
「”回帰命”の大司教および信者たちは各地で密かに布教活動を行い、''永遠の命''に興味を持った人物に対して、後日、人気のない所に呼び出し連れて行く。その後、新たに入ってきた信者が布教活動し、似たような形で新しい信者を連れてくる。単純なやり方ではありますが、それで信者を増やしています。布教活動には、大司教も一緒に行くそうですね。」
ここで少し、ロゼッタは一呼吸置いてまた話し始めた。
「ただ、教団の本部がどこにあるのかよく分かっておらず、苦労して見つけたとしても、すぐに彼らは雲隠れしてしまうため、容易に捕まらなかったんですよ。」
「すぐに捕まりそうなものでござるが…。」
「見つけたとしても、白い霧のようなものを出し、全員いなくなってしまうんです。」
「そういえば、カトイも同じこと言っていたな。やっぱり魔物が人に姿を変えてるんじゃないのか?」
「そこまでは、分からないんですよ。ただ、今回重要な品を元信者からいただきました。」
***
「俺は、もうあそこにいるのが怖くなったんだ。だから、このリストだけでも証拠にと思って…。」
「あら?何ですか?このリストは。」
元信者は汚れた帳面を取り出し、震えた手付きでロゼッタに渡した。
紐で綴じられており、所々破れているのが分かる。
中を見ると、ページ毎に人相図や出生地、その他、当人のことについて事細かに手書きで、書かれているようだった。
「入信した者と入信する見込みがある者について、”回帰命”に所属してる奴らが書いたものだ。」
「リストは、これで全部なのですか?」
「いや、それはほんの一部だ。全部は持ってこれない。それは、ほんの一部だ。それだけ持って逃げてくるので精一杯だったんだ。」
***
「嘘をついてるようにはみえませんでしたね。手帳には、パルシファル宮殿やアクトゥールの住民で、行方不明として捜索願いが出されていた人物と同じ人物でした。なので、本部に連絡して、応援を要請しました。それに、酷く怯えていたようですし。このまま逃そうにも、助けてほしいと懇願しておりました。」
「じゃあ、その元信者だったやつは、今保護されているということか?」
「チルリルさんとプライさんの処で保護してもらっています。」
「そうなのか。あの二人が保護してるのか。なんだか珍しいな。後先考えずに、”回帰命”の居場所をむやみやたらに探そうとするようだけど。」
「あの二人には、私が適当に言っておいて、待機というような形にしておきました。」
「よ、よく二人が納得したな。」
「プライさんは、ちょっと骨が折れましたけどね。」
少し苛ついていたのは、プライを説得したことから出てきたストレスのせいかと、アルドはその時初めて分かった。
「拙者からも聞きたいことがあるのだが、パルシファル宮殿の大臣や衛兵たちとも情報共有してるのでござろう?どれくらいの人数が協力してるのでござるか?一応こちらの戦力も知っておき…。」
「してません。」
サイラスが言い切る前に、ロゼッタはきっぱりと言い放った。
「ええ!?な、なんでだ?」
「一応、大臣や衛兵たちは、彼らなりに捜査はしています。ただ、私たちのような宗教関係の人と協力することは、好ましくないと向こうは感じていますし、私も好ましくないかと。」
「うーん、ロゼッタのような異端審問官だけでなくて、もっとパルシファル宮殿の大臣や衛兵たちとかにも協力してもらった方がいいと思うんだけどなあ。」
「アルドさん、この教団は、正体不明で神出鬼没なんですよ。宗教なら宗教関係に精通している人の方がいい。普通の衛兵が介入してもどうにもなりません。」
「そ、そういうものなのか?」
「もう一つ質問でござるが、短期間で数千人規模の信者が増えた…、それ程、永遠の命が魅力的なのでござるか?」
「教団に入るほとんどの人が、病に侵されている方や死への恐怖を抱いている方、中には、学者や面白半分で入信した方もいたみたいです。多くの人間が魅力的だと感じるのでしょう。」
「ふむう。」
「結局一度入ってしまったら、抜け出すものは居なかったそうですよ。何だか変な人体実験もしているとか噂もあります。話を聞くだけでも、かなり危険な存在であると思います。」
ロゼッタは、身に着けている黒い上着の裏から、汚れた帳面を取り出し、アルドに渡した。
「これが、そのリストです。」
アルドは手帳を受け取り、ページを
「あれ?なんでこのリストにバルオキーとか、王都ユニガン出身の住人が入ってるんだ?」
「そこは、私も疑問に思いました。ただ、妙な話も聞きまして、おそらくそれに関係しているのかと。」
「妙な話?」
***
元信者は、神妙な面持ちでロゼッタに”回帰命”の大司教について説明した。
「大司教は、すごい術を使うんだ…。空中に雷を出すことが出来るんだ。」
「雷ですか。」
「そうだ。そのあと巨大な青色の渦を出すんだ。そして、渦の中には、見たこともない景色が映ってるんだけどよ。すげえな!なんて思ってたら、今度は、大司教や他の信者たちが、自分から渦の中に入っちまったんだよ。そしたら、渦ごと消えちまって…、夢でも見てたのかなと思った。いや、嘘言ってるんじゃないんだ!信じてくれ!」
「では、次の日になると、大司教、補佐、信者と一緒に、新しい信者を連れてきているというのですね?」
「ああ。そうだ。」
「あなたは、一緒に行かなかったのですか?」
「いや、俺は、その時入ってまもなかったからな。布教活動は新人がやるもんだけど。」
***
今までの話をの中で、特にありえないことを耳にしたようだとアルドは感じていた。
おそらく、サイラスもロキドも同じ気持ちであろう。
「青色の渦……、ってもしかして時空の穴か!?”回帰命”の大司教は、自分で出せるのか?」
「なんと!」
「それは‥‥‥。」
何だか今日は驚くことが多すぎる。
「ところで、これらを聞いてアルドさん達はどうなさいますか。」
「かなりヤバそうな奴らだとは思うけど…、おれは行く!カトイの親父さんを連れ戻すんだ!そして、こんな団体はすぐに解散させるべきだ!」
「アルドが行くのなら、拙者もお供するでござる。ロキドはどうするでござるか?」
「もちろん俺もやる。」
「そうですか。現在、彼らがどこを拠点にしているのか元信者に聞いたところ、人喰い沼と言っていました。」
「なんと拙者の住処だったところでござるか!灯台下暗しとはまさにこのこと!」
「でも、もう別の場所に移動していたなんてことはないのか?」
「元信者が逃げたということについては、向こうも感ずいているでしょう。」
「アクトゥールに来るという望みに賭けるわけか。」
「その通りです。ロキドさん。」
「ただ、急に人喰い沼に行くと、不審がられるため、アクトゥールで様子を見るのがいいでしょう。もう一度行けば、布教活動をしている教団内の一人には出会うと思います。」
「なあ、俺たちだけがその”回帰命”に入っても大丈夫なのか。今回は、ロゼッタも関係あるんだから、やっぱり一緒に向かった方がいいと思うけど。」
「本当でしたら私もお供したいところですよ、アルドさん。でも私は、そのカトイの家に行き、お母様の病気を診に行きます。その後、病気を治せる医者が、未来にいないかどうか行ってまいります。」
何か引っ掛かるような物言いだったが、カトイの母親を治すことも重要な役目である。
カトイについては、ロゼッタに任せることに決めた。
「布教活動している者にあったら、普通に教団に入りたいと言えば入れらしいので、それで大丈夫でしょう。」
「いや、そんなあっさりと言われても、嫌な予感しかないんだけど…。俺は、ともかくサイラスやロキドは大丈夫なのか?」
「手帳をよく見ると、連れてきた方々は、人以外にも魔獣の方も入っています。なので、サイラスさんもロキドさんも、条件はクリアしてると思います。」
ひとまず、皆でアクトゥールにもう一度向かい、ロゼッタは、カトイの家に向かった。
アルド、サイラス、ロキドは、”回帰命”に出会うまで、アクトゥール内を散策することにした。
こんなやり方で出会えるのだろうか、無計画もいいとこだと三人は思った。
アクトゥールを散策してどれくらい経っただろうか。
「やっぱりもういないんじゃないのか。」
ロキドがそういった時、アルド達に声をかける者が居た。
「すみません。ちょっとお聞きしたいのですが、あなた達は、”永遠の命”というものをご存じですか?」
身なりは、黒い服を着た若い女性であった。
露骨に”永遠の命”という単語を言ってきたので、アルド達は何を言うべきか戸惑ってしまった。
(おいおい、まさかこの人がそうなのか?でも、ど、どうすればいいんだ?)
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