魔族の俺と、人の君③




アレックスはハロルドがやってくる前から、魔族の危険性は教えられていた。 好戦的で人の命を何とも思わない連中。 機が来るまでは絶対に近寄ってはならないという教えを守っていた。 

それは今見える魔族の魔力からも、そうなのだと思える。


―――俺は平和な人間に生まれてよかった。

―――・・・あわよくば、ハロルドも人間だったら・・・。


心が緩むとそう考えてしまう時もある。


―――いや、そんなことを考えるのはよくない。

―――絶対にその過去は変えられないんだ、前を向けアレックス。


だが結局、互いに相いれないということはよく分かっている。 頭を振り甘い考えをかき消した頃には、城へと辿り着いていた。 アレックスは顔をよく知られていて、中に入ることは容易い。 

謁見の間まで案内され、王を前にして跪く。


「アレックス、今日はよろしく頼むぞ。 私の命、そして人間の未来は全てソナタにかかっている」

「はい。 汗の一滴、血の一滴を絞り出す程に、全力で食らい付きます」


顔を上げ王の顔を見ると、王はどこか切な気な表情をしていた。 人間側は魔族に負け続けている。 つまり今回も負ける可能性が高いと思われているということだ。 その時は人の命運は尽きる。 

魔法の力は絶大であり、正直なところ人はもう未来を諦めかけていた。


「せめて、な・・・。 魔王城の間取りでも分かれば、作戦は考えられるのだが・・・」


―――間取り、か・・・。

―――ん、間取り?


そこである異変に気付いた。


―――あれ、俺は魔王城へなんか行ったことがないのに、何故か間取りが分かるぞ。


そのようなことは有り得ないはずだが、モヤモヤと浮かぶその光景は頭を振っても消えなかった。 それを見てなのか王は慌てて謝った。


「あぁ、すまんすまん。 ワシが最初から不安になっていたら、駄目だよな。 気を強く持たないと」


魔族からしてみれば今日の勝負に勝ちさえすればいい。 だが何が起こるのか分からないため、王の周りは厳重に警護されていた。 かなりの高齢であり自分で自分の身を守ることなど出来はしない。

アレックスはポケットから小さな石を取り出して言った。


「大丈夫ですよ、王様。 絶対に人間側が勝ってみせます。 だって今回はほら、この魔法石がありますから」


それは20年の歳月をかけ探し求め、研究し、そして実現した秘宝だ。 魔法を打ち消す力がある特別な石。 ただ一つしかなく使用したことがないために、その効果の程は怪しい。 

だがそのようなものにさえ頼らなければならない程、人は追い詰められている。


「・・・あぁ、そうだな」


王は小さく笑ってみせた。


―――大丈夫。

―――絶対に、人間側に勝利をおさめますから。


王と話し終えると『戦う時間までしばらく休んでおきなさい』と言われ、アレックスは一つの部屋へと通された。



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