第2話 花は砂の上に咲く

 後ろで声が聞こえた。澄んだ優しい声だ。しかし少年はいまだ俯いたままだ。再び声がした。「聞こえているんでしょ?返事してよ」 少年は少し顔を上げて声の聞こえるほうに振り返った。少年の目から涙が溢れた。なぜ彼が泣いたかは誰にもわからない。でも一つだけ言えることがある。その声の主があまりにも美しく、きれいな白い肌をしていたことである。大学生くらいだろうか。暖かいベージュのスカンツにレースのフリルのついた服を着ていてグレーのカーディガンを羽織っていた。続けてその女性は声を発した。「何かあるなら相談してよ。君の助けになれたらいいんだけど.......」 「何にもないよ」少し強がったように少年が云う。一度乾いた涙がまた目に浮かんできている。「名前は?」女性が聞いた。「名前なんて.......」

と少年は云う。困った顔をして女性は少年のそばに座った。少年は顔を合わせないようにか反対側へと俯いた。少年の疲れと悲しみは顔を見ずともわかる。波の音だけが二人の周りを揺らいでいる。浜辺を横切っていた小さなカニが引く波にさらわれて白い泡の合間へと消えた。風がまた一段と冷えてきた。ふと女性が「君の名前はこれから湊(みなと)ね!いいでしょ?湊!!」—

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