血盟会(2/3)
***
ガン! ガン! ガン! ガン!
「クソッ、開かねえ!」
レジに拳銃の底を叩きつけていた男は、苛立って銃口を向けた。
バンバンバン!!
だが弾丸を撃ち込まれてなお金庫型防犯レジは頑として口を開くことを拒んだ。
「ああああクソ! クソ! 開かねえじゃねえか!」
ここは天外市内のガソリンスタンド。店員と不運にも居合わせたタクシードライバーは射殺され、床に転がっている。数分前に入ってきたこの男が平然とやってのけたのだ。
ギャング風のスウェット姿で、野球帽と防霧マスクのあいだに覗くその素顔は人間のものではない。蜘蛛めいて目が八つあるのだ。
不意に男の背後で声がした。
「手伝おう」
「ア?」
それに振り返る間もなく、男は後頭部を掴まれ、顔面からレジに叩きつけられた。
ドゴォ!!
「ンゴーッ?!」
引き起こされた男の目に、真っ赤な
男は恐怖に眼を見開いた! 裏社会で一躍有名となった男。単身で血盟会に宣戦布告し、血盟会メンバーを殺したというサイコ野郎!
「おっ……お前!?」
石音日与は血族としての名を名乗った!
「血羽家のブロイラーマン。
地獄のように冷徹なその声に、スカリーは泡を食って叫んだ。
「何でだよ! そんな理由はないだろ!?」
ブロイラーマンはスカリーの顔を床の死体に向けさせ、怒りの篭もった声で答えた。
「〝NO〟だ。ある」
スカリーの頭をレジに叩きつける! 叩きつける! 叩きつける!
ドゴォ! ドゴォ! ドゴォ!
「ンゴ、ンゴオ!? ンゴォオオ?!」
ブロイラーマンは説明を省いたが、スカリーの情報は
最近コンビニやガソリンスタンドが相次いで強盗に襲撃されており、防犯カメラや目撃者の話からあるストリートギャングが浮上した。
その男は最近やたらと羽振りが良く、毎夜高級店を飲み歩きながら「自分は血族になった」「血盟会に入ったから怖いものはない」などと意味不明な自慢話をしていたという。
チーン!
とうとうレジが壊れ、スロットマシンのように小銭をジャラジャラと吐き出した。
スカリーが悲鳴を上げる。
「ま、待て! 誤解だ! 俺は血盟会じゃない! ツバサの関係者でもねえ!」
「だろうな。お前はバッヂを着けてない。どっちにしろ死ね、フカシ野郎!」
「違うんだよ! 血盟会のヤツに頼まれたんだ! 〝血盟会入りした〟って吹聴して回れって!」
ブロイラーマンは眉根を寄せた。
「どういうことだ」
「知るか! 噂を流してあとは適当にガススタンドだのコンビニだのを襲えって。札束くれたぜ」
その瞬間、ブロイラーマンは自分の左胸にレンズのように殺気の焦点が合うのを感じた。とっさにその場から飛び退く!
ズダーン! ビシッ!
刹那、店のガラス壁を突き破った銃弾がほんの一瞬前までブロイラーマンの心臓があった場所を通過し、スカリーの頭部に誤射!
「オゲッ!」
スカリーは身をびくんと跳ね上げ、カウンターにもたれかかるように崩れ落ちた。
ブロイラーマンはガラス壁越しに外を睨んだ。向かいの廃屋の上にスナイパーライフルを構えた黒い人影が見える。
ズダーン!
ふたたび銃撃! ブロイラーマンは弾道を見切り、パンチを合わせた!
「オラア!」
ガキン!
銃弾を弾くことには成功したものの、拳から肩にかけて骨まで痺れるような衝撃が走る!
「痛ってえ!?」
ブロイラーマンは手を振って痛みを散らせた。ただの銃弾ではない。血族の超自然的パワーでコーティングされ、威力を増している。
(素手で弾くのはヤバイ!)
ブロイラーマンがガラス壁をぶち破って外に飛び出すと、狙撃手はくるりと身を翻し、建物の反対側に飛び降りた。
ブロイラーマンは影も残さぬ速度でそれを追って路地に入る! 通行人が目にしたとしても、ネオン光のように尾を引く真っ赤な鶏冠がかろうじて見えただけだろう。
「テメエが本物の血盟会か?! 俺をおびき出したつもりだろうが、釣られたのはテメエのほうだぜ! ブッ殺す!」
路地に入るとすぐさま廃車の山! 先を行く狙撃手は軽々と飛び越え、追うブロイラーマンはエンジンフードに尻を乗せて滑りながら越えた。
狙撃手がゴミバケツを飛び越えながら、後ろ足で蹴り倒す!
撒き散らされたゴミ越しにブロイラーマンは殺気のラインを感じた。両膝でひざまずくようにして地面を滑りながら、大きく上半身を仰け反る。
ズダーン!
ゴミのカーテンを突き破ってきた銃弾がくちばしをかすめていく!
チュンッ!
立ち上がると、ピンポン球大の黒いボールがいくつか転がってきた。ブロイラーマンの接近を探知し赤いランプが点滅する。
(なんかヤバイ!)
ブロイラーマンが地面を蹴って壁際に逃れた直後、それらは連鎖爆発した。爆弾だ!
ボン! ボン! ボン!
壁を走り爆発をかわすブロイラーマンは、ふたたび殺気のラインを感じ取る。
(眉間!)
ズダーン!
向かいの壁に飛び移った瞬間、彼の頭部があった場所を寸分違わず銃弾が通り過ぎていく。驚異的な射撃精度だ。
地上に降りたその先は路地の出口で、交通量の多い大通りだ。狙撃手は猛スピードで車が行き交う六車線をいとも簡単に抜け、向かいの路地前で振り返って銃を構えた。
両者の視線が一瞬だけ合った。向こうは黒いロングコートに一つ目のフルフェイスマスクを着けている。胸に翼を意匠化した銀色のバッヂを着けているのが見えた。間違いなく血盟会の一員だ。
ズダーン!
走行中の車のあいだをすり抜ける、針の穴を縫うごとき超精密射撃がブロイラーマンに襲いかかる! 不意を突かれたブロイラーマンはとっさに左の拳で弾き飛ばした!
「オラアア!」
バキン!
拳が痺れ、ブロイラーマンは小さく呻いた。この銃弾を撃ち落とすのは両手一発ずつでもう限界だ。次は拳が砕けるだろう。
狙撃手は路地の奥へと消えた。ブロイラーマンは車の荷台やルーフを蹴って渡り、そちらの路地に入った。
ズダーン! ズダーン!
立て続けに放たれた銃弾をかわし、あるいはかすり傷を負いつつ、ブロイラーマンは走り続けた。
相手はツバサの、血盟会の手の者! すなわち両親の仇! 兄の将来を奪った者! 弱者を省みぬ者たち!
ブロイラーマンは死も恐れぬ闘鶏の眼となっている!
「逃がすかァアア!」
狙撃手が蹴り上げた貨物用パレットが迫ってくる。ブロイラーマンはそれをパンチで叩き割って突っ込む!
バカァァン!!
木屑を撒き散らしながらカーブを曲がると、その先の路地の終わりで相手は下に飛び降りた。
ブロイラーマンはそれを追い、躊躇することなく虚空へ飛んだ。
彼が飛び出したのはダムじみて切り立ったコンクリートの断崖のてっぺんであった。断崖の排水口から汚水が滝のように噴き出し、はるか数十メートル下に貧民街の粗末な小屋が密集している。
狙撃手は断崖上から下へと伸びる電線の上に直立し、滑り降りている。
ブロイラーマンも危なげながらどうにか電線に着地し、バランスを取り直して走り出した。
振り返った狙撃手が電線上に片膝をつく格好でライフルを構えた。
ズダーン!
ブロイラーマンはこれをジャンプしてかわした。だが立て続けにもう一発、空中にいるブロイラーマンに銃弾が放たれた!
ズダーン!
ブロイラーマンは風に泳ぐリボンじみて身をひねり紙一重でかわす!
すでに相手は目前だ。肉薄するブロイラーマンに対し、相手側もライフルを背負って両手で身構える。
ブロイラーマンは高らかに名乗りを上げた。
「血羽家のブロイラーマン! 血盟会のネズミめ、コソコソ逃げ回りやがって!」
「
「どうしてもこいつを味わってもらいたくてな! オラアアア!!」
次回 01/15(00:00) に更新予定!
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