第111話 アジャン。

 林に立ち入ったあたりから大気中のマナが濃くなったのがわかった。


 中央に行くほど濃くなって行くようなそんな気配もする。


 で、あれば。やっぱりここにも魔獣が居る可能性がありそうだ。そう思ったあたし。感覚を研ぎ澄ませて周囲の魔力を感知しようと立ち止まる。


 ヒューイ


 ん?


 口笛の音?


 ザッ ザッ っとテンポ良く走りくる動物の足音も聞こえる!


 ザザっとあたしの前に現れたそれは。


 竜? 馬? 馬くらいの大きさの竜。逞しい二本の後ろ脚で体を支えて前脚は小さい。


 って小さめの恐竜みたいな?


 手綱をつけて人が乗っている姿はほんと乗馬のようなんだけど。


 目の前に止まったその竜に騎乗したままで。


「こんな所に女の子一人じゃ危ないよ!」


 真っ赤な髪。すらっとした体躯の女性。そんな彼女。


 一人立ち尽くしてるあたしにそう声をかけてくれた。


「ああ、ごめんなさい。でも大丈夫なので」


 子供扱いされるのも面倒だとそう答えるあたし。


 でも。


「ダメダメ。今あたしら土竜を狩ってる所なんだ。こんな所にいられちゃ邪魔だし危ないんだよ。って、もう」


 そう言うが早いかあたしの脇をさっと攫って自分の前に乗せて。


「しょうがないな。どこの子供だ」


 そう言いながらまた走り出した。



 ピューイ。


 また口笛の音が響く。さっきよりちょっと甲高い?


「ああちくしょう。作戦終了の合図だ」


 悔しそうな口調でそういう彼女。


 口笛のした方向に向かって手綱を操作する。


 しばらく行くと同じように竜に乗った男女数人と仕留められたのだろう土竜。


 大きな土竜の解体を始めている人も。


「お疲れ。悪い。間に合わなかった」


「まあいいってことさ。ねえさん。その子か? なんか人の気配がするって向かったけど」


「ああ。林の入り口付近でつったってたからとりあえず乗せてきた。土竜が暴走してたら危なかったからな」


「こっちは俺とタクマでなんとかなった。今ドワンが解体してるからアジャンはその子供連れて街に戻っていいぞ?」


「悪いな。シルヴァ。じゃぁとりあえず戻るわ。山猫亭集合な」


「オッケー。じゃぁこっちもこの土竜片付けたら向かうな。ってねえさんそんな子供に手を出すんじゃねーよ?」


「ばかやろう。あたしをなんだと思ってる? まあいい。あとは任せた」


 それだけ話すとアジャンと呼ばれた彼女はまたこの竜の踵を返し走り出す。


 林を抜け行く道は朝きた方角と正反対だけど。別の街?


「っと、悪い。とりあえずアストリンジェンに向かうけど問題ないか?」


 アストリンジェン?


 なんだかとっても渋そうな名前。


 あたしはフルフルと首を振る。


 まあどこに行こうが問題はないしね?


 なんだかこの人たち、興味深い。


 一緒にいると何かわかるかも知れない。そう思ったあたしは大人しく彼女に連れられるままそのアストリンジェンっていう街に行く事にした。


 っていうか、ここ、東京だよね。


 だとしたら、もしかして渋谷? まさか、ね?

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