第101話 聖女。
暗闇の中に一点の光。
それは段々と大きくなり、スクリーンのように目の前に広がった。
そしてそこに映る爆炎。
爆炎がリウィアさまを包む。
ここまではいつもの光景。
そして、サンドラがぎゅっと手を伸ばし、その光景を掴む。
身体の周りの空間の肌触りが変わる。周囲の全て、空気そのもの、が、ぐねん、と歪んだ。
「サーラ様!」
コルネリアの声がしたと思ったら、思いっきり抱きつかれ。
そのまま、景色が変わった。
「ここは……」
緑の芝生。周りには建物があるけれど、ここは……、何処かの中庭?
ベンチがあり人工的に植えられた植物、木。
……結界に阻まれましたか。際奥の間には直接入れない、と、言う事はまだセキュリティは生きているということですね。
んんー?
どういうこと? これはどうなったの? サンドラ。
中庭に突っ立ってるわたし。コルネリアが抱きついたまま軽く目を回している。
……ごめんなさいねサーラ。
……ちょっと緊急だったから、転移したの。
転移? って……。
……空間転移。ここはベルクマールの公主館の敷地内よ。
あううあ。もしかしてさっきの空間の歪みみたいのがそう?
……そう。ほんとごめんなさい。勝手に……。
ううん。ありがとうサンドラ。うん。リウィアさま助けよう。
……うん。ありがとうサーラ。
「え、と、あの……。サーラ様……。これはいったい……」
ようやくコルネリアの意識が戻ったっぽい。でも、すごく混乱してる、ね。
「ここはベルクマール大公国よ。わたくしたちはここまで空間転移してきたの」
ああ、コルネリアがまた固まった。目を見開いて停止してるよ。
まぁしょうがないか。わたしでもびっくりだもん。
……コルネリアには、戦力になってもらいましょう。
うん。まずは防御膜を……。
精神を集中する。わたしの体から金色の粒子が溢れてそしてそれは魔力の膜を形づくり。
わたしとコルネリアを包むように囲みそして燃えるように湧き上がる。
まるで金色の炎に包まれたように。
「ねえコルネリア、よく聞いて。これからわたくしはリウィア様を助けにこの館の際奥の間に赴きます。途中賊の妨害が予想されますが、あなたはどうしますか? ここに残っても良いのですよ」
目を見開くコルネリア。
でも。躊躇することなくかぶりを振って答える。
「私は……、貴女の剣です。貴女の行くところには何処にでもお伴し、そして貴女をこの身にかえてもお守りします!」
ありがとう。コルネリア。
「ありがとう。では、あなたにわたくしの剣として共に戦うことを許します。そして、わたくしはあなたを守りますよ。このチカラで、必ず」
わたしは自分たちの纏うこの光の炎を指差して。
「このチカラを信じてください。あなたはこの光の膜より外には出ない、と、誓ってくださいね」
「わかりました。サーラ様。私はサーラ様を信じます」
「では、いきましょう」
そして。
ここの場所に詳しいサンドラに身体を託し、わたしたちは建物の中へと踏み込んだ。
扉を開け中に入る。
廊下には血の跡があり、ここで争いがあったことを示していた。
一気に先まで駆け抜ける。コルネリアは寸分たがわずついてくる。それも周りをちゃんと警戒しながらだ。
流石に騎士だというだけの事はある。
曲がり角まで来て、一瞬止まり、その先の廊下を伺う。
人が、倒れてる。
ああ、わたしの瞳が赤く染まる。この人達もほかってはおけない。
まってサンドラ。ちょっとだけ。
……この人たちを助けてる暇は、たぶんないです、よ?
うん。でも。
デートリンネはあの時なんて言った?
わたしの想いがチカラにかわるって、そう、言ってなかった?
《貴女の想いはこの世界でチカラに変わります。よ。》
と、そう、確かにそう聞こえた筈。
なら。きっと。
わたしの願う心から滲み出す金色の粒子。
そして。
ヒール!
昔前世で読んだファンタジーにあった治癒呪文、それを、唱える。
聖女の治癒。
ほんと、おはなしで読んだ呪文、チカラ。
今まではそんなものが現実に出来ると思っていたわけではなかったけど。でも。
何かしないではいられなかったから。
辺りが金色の光で埋まり。そして。
倒れている人たちの顔に紅がさす。
うん。これで。
ごめん。待たせた。
……サーラ、あなた……。
……いえ。そうですよね。あなたなら、きっと……。
行こう。リウィアさまも助ける!
……ええ。急ぎましょう!
「本物の、聖女、だ。サーラ様……」
コルネリアのそんなつぶやきが聞こえた。
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