第57話 猫目石。

 ビリビリと痛む腕がだんだんと麻痺してくる。前だったら感じてたキュアがそこにいるのかどうかもわからずにこんな事をして、あたしバカだよねなんてそんな自虐ムードな思考の中、襲いくる魔物たちを蹴散らしてくれているカイヤに感謝して。


 どれくらいの時間がかかったのか。それはほんの一刻だったかも知れないけれど。


 あたしにはものすごく長い時間に感じられた。


 次第に、漆黒から鈍色へ、銀色、金色、と、変化していったその魔溜まり。


 ううん。もう金色になった所でそれはもうすでに魔では無くマナになってる、かな。


 ああ。感じるよ。キュア、あなたたちはちゃんと居てくれたんだね。


(レティ、好き)


(レティの腕も、綺麗になあれ)


 そんな声が聞こえたような気がして。


 あたしの皮膚が赤くめくれてしまっていた腕も感覚が無くなってしまっていた指も、暖かい光に包まれて癒されていった。


 あたしの身体がすっぽり入ってしまうくらいの量の魔溜まりはそのままの量ののまま金色の塊となり、そしてだんだんと凝縮されていった。


 まるでキュアがそこに集まったかのように、そのマナの表面は金緑に輝いて。


 次第に手のひらに収まるだけの大きさの塊になったそれは、ツルツルの表面がキラキラと滲んで。魔法結晶では無い、何か別の力を感じるそんな石に変化したのだった。


 ——はう。びっくり。てっきり魔法結晶にでもなるかと思ったら。っていうかこれ、魔ギアになってないかな。


 え? どういうことアリシア。


 ——ギアの中でもこれは……、表面を覆っているのはキュアの結晶だよ、これ。


 キュアの結晶?


 ——レティーナの右手に嵌ってる龍玉、これはギア・オプスの結晶なの。で、こっちはキュアかな。


 ——魔を浄化するために集まったキュアがそのままこのマナの表面にはりついて固まった、そんな感じ?


 うそ! そんな単純なこと?


 ——まあね? そこまで単純なわけじゃないけども、さ。


 でも、これ、オプスニルと違ってなんだかマナがたくさん篭っている気がするよ。


 ——だね。もともとキュアは魔力操作に秀でたギアだから。これならしばらく魔力タンクとして使えそう。



「大丈夫? レティ!」


 集まってきた魔物達をあらかた退けたカイヤがあたしのそばに駆け寄った。


「うん。ごめんね。魔溜まりはなんとかなったよ」


 それよりも、ティアは!


 森の中でぶつかり合う両者の音。まだ戦いが続いてる。


 ——腕輪にこの金緑の石を近づけてみて。


 と、アリシア。


 言われるままこの猫目石の宝石のような金緑の石を龍玉の腕輪に近づけると、金の腕輪部分が生き物のように伸びてこの猫目石をキャッチした。


 鈍くくすんでいたドラゴンオプスニルがエメラルドグリーンに輝いて。身体強化と龍人族のマトリクスがあたしの全身を包むように覆った。


 ——うん。魔ギア、ドラゴンオプスニルが起動したね。この魔ギアキャッツアイのおかげ、かな。


 やった! これで、戦えるよあたし!


 右腕に嵌った金の腕輪にはエメラルドグリーンの龍玉と金緑のキャッツアイが縦に並んで。そしてその二つの玉は互いに共鳴しあっているようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る