第55話 一角大兎。
「大丈夫? 疲れない?」
カイヤがそう声をかけてくれた。あたしの素の体力はほんとダメダメだし、こんな距離そういえばマトリクス無しで歩いた事なかったなぁとちょっと後悔し始めていたあたしは、カイヤを抱き上げてもふもふする。
「あー生き返る! ありがとうカイヤ」
もふもふのお顔に頬擦りして魔力を貰い、自分に回復魔法をかけるあたし。
うーん。このままカイヤ抱いたまま歩けばいい? カイヤの目を覗き込んでそんな事を考えてたら、
「もう、しょうがないなぁ。ちょっと下ろして」ってカイヤ。
はう。見透かされた? やっぱり抱いたまま歩かれるなんて嫌? と、ちょっと反省してしゃがんで手を離す。
あたしの手からさっと逃れたカイヤ、その小さい体をぶるっと震わせて。
「待っててね」
って言ったかと思うと黒いモヤに包まれた。
え? って思うのも束の間、そのモヤはぐんぐんと大きくなり……。
はう。もしかして大きくなってあたしを乗せてくれるのかな? って思ったんだけどちょっと違う?
黒いモヤの中で白銀の光が光ったかと思うと、そのモヤが晴れて。
気がついたらそこには男の人が立っていた。
黒い執事服に身を包んだ黒髪の男性。顔は……、龍神族になった時のカイヤと一緒?
「はう! カイヤ?」
「わぁカイヤったらやっと人型に変化できるようになったんだね良かったー」
あたしとティアがそう声をかける中、そのちょっとイケメン執事になったカイヤが髪をかき揚げて。
「どう? これなら君の手を引いてあげられるからさ。レティ」
と、あたしの方に手を伸ばしてそう言った。
ドキ! ってちょっとだけ心臓が高鳴ったのは内緒。
「ありがとうカイヤ」
あたしは満面の笑みでその手をそっと取ったのだった。
カイヤに手を引いて貰いながら山道を進む。木々の隙間にできた獣道で足元も悪いけどあまり人が登ることのないこの霊峰山ではしょうがない。枝をはらいながら登るとそれまでより少し広い場所に出た。
魔溜まり? か。
黒いタールのような漆黒の液体が水溜りの様に地面にあった。
あの砂塵の中心に出現した魔力溜まりのように空間から湧き出ているのではなくて、この山の大気に紛れていた魔が集まった、そんな感じ?
濁りきった魔力が水溜りのようにそこに集まっていたのだ。
「魔獣が湧くほどではない、かな?」
「そこまでの魔では無さそうだけど。油断しないで、レティ、ティア」
カイヤがあたしたちを守るよう前に出たところで、ガサっと音がしてホーンラビットが顔を出した。
ああこの子だったら安心、と、たいした強さの魔物じゃないことに安堵したその時。
ホーンラビットは水溜りの水を飲むように、その魔をペチャペチャと舐め。
そして。
その身体は瞬く間に膨れ上がる。魔獣、一角大兎がその場に出現したのだった。
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