第42話 ブラックアウト。

 しかしその後も、何度も何度も失敗だった。


 結局のところ、人の欲が魔力を暴走させてしまう原因だった。感情は強い魔力を生むけれど、憎しみ、悲しみ、欲望は、それが強ければ強い程、魔力を歪に増幅させてしまう。


 マナを魔に変えてしまうのだ。


 マナと魔は表裏一体。どちらもレイスのスープ。命のスープ。


 生命が誕生する時にはそのスープから命が分かれ、そして個になっていく。


 そして死す時にはまたその命のスープに還っていくのだ。


 しかし、こうしてその理が、マナが世界に溢れてしまうとそのバランスが崩れる。


 うまく輪廻の円環が機能しなくなってしまう。




 どうしてこの世界はこう出来損ないなのだろう。


 あたしがいけないのか?


 あたしが神として出来損ないなのか——




 ※※※※※



 レヴィア。


 あなたは神さまだったの?


 これはやっぱり神のキオク。


 やっぱり、そう、なの?




 膨大なキオク、膨大なイメージがあたしの中に流れ込んでくる。


 そんな中には、異世界? って思えるキオクもあった。


 あたしたちが暮らすこことはまったく違った世界のキオク。


 魔法の無い、そんな世界のキオクも……。





 ※※※※※




 そう。


 ごめんねレティーナ。


 これはわたしのキオク。


 魔力が無い世界からこの世界に紛れ込んだわたし。魔王アリシアのキオク——



 この世界に転生したわたしのレイスにはゲートが開いて無かった。


 ——だからアリシアのレイスは汚れて無かったんだけどね。


 そのせいか魔力ゼロの状態だったわたしは魔王石から魔王のキオク、ことわりのキオクを転送され魔王となったのだった。


 そのおかげで開いたゲート。


 魔王石を自身に取り込むことによって増大していく魔力。


 不完全な世界を抹消しようとするチカラが働く中、それをなんとかしようと奔走したわたしたち。


 そして。


 邪心、帝国への復讐心に凝り固まり、魔王石の半分を取り込み己が魔王となろうとしていたバルカを、逆に自身に取り込んで真の魔王となったわたしはそのままこの世界の円環となる筈だった。


 でも。


 ——アリシアの心に入り込んだレヴィア。ううん、最初の魔王カエサルの分離した理性の部分、カエサルのレイスを持ったレヴィアがその真の魔王となったアリシアのレイスから、感情の塊ごと魔王の部分を切り取って。


 ——そしてそのままはじけて大気に溶けたの……。


 ——そして、この世界を救うマナの円環となった——




 ※※※※※



 はう……。


 心の中がちょっと整理しきれてないけど、この世界が救われたことだけはなんとなくわかった……。



 ——わたしの中にはこの世界の神様のキオクと魔王アリシアのキオク、そして最初の魔王の感情も少し、混ざっているの。


 ——レイスを半分以上も切り取られたアリシアの存在値を補うために融合したっていうのが正しいかな。


 それってもう随分前?


 ——千五百年前の出来事、かしら。


 やっぱり、神様なの? レヴィアさんって。


 ——ううん。今は神様の仕事は大気に溶けたカエサルがやってる筈。そのおかげでこの世界は存在しているのだから。


 じゃぁあの、バルカは!? 魔王バルカ!


 ——あれもまた魔王。最初にあなたに助けて貰った時って、バルカをなんとかしようとして返り討ちにあった直後だったの。


 え?


 ——わたしの中からは殆どの魔王のチカラは消えてるから。カエサルが真の魔王のチカラを解放した時に、バルカの邪心だけは漏れ出たのね。それが魔を集めて千年前に新たな魔王として復活してて……。


 はうう。


 ——いろんな人の力を借りてなんとか封じ込めることに成功したんだけど……。ダメね。そろそろおきだしている。封印はもうすでに解けているわ。


 そんな! 


 ああ、目の前が暗くなる——



 あたしが意識を保っていられたのはここまで、だった。


 あまりにも膨大なキオクの奔流に、あたしの心はブラックアウトして……。


 そしてそのまま暗闇の中に落ちた——

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