第37話 黒龍。

 この湿原を飛んで渡ろうと準備しているうちに陽が落ちてきそうだったので、今夜はここで休んでまた明日の朝、日の出と共に出発することにしたあたしたち。


 そろそろ夕方だなぁと景色を眺めていたら急に空が陰ってきた。


 雲? ううん、違う……。


 夕暮れのお日様はまだ完全に沈んでいない。けれど空に広がる黒い霧のせいであたりはもう真っ暗になりかけている。


「なに? なにがおきたの!?」


 ティアがそう叫ぶ。


 あまりにも不自然に広がる黒い霧。あたしは不安そうなティアを抱きしめて、範囲結界をはり周囲を警戒した。


 うぁんおー!


 カイヤはあたしたちを庇うように前に出て、吠える。


 身体も二回りほど大きくなった。




 気持ちが悪い黒に染まった空。その空が唐突に割れる! そしてそこから顔を出す黒い龍の頭!


 Gaoooooooooonn!


 叫び声が響いた。




 生物としての格? そんなものに当てられて足元が震えてくる。


 ティアも腰が砕けたようにしゃがみこんでしまった。


 あたしはなんとか我慢してるけど、限界が来そうだ。


 カイヤの尻尾も縮こまってる、か。


 GYAOooooooooooooonn!!


 一際大きく叫ぶその黒龍のその眼を、あたしはキッと睨みつけた。


 虚勢でも張っていないとやってられないよ。



 《はは。我を睨み付けるか。面白い。しかし——》


 頭に響くそんな声。


 その黒龍はそのまま大きな口を開き、こちらに向かってブレスを吐いた。




 黒い奔流が迫る!


 熱量は、無い。


 エネルギーも感じない。


 でも。


 まともに受けるとまずい事だけは確かだ。




 あたしは右手を前に突き出して掌をその黒い奔流に向ける。


 レイ! バン! レイ!!


 術式を唱え魔法陣を展開!


 次元シールド、位相を少しだけずらした空間の壁を張り巡らせた!



 なんとかいける!?



 たぶん黒龍は手加減をしているのだろう。でもそれでも!


 あたしはその黒龍のブレスを完全に防ぎ切り。


 もう一度その龍の漆黒の瞳を睨みつけた。



 一瞬、黒龍がニヤッと笑ったように見えた


 《お前たちはここまで何をしに来た! ここから先が龍の一族が住む地と知っての事か!?》


「そうよ! レヴィアさんに会いに来たの! この龍玉、ドラゴンオプスニルをあたしにくれたレヴィアさん。彼女はここにいるの?」


 《うむ。なるほど、な。それだけのチカラはあるようだ》


 その龍は、今度こそガハハと笑うとその割れ目から身体全体を引き出した。


 それは、天にも届くかと思われる巨大な龍の姿をしていた。

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