第36話 街道の終点。
見渡す限りの湿原。
茶色く枯れ果てた草の下は足を踏み入れる事が躊躇われる。
あともう少しでノーザランドだとおもわれるここで、とうとう紅い街道はその終点を迎えた。
終点には墓標のような石碑があるだけで街などは見えず、ただただそこから先は大海原のような湿原が広がるのみだった。
「この先にあるのかな? ノーザランド」
——地図によればこの先で間違いないかと。
もう馬車は使えないか。馬車は収納できるとして馬は……。
この湿原は流石に馬は渡れない。あたしたちは飛んで行くことができるけれど……。
「ポニ、ごめんね。こんなところまで連れてきて」
近くの林でポニのくつわを外す。下草がいっぱいはえているここなら餌にも困らなさそうだ。でも。
魔獣や魔物、ほかの肉食獣に襲われる危険もある。
あたしはポニの首を撫でて、そこにおまじない程度ではあるけれど魔除けの魔法をかける。
金色の粒子がポニにまとわりついてそのまま消えた。
(お願いね。キュア)
あたしはそんな金色の天使たちにキュアって名前をつけて。
——レティ、好き。
——任せて、ポニ、守る。
そんな声が微かに聴こえてくる気がする。
幻聴かもしれないし願望なだけかもしれないけれど。ほんのり微かにそんな声が聴こえるような気がするの。
お願い。あたしたちが戻ってくるまで無事でいて。
そう祈るしか出来なかった。
龍神族の国ノーザランド。
国って言ってもいいのかな? たしか正式に国として認められているわけじゃなかったかも?
でも、帝国はその周囲の国に基本的なところは干渉しない。緩やかな国家連合の盟主として存在する帝国は、原則その武力やインフラ技術を周囲の国ために使うことはあっても、搾取や圧迫はしない。
だから国か地域がの違いは帝国の助けが無ければ国として成り立たないのであれば地域、独り立ちできているのであれば国、そんな基準。
でも、ノーザランドだけは少し事情が違う。
人類域最先端の地ノーザランドでは、帝国のパクスの為に存在する辺境の壁としての役割を担っている。
その分、表向きは帝国の一地域であって国では無い。のだけれど。
その運営は完全に龍神族による自主独立した他所からの干渉を一切拒む、そんな「国」であったのだ。
龍って言ってもその姿はまちまちだ。
あたしが実際に見たことがあるのはレヴィアさんだけだけど、彼女は蛇のような長い大きな身体に背中には大きな二枚の翼があった。
両手両足は別に存在していたからあの翼は鳥のような構造ではない? みたいだけど。
背中に二枚、蝙蝠のような翼があったのだ。
他にも書物にはいろんな姿の龍が描かれていた。
真龍、魔龍。そして龍もどきの竜。
中には蜥蜴に毛の生えた程度の魔物で竜と呼ばれているものもいる。
それでも真龍や魔龍クラスになるともう生き物としての次元が違うらしい。
たぶん、カイヤのような聖獣とも似通っているのかもしれないんだけど、そもそも真龍クラスの龍は生き物なのかどうか疑問かな。
不老不死で決して死ぬことが無いって伝説に記されていたりするし。
そんな龍の一族だっていう龍神族。ほんとどんな感じの人たちなんだろう。ちょっと楽しみだ。
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