第15話 聖女の噂。

「ねえねえ聞いた? 最近この辺りで魔物が増えてるのって、聖都の結界が弱まってるからなんだって」


 え?


「それもさ、その原因がね、お亡くなりになった大聖女様の大事にしてた魔法結晶を盗んで姿をくらました聖女のせいなんだって! ひどいよね?」


「なにそれー!」


 ちょっとあまりのことに目がくらくらしてくる。


「ほんとひどいよねー。あんまりだよ」


「ちょっと待って、その噂誰に聞いたの?」


「えー。街ではみんなそう言ってるよ。聖都から来た行商のおじさんから聞いたって言ってた」


「で、その聖女ってどんな人なの?」


「なんでもね、まだ年若い見習いみたいな立場の人らしくてね。お仕事もしなくて叱られた腹いせに泥棒して逃げたんだって。金髪碧眼で綺麗な人らしいけど」


 って! なにそれ! 酷すぎる!!


 自分たちであたしを追い出しておいて、酷い!


「ねえティア。そんなに酷い泥棒さんならその聖女さん手配書とかも回ってきてるのかな?」


 声が少し震えてる。我慢してないと声が怒り出しちゃいそう。


「それがねー。警らのおじさんとかは知らないっていうの。ほんとにそんな事件があったのならもっと大々的に捜査とかしてそうなのにね?」


「ふっ。まあね。噂、なんだね。あくまでさ。だいたい聖都の結界一つちゃんと張れないでなにが大聖女だってのさ。おかしいよね!」


「はう、レティシア怒ってる? なんか怖いよ?」


 いつのまにかあたしのエメラルドグリーンの髪が逆立って、瞳も赤く光出してた。


 ああ、これ、怒るとこうなっちゃうのか……。



 あたしは首を振って自分自身を落ち着かせようと深呼吸して。


「はふう。ねえ、ティア。あたしちょっと聖都に行ってくる。噂の真相を確かめたいの」


「え? どうしたの急にレティシア?」


 ちょっと目を白黒させてるティア。


「あたしその聖女に心当たりあるの。そんなに悪い子じゃなかった筈。だからちょっと確かめたくて」


「あう。レティシアがそう言うのなら……。そうだ、あたいも一緒にいっちゃダメ? 聖都ってちょっと興味あるんだよー」


 あう。


 ティアはキラキラした目でこちらを見てる。よっぽど聖都って言葉が魅力的らしい。


 どうしようか。できれば一人で行きたいところだけどここで拒むのもちょっと変?


「魔法もけっこううまくなったと思うんだ。足手まといにはならないよう気をつけるからさぁ」


 あうう。上目遣いでそう懇願するティア。その小動物感が増してかわいいんだけどさ。


 んー。ままよ。


「じゃぁ明日の朝、聖都に出発ね。街道の往来も多いからカイヤに乗ってはいけないけどそれでもいい?」


「うん。大丈夫! 足腰もけっこう鍛えたんだあたい。ちゃんとついていくからー」


「遊びに行くんじゃないからね? そこのところちゃんとわきまえてね?」


「わかってるようほんと。それにあたいこれでもはしっこさに磨きをかけてるからね。噂話や聞き込みは任せて!」


 そっか。


 そういう問題もあった。


「ありがとうティア。頼りにしてるからね!」




 そうしてあたしたちは明朝日が昇るか昇らないかの時間には街を出発することにした。


 しかしなんで? どうして今更そんな噂広めてるんだろう?


 あたしが聖都を出てそろそろ半年。


 聖女宮で何かあったのかなぁ?

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