桃きのこの森へ10

 思わぬところで『マリンシェル不漁問題』解決の糸口を掴んだかもしれない。

 さっそくその方向で色々と調査を――


「あの~っ! そろそろワタシを思い出してくださ~いっ!」


 わたしたちの背後、桶の中から少し拗ねたような声をミュウが投げてきた。


「なんですかな、あの珍妙な生物は?」


「うん、オヤカタくんには言われたくないと思うけど」


 人魚と喋る大きのこ、どっちも珍妙だよ。


「そうだ、オヤカタくんにお願いがあるんだけど……」


「なんでしょう! クロ様のためならばこのオヤカタ、月だって割ってみせましょうぞ!」


「さすがにそこまでの要求はしないよ。えっと……」


 わたしはオヤカタくんの後方にある、きのこ畑に目をやった。

 ここに来た目的は、ミュウを人間に変身させるための薬を作る材料……岩きのこだ。


「少し、きのこを分けて欲しいんだけど……ダメかな?」


 怖々と、わたしはオヤカタくんに確認する。

 急に怒ったりしないだろうか。「可愛い子供たち」なんて言っていたし、そう簡単に分けたりしてくれたりは――


「いいですぞ、好きなだけ持っていってやってください!」


「あっさりしてるね」


 拍子抜けしてしまうほどに。


「なにがですかな?」


「オヤカタくん、きのこを大切にしているみたいだったのに、ずいぶんと簡単に譲ってくれるんだなーと思って」


「それはもう大切にしていますとも。オレが丹精込めて育てた子たちですからな。ですがクロ様の頼みとあらば、これはもう差し上げるしかないでしょう!」


 がはは、とオヤカタくんは高らかに笑う。


「そ、そう? じゃあ、岩きのこをもらっていきたいんだけど、いいかな」


「どうぞどうぞ! 岩きのこだけと言わずに他もどんどん!」


 うーん、なぜこんなにも好かれてしまったのか謎だ。



 どうぞ、とオヤカタくんが差し出してくれた包みを受け取る。


「ありがとう」


 布に包まれた岩きのこだ。なんだかんだあったけど、ようやく入手できた。


「それじゃあ、町に帰ろうか」


「ああ、そうだな」


「はいっ!」


 ロゼとミュウが返事をして――あれ、ひとり足りないな。


「うぅクロさーん……チコのことも思い出してくださいぃ……」


 すっかり忘れていた。ごめんねチコ。

 オヤカタくんに蹴飛ばされたチコを起こし、わたしたちは町への帰路につくのだった。

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