海の町の錬金術師と桃真珠の人魚姫

景山千博とたぷねこ

プロローグ

 彼女には、小さなころから不思議な『声』が聞こえていた。

 なにかを囁きかけるような、不思議な『声』だ。

 最初は微かに聞き取れるほどの大きさだったその『声』は、年々はっきりと聞こえるようになっていき、ついには『姿』まで見えるようになった。


「それはすごく特別で、とても素敵な才能なんですよ」


 流行病で家族を亡くし、行く当てのない彼女を拾ってくれた女性が、そう教えてくれた。

 彼女が聞いている声、目にしている姿、それは精霊のものなのだと。


「君には、錬金術の才能があるんです」


 錬金術。

 初めて耳にする言葉だった。女性曰く、今はもう廃れてしまった技術なのだという。

 女性は、そんな廃れた技術を継承する錬金術師であると自らを称した。

 柔和な笑みを浮かべ、女性が彼女に手を差し出す。


「どうでしょう、私のもとで錬金術を学んでみませんか?」


「そうすれば、わたしにも貴女みたいに不思議な道具や、すごい薬が作れますか」


 両親を亡くした彼女に追い討ちをかけるかの如く、住んでいた村が魔物に襲われた。

 そんな所に錬金術師の女性はふらりとやってきたのだ。

 そして、不思議な道具で魔物を退治した。

 それだけじゃない。女性が錬金術で作り出したという薬の効果は絶大だった。

 手の施しようがないような傷を負った人を、立ちどころに治してしまったのだから。

 自分も錬金術を学んだら、流行病に罹った人たちを救えるだろうか。自分のように家族を亡くしてしまう人間を、少しは減らせるのだろうか。

 彼女の問いに、女性は微笑みながら答える。


「すべては、君のがんばり次第ですよ」


 なるほど、やってやろうじゃないか。

 彼女は差し出された女性の手を取る。


「ところで君、お名前は?」


「クロ」


「ほうほう、よろしくお願いしますね、クロ。あ、そうだ。私のことは師匠って呼んでください。どうしてもと言うなら、お姉様でもいいですよ」


「師匠で」


 こうしてクロは、錬金術師としての道を歩み始めた。

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