第2話
「ミューティアの婚約を無かったことにし、シェリアと婚約してはどうかと思いましてな。シェリアは、私が言うのもなんですが、愛らしくとても器量がいい。その上、家庭教師から勉強も出来ると聞いています。殿下に相応しいのはシェリアだと、私は思うのです」
公爵が話してる間、シェリア嬢は時折頷き「照れますわ」と言いながら俺をチラチラ見てきた。
正直言って気持ち悪いな。
「ティアは、王妃教育をトップで合格した者です。シェリア嬢は王妃教育を受けていないでしょう……」
「お姉様に出来たことが私に出来ないはずがありませんわ!それぐらい簡単にこなしてみせます!」
「ティアは、12年かけて母上の教えの元、王妃教育をこなして来たのです。シェリア嬢、貴方にティアの12年分の努力を簡単に終わらせられると?」
「勿論ですわ!ひと月もあれば、完璧にこなしてみせます!」
馬鹿な……そんな簡単なことではないのだぞ。ひと月だなどとホラ吹きもいいところだ。帝王学、他国語、自国のマナー、他国のマナー、ダンス、歴史や各領地の特産品などなど
覚える事は山ほどあるのだ。
それ以外にも、王太子妃としての公務、俺の補佐。
この女に務まるとは思えない。
「王太子妃とは簡単になれるものではありません。幼い頃より積み重ねた努力がものを言うのです。シェリア嬢に王太子妃が務まるとは思えません」
と瞳を伏せて、残念そうに伝える……が、このアホな女には微塵も伝わっていないらしい。見当はずれな言葉が帰ってきたからだ。
「まぁ!そんな事はありませんわ!クロード様の横でニコニコと笑っていればよろしいのでしょう?簡単ですわ!」
「・・・は?」
「それに、たま~にお茶会を開き、令嬢様を招待してもてなせば良いのでしょう?私にも出来ますわ」
「・・・え?」
この女は、何を言っている?
馬鹿なのか?……馬鹿なんだろう?
王妃がお茶会を開くのは、ただ単にお菓子を食べてお喋りをして終わりじゃないのだぞ。
王妃がお茶会を開くのは、令嬢や夫人達との繋がりを強化し、情報を交換し合い、国をより良い方向に向かわせる為に必要な社交の一つだ。
「……例え、ティアが婚約者から外れても、シェリア嬢が婚約者になる事はありませんよ。婚約者候補だった者達から選び直されるだけです」
ため息を零しながら、シェリア嬢に婚約が回ることは無いとハッキリと伝える。
「……え?」
笑みを深くする。
シェリア嬢がぽわ~~んと私に見とれるが無視し、俺は本性を表す。
「第一、貴方を婚約者に選ぶ?冗談は顔だけにしてくれ。俺は馬鹿はいらん」
「……え?」
先程まで、俺に見とれていた目の前の女が今度はポカンとアホ面で俺を見てくる。
「王太子妃は、簡単になれるものじゃない。お前は、王妃教育を受けながら、王太子妃としての公務、及び俺の補佐が出来るのか?」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、俺の言葉は鋭さを増していく。
「お前に、他国の王族をもてなす事が出来るのか?他国語を話し相手を持ち上げ、会話を盛り上げるだけの
お前は、社交の場に出て完璧なダンスが踊れるのか?他国の王族相手に恥をかかないだけの知識や所作は?
貴様に、貴族共の甘言に騙されず真実を見抜く目があるのか?
ティアを馬鹿にするのも大概にしろ。貴様にティアの代わりなど務まらぬ」
全く、1時間も無駄にしてしまった。
猫を被るのは疲れる。
「……は」
「なんだ?」
「そんな筈はありませんわ!!だってお姉さまが言ってたもの!クロード様が良ければ譲ってくれるって!だから私は!」
ティア……思わず低く呟いてしまう。
ティアの差し金か……これは!
こんな厄介で面倒臭いことを押し付けたのは!
目の前でシェリア嬢は癇癪を起こしたように泣きながら喚いている。
それを父親である公爵が必死に宥め、俺を睨みつけてくる。
俺は王太子だぞ?
お前ら……不敬に捉えられても俺は知らないからな。ティアの妹でも、問題だらけの行動なのだから。
その時、この部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。側近のサミュエルが対応すれば、聞こえてきた声は「あら?まだお話は終わってませんでしたのね」と言う聞きなれた声だった。
「ちょっと、失礼する」
未だ俺を睨みつけながらシェリアを宥める公爵を無視し、応接室の外に出る。
「あら、殿下。シェリアとの話はすみまして?」
「ティア……厄介な案件を持ってきたな…!」
「殿下の外面に騙される妹があまりに滑稽でしたので、一度本性を見せれば流石に引くかと思いまして」
余計なお世話でしたか?としれっと言うティアに、苦虫を噛み潰したような顔をしてしまうが……中から「クロード様!!!」と言う叫びが聞こえてきて辟易してしまった。
「う~ん、もし殿下に奇跡が起きて妹を引き取ってもらえたら
「あんなクソ女を俺が必要とすると本気で思ったのか」
「思ってませんけども…もしかしたら、気の迷い的なものが生じるかと思いましたのよ」
「宛が外れて残念だったな」
「ええ、本当に」
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