サダルマフンダリカ
大和田光也
第1話
「それは、有るとも言えないし、また、無いとも言えない。
原因でもないし、縁になるものでもない。
自分と他人に分けられるものでもない」
「四角でもなければ、丸くもなく、短くも長くもない。
現れてくるものでもなければ、消えていくものでもない。
作るものでもなければ、出来上がっているものでもない」
ブッターの声は、前方に集まっている多くの神々に染み渡っている。後方には、ブッターの弟子たち2千万人が静かに座り、師の言葉に耳をすませている。
この弟子たちは皆、悟りをひらいている菩薩(ぼさつ)たちだ。ブッターの様々な働きの手助けをしている。
ブッターの話を聞こうとしているのは、宇宙のあらゆる星々から集まった、その国の中心的な働きをする神たちだ。
ムガク星からは、各分野の専門クラスの神が、2千人集まっている。そして、それぞれの指導者のもとに、6千人ずつの部下が連なって参加している。
地球の1億倍以上の重力のあるマカサツ星からは、8万人の議員クラスの神が参加している。それぞれが2万人の支持者を連れて集まっている。
ジザイ星からは、国主に当たる3万人の神がそれぞれ、2千万人の国民を率いて参加している。
その他、全宇宙の主だった神々が、それぞれの数千万人に及ぶ民衆を従えて集まっている。
ブッターを中心として集まった者たちは、宇宙の彼方にまで続き、その果てを見定めることはできない。
それらの神々が、教えを説いているブッターの足元に順番にやってくる。そして礼拝をして、また元の位置へ返ってゆく。それが永遠に繰りかえされるが、時の流れは存在しない。
ブッターは無数の神々から賛嘆と尊敬の供養を快く受けている。
「座っているものでもなければ、寝ているものでもない。
動いているものでもなければ、転んでいるものでもない。
進んでいるのでもなければ、退いているのでもない」
「良いことでもなければ、悪いことでもない。
遠くでもなければ、近くでもない。
・・・」
ブッターの説法は続いている。
声の響きは、宇宙空間を暖かく、快く震わせている。
「青色でもなければ、黄色でもなく、
赤色でもなければ、紫色でもなく、
色彩ではない。
・・・」
しばらくブッターの声が続いた後、聴衆の中から大きなうねりが出来上がってくる。
大多数の者たちが、ブッターの説法に喜びにあふれ、感謝して立ち上がり始め、合掌して拝んでいる。
そのときブッターは、眉と眉の間から輝く白光を放つ。その光は遠くに届くほど広く輝きを増して、宇宙の多くの星々を明るく照らす。
その光に照らされた星々や国々に住む、神々や菩薩たち、多くの人々を幸福へと導いてゆく。
「このように命は、お互いのきずなを深め、
お互いに、ほめたたえる中に
本当の幸せが感じられる。
必ずそういう世界に到達するだろう。
・・・」
ブッターの説法は最も大切な部分になってくる。
全宇宙が最高の幸福な命と場所になろうとしている時、1箇所だけ、ブッターの光をさえぎるようにして、暗黒にしている星雲がある。
それが徐々に大きくなり、白光に照らされる空間を押しのけるようにして巨大になる。
「少々、待てよ、ブッター。お前の言っていることはきれい事だ。現実には、命の行きつく先は、お互いの分断と攻撃だ」
宇宙に響き渡る雷のような声が暗黒星雲から響き渡る。同時に、その中から宇宙さえも押しつぶしそうな勢いの魔神が現れる。背の高さは、天空を突き抜けるほどもある。
ダイバだ。ダイバは宇宙最強の魔神だ。
「いや、そうではない。ダイバよ、命は何のために存在しているのか。それは互いに結合と尊敬のなかから喜びを広げていくためにあるのだよ」
ブッターは優しく、そして厳しいまなざしでダイバを見る。ダイバはこのまなざしにあうと急に体がしぼみ、小さくなってしまう。
「そんなことはあるものか。地球星の人間を見れば分かるだろう。わざわざ、優秀な命として作ったにもかかわらず、分断と攻撃をお互いに永遠に繰り返しているではないか。存在する必要がないではないか」
再びダイバの体は異常に巨大化していく。
「確かにそうだが、今しばらく待ってみよう。
優秀な命は必ず本来の目的である結合と尊敬に満ちあふれるだろうから、
愛をもって待つのだ」
ブッターのまなざしの優しさは、永遠に変化はしない。
「だめだ。もう時間切れだ。
人間たちをこのまま存在させるのは、我々、神に対する冒涜(ぼうとく)だ。
分断と攻撃の速度を速めて自滅させ、人類の歴史を終わらせる。
それが魔神の使命だ。今こそ使命を果たす」
ダイバの体積はますます増加し、暗黒星雲からは無数の、家来の魔神たちが宇宙空間に湧き上がってくる。
「ダイバよ、早まってはいけない。人間たちの結合と尊敬の心を信じてやるのだ。そして、幸福な未来を待つのだ」
ブッターの声は全宇宙に響き渡る。
「だめだ。放置して治るものではない。いや、治療のできる心の状態ではない。滅亡させるしかない。
その方法は、人間たちに最もふさわしい、分断と攻撃のコロナ魔神にやってもらう」
ダイバと家来たちは、巨大な暗黒星雲となって地球星の方へ、おおいかぶさるように飛んで行く。
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