第1話 スライムと男の娘

 ココ最近何もしてない気がする。

 これじゃ居た堪れない。

 スライムくんにばかり頼って、本当に居た堪れない。

 今日は本格的に進むことにする。

 昨日夜通しで作った燻製肉を鞄に詰めて、立ち上がる。


「よし、行こうか」


 スライムくんに声をかけると、頭に上に飛び乗ってくる。

 スライムだからか、そんなに重くはない。

 まあスライムだしね。


 迷宮のとある一本道を真っ直ぐ突き進んでいると、昨日見たのとはまた別の魔法陣を見つけた。

 この魔法陣はなんだろうか?

 模様もあからさまに違うし、昨日の魔法陣が木に彫ってあったのに対して今回は石だ。

 なんかの研究か?

 でもそれにしては、本も何もないよな?

 この地面に描いてある魔法陣は何なんだ?

 俺が乗っても全然余裕があるくらい大きい。

 昨日のもだ。


「まあいいや。分からないことは飛ばしていこう」


 分からない事に迷っても仕方がないよな。

 来た道から魔法陣を超えたところに道が続いている。

 そこから前に進めるだろう。


「なあ、スライムくんはどうしてここにいるんだ?」


 疑問だ。

 俺とスライム以外に智慧を持つ魔物を見たことが無い。

 俺は転生──と言ってもはっきりとはしない。いつの間にか居たって感じ──だし···············、もしかしてスライムくんも転生では?

 と思ったのだが、結局は分からない。

 まあいいや。


「スライムくん、次はどこ?ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 訊いている途中に知らない空洞に足を滑らせて落ちたみたいだ。

 気をつけていない俺が悪い。

 と言っても、スライムくんはベチャってなったけどすぐ戻ったし、俺だってどこも折れていない。

 痛いだけで済んでいるな。

 きらびやかな魔鉱石の洞窟の中心にできている空間にいる。

 俺のいるところには魔鉱石がない場所だ。

 半径30mぐらいのドーム型に異空間のように広がっている。


「いてててて。ここってどこなんだよ。落ちてくるなんて運が悪いな。というか、落とし穴なんて作るなよな家主の龍さんよ」


「俺を呼んだか?」


 いきなりどこからともなく声が聞こえた。

 こんなこと、ビックリしないわけねえだろ!


「うわっ!ど、どこからだよ!出て来いよ!」


 結構大きな声で叫ぶ。


「俺に対して命令するんだな?面白い」


 急に地響きのような、地震ような揺れが襲ってくる。


「うわっ」


 揺れに耐えきれず崩れ落ちる俺。

 スライムくんもピョンピョン慌てている。


 すると、魔鉱石のある一角から、何か物凄ものすんごいオーラを出して歩いてくる男。

 白く綺麗な服を纏った青年の格好をしている。


「あれ?龍王じゃないのか?」


 揺れに抗いながらも、俺は疑問を抱いたことをぽつりと口に出していた。

 ああ、俺は龍が住んでいると勘違いしていたんだな。

 勘違い…………勘違い…………勘違い…………え?勘違い!?

 えぇぇぇぇ!ここ龍は住んでないの!?

 ちょっと期待してた自分がいるのに。

 いつか会ってみたいと思ってたのに。

 なのにここには居ないみたい。


 こつこつ、こつこつ、こつこつ。


 歩いてくる靴の音が響き渡る。

 洞窟のエコーって初めて聞いたかもしれない。

 ………って、こんなところで関心してどうするか!

 ヤバい。このオーラはまじでヤバい。

 こっちへ向かって歩いてくる。

 どうにか逃げられないか?

 初めてだぞ。オーラが目に見えたのは。

 それくらいに強力な奴だって俺でもわかるかっての。

 冷や汗が止まらねえ。


「少年。名を何というか?」


 は?俺のことを今少年と言ったような………ってそんなこと気にしてる場合か!

 質問に答えないと。


「名前は………無い!」


「…………は?…………」


 驚いている。どうしてだろう?名前が無いのはそこまで不思議な事なのか?

 ああ。異世界ものだと、名前が無いのは当たり前だったし、きっとまた勘違いだ。


「お前、人間だろ?人間には名前があってもおかしくないと思うが」


 あ、そういうことか。この姿を見て人間だと思っているのか。

 訂正しよう。

 でも、ソイツの考えに反発すると殺されないか?

 まだ強いオーラが漂っている。

 俺がさっき命令したのを怒っているのか?

 冷や汗がまだまだ出る中で細々とした声だが答える。


「…………種族は分からない?…………」


 そのいかにも強そうな青年は、ん?と聞き返してきた。


「だから、俺は種族が分からないってば!」


 しまった!口調が強すぎた。

 このままじゃ本当に殺される!


 だが青年の周りのオーラがみるみる収まっていった。

 ふと青年を見ると、腹を抱えて笑っていた。

 何か面白かった事でもあったのか?


「ハッハッハッハw………はあ。種族が分からない?あり得ないでしょそんなことは」


 笑って乱れた息を調えて言った。

 でも、本当の事なんだから仕方ないじゃん!


「〈超鑑定〉」


 なんだよ超鑑定って。

 鑑定ってことは何かを『視る』スキルなのか?

 また青年は笑いだした。

 そしてまた息を調えてから言った。


「本当だ。本当に種族が分からないじゃん」


 そして、今俺の頭に乗ってきたスライムくんをみてビックリしたみたいだけど、少しの間の後にフンッと言ってニヤリと笑った。

 小声でそういうことか、とも呟いていたような…………。


「そうだ。名前が無い不便だな。何か付けて欲しい名前とかある?」


 そんなこと言われても………………付けて欲しい名前か。


「前世では白加茂沙夜だったから…………」


 いつの間にか呟いてたみたいだ。

 ここで名前あんじゃん、とか突っ込んじゃあ駄目よ。

 ここは異世界。前世の名前なんてあってないようなものだから。


「じゃあ、シエルとかどうだ?」


 青年が言ってくる。

 シエルか。悪くないと思う。

 でも、なんかカタカナ字の名前ってくすぐったいな。

 でもその名前いいね。

 異世界に来たならそれもいいかも。


「いいと思う…………ます」


 後で付けた咄嗟の敬語だ。どう聞いても変な言葉になっている。


「いやもう敬語はいいよ。さっきまでの強気な態度で話しかけてきていいよ」


 え?もういいの!

 ならお言葉に甘えて。


「じゃあ、そうするよ」


 それから青年は言った。君の名前はシエルだ、と。


『個体名、辰爾たつみにより名付けされました。個体名、辰爾により贈与ギフトを授与されました。エクストラスキル〈呪与エンチャントの光レイ〉獲得。エクストラスキル〈叡智を知る者〉獲得。エクストラスキル〈心通ずる〉獲得。エクストラスキル〈分解・融合〉が進化しました。エクストラスキル〈融解〉獲得。特異点シングラリティスキル〈唯一種〉獲得』


 なんかとんでもない能力がついたぞ!

 謎すぎるんだけど。

 それに量も結構ついたし。


「俺は辰爾だ。宜しくな」


 名付けの親って別に強制力が付くとかそんなんじゃ無いんだな。

 それならまだ安心。


「宜しく頼む。…………実は、俺はこの世界にいつ来たかも分からない逸れ転生者なんだけど───」


 事の経緯を話し始めた。


「そういうことか。ならまずは自分のスキルを使いこなせるようになることを目標にしてみろ」


 目標か。龍に会うことを何気に目標にしてたかも。まあ、会えなかったしな。

 よし、スキルを使いこなせるように頑張るか。


『追加。エクストラスキル〈天視の者ソラカラミルモノ〉を進化。エクストラスキル〈賢女〉を獲得』


 ………………ちょっと待て。

 今さ、進化、って言ったよね!?

 どういう事か説明できる奴いる?

 それに進化させたってことは、その〈天視の者ソラカラミルモノ〉を俺は持ってたのよね?

 俺そんなスキル知らないんだけど!

 どういう事か説明できる奴いる!?

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