(旧)あるいはスライムか、もしくは閻魔なのだろうか?

黎ゆ。-伊藤世彬-

序章 逸れ転生者編

プロローグ───転生する。が、種族が分からない

 見てみてくれよ。このツルンとしてスリムなボディ。丸く柔らかい質感。水色でペチャペチャと歩くこの生物。

 そう!俺はスライムに転生したんだ!

 ↑

 と、言えたらどれだけ良かったか············。

 このスライムは俺じゃないんだな、実は。

 じゃあ、俺は何か、だって?

 俺は人間·········でもないんだな。

 じゃあ、本当はなんだって?

 それを答えるのは難しいな。

 な・ぜ・な・ら!俺は今!種族が分からないんだよぉぉぉ!!


 そう、今の俺の体はスキル〈擬態〉で、このスライムの姿の前をしているだけで〈擬態〉を外すと人のカタチをしているんだ。

 でも、人じゃないんだよなあ、これが。


 スキル〈擬態〉を解除する。

 すると、見えるのはどう見ても人だ。


 この容姿は何なんだと思ったぞ。

 俺は男なのにどう見たって少女じゃないか!

 いわゆる男の娘ってやつだな?はあ(溜息)

 どうしてこうなったんだろうか?

 俺は死んだんだな。

 でも、どうやって死んだんだろうか?

 別に刺されたわけでもなければ、轢かれてもいない。分からんよ。

 今いるここは街でも無ければ洞窟でもない。

 迷宮区だ。

 何故転生直後にこんなところに居るかは知らないけど、生きていたなら全て良し!

 じゃあ、探検だ。

 転生してからだいたい一週間ぐらいの間にスライムの擬態でスライム──以後、名付けされるまではスライムくん呼ぶことにする──と戯れてばっかだったからな。

 そろそろ動き始めないと一生ここにいる気がする。


 綺麗に整備された迷宮を進んでいくと魔法陣のようなものを見つけた。

 そこには沢山の魔導書もある。


「ここはどこだ?なあ、スライムくん。ここがどこから分かるか?」


 現在人のカタチの俺の頭の上にいるスライムに訊く。

 まあ、スライムくんが分からないことは承知だから暇つぶしだけどな。


 しかしスライムくんは、擬態と行動で俺に何かを示している?


 深い淵、迷う様子、宮殿、そして最後は龍のふり。ドラゴンじゃないぞ、龍だぞ。

 深い淵、迷う、宮殿、龍。

 深い淵、迷、宮殿、龍。


 考えているとスライムくんがもう一つ動作をした。

 あ、コイツ忘れてたな。


 王冠とひげを付けた人だ。矢印で上を指している。王だろうな。矢印で指した『上』は位が上だと言いたいんだろう、と思う。


 ···············深淵ふかいふちまよう、宮殿、龍、王···············


 !!!!!


 俺は思いついた。


「そうか、深淵迷宮!」


 あとの龍王っていうのはなんの関係があるのかは予想が容易いな。

 ここは龍王の深淵迷宮なんだな。

 この深淵が何だかわからないから放っておこう。

 いつかわかる日が来るだろ。

 ············というか、何故お前が知っているんだよ!!何者だ?スライムくんよ。


「竜王の深淵迷宮だって言ってたけど、出れないのか?」


 俺の頭の上に登っているスライムに訊く。


 スライムなのに首──ってどこにあるんだよ!?──を横に振る。

 上手いことができるよな。


 じゃあ、歩こう。

 別にそんなに困っている訳でも無ければ、急いでいる訳でもない。

 食事は魔物でも食べていよう。

 この一週間もそうしてきた。

 ここにはヒトに近い味覚を持った俺でも旨いと感じられる魔物が多いから食糧の宝と言っても過言じゃァァァァァないッ!!

 おふざけはここまでにしようか。


 実際、魔物を狩っているのは俺じゃなく、このスライムくんだからな。

 俺は落ちている石で加勢する程度しかできない。

 たまに暇になれば、食後の運動としてスライムに擬態し、周りの草を根こそぎ食べていくっていう謎の行動をしているが、暇だし楽しいしいいじゃないか!


「なあ、スライムくん、俺たちが食べていた草って結局何だったんだ?」


 俺はスライムくんのマネをして始めたんだからあまり意味について考えていなかった。

 でもやっぱり、スライムくんは喋れないよなあ。

 これは考えてなかった·········。


 歩いていると、やっぱり魔物遭遇するんだよな。

 ってことで、


「今日も食糧宜しくな、スライムくん」


 頭の上に乗っていたスライムくんが前に出ていった。


 今まで見たことがあるスライムくんの能力、それは、

 一つ目、ユニークスキル〈乱獲〉。

 二つ目、ユニークスキル〈貫通必至〉。

 三つ目、ユニークスキル〈呪与エンチャントの焔フレア

 四つ目、ユニークスキル〈焔の吐息フレアブレス

 そして最後、エクストラスキル〈頂点君臨〉の四つだ。


 なぜ、能力名が分かっているのか?

 分からねえよそんなことは。

 何かいつの間にか知っていたというべきか?

 多分、他のスキル使ってるんだろうけど、俺が分からないのでカウントはしない事にする。


 俺は自分がどんなスキルを覚えているかは、ほとんど知らない。

 スキル〈擬態〉はスライム可愛いと思ったらできるようになってたという超カオスな入手方法だったのだ。


 今回出てきたのは魔獣──魔物の中でも動物で智慧ちえのないもの──だったので、美味しくなる頂ける。

 スライムくんが即行討伐してくれたので、俺はただ見ているだけだった。


「最近居た堪れないんだよな·········。よし解体頑張っていこう」


 せっせと解体を進めていく。

 最初は魔物──主に魔獣──を解体することに抵抗があったが、それでも前世程ではなかった。

 それに、今はほとんど抵抗なくできている。


『ユニークスキル〈融合・分解〉を会得しました』


 え······?これっていわゆる天の声ってやつなのか?

 俺の頭の中だけに聞こえてるって事だよな?


『そういうことです』


 げ!思考を読まれた!?


『思考の読解を行っています』


 コイツもしかして結構たちが悪い系のやつか!


『··············』


 沈黙ですか、そうですか、分かりましたよ。

 もう放っておいて肉食べよう、肉。


 解体したイノシシを、焼く。

 倒した魔獣の皮で編んだ鞄に乾いた枝を貯蓄してあるから、そこにスライムくんが焔の吐息フレアブレスで火をつけてくれる。

 なぜスライムなのに炎系のスキルを持っているかは不思議で仕方がない。

 だが、知る術もないし、考えない方が楽だし考えないでいようと思っているのだ。


「あ。スライムくん、その肉はまだ半生だよ。ちゃんと焼かなきゃ腹壊すぞ」


 言葉も理解してるみたいだ。

 というかスライムに腹という概念があるかどうか怪しいけどそれでも万が一、億が一にでも腹を壊したとなると対処が分からないからな。

 知らない事は注意に注意を重ねても無駄じゃないんだ!


 魔物も多いし、綺麗な湖もある。

 木も生えてるこの迷宮って一体何なんだろうか?

 お腹も膨れところで横になる。

 スライムくんは溶けたようになっている。

 溶けてはいないけど。


「あんまり気にしてなかったけど、俺ってもう、人間じゃないのかな?」


 ふと疑問が湧いてくる。

 気にする


 今日はここで寝るとしようか。

 明日には何か見つかるといいな。


 こんな広いし綺麗なところだけど、一週間以上も居れば流石に陽の光が恋しくなっってくる頃だから。

 だから、早く外に出たい。


 ············言っておくけど陽の光を浴びてなくても病んだりはして無いからな!!


 さて、お浚いをしようか。

 これからやらなければいけないこと。

 それはここから出ることだ。

 他にも気になることが沢山あるからな。解決していこう。


 ここで突然自己紹介です。

 俺の名前は白加茂しらかも沙夜さや。こう言う名前でも男だぞ。

 なんでこういう処に来たかも分からないし、死んだ記憶もない。

 だからといって何かしなきゃという使命に焚かれたわけでもなければ使命を与えられた訳でもない逸れ転生者です。


 ならやることはただ一つ。

 やりたいことをやりたいだけやるのだ!!

 まあ、今は?外に出ることが最優先だけど、気になる俺のについても調べていきたいかな?




 ここからは、後日、俺がこの世界を見て回った感想なんだが、この世界には、スキル 魔法 権能とか、やっぱり異世界らしい世界観だ。

 でも、だからといって、それに頼り切りってわけでもない。

 微量ながらも科学技術の研究に、思想の追求、亜空間の実験などなど努力の塊と言えるものも多い。

 それに、やはり大陸は広いし、すべての国々が陸つなぎなわけでもない。

 龍もいれば、魔王もいるし、勇者もいれば転生者もいる。

 それに賢者に魔女、はたまた吸血姫すら存在していた。

 見放された種族もいれば、差別を受け種族もいる。

 崇められる種族もいれば、絶滅寸前の種族だっている。

 やっぱり人間が一番多いけれど、だからといって他種族が珍しいわけでもない。

 一番の主要エネルギーは魔力だし、そう近代的でもない。

 だけど、近代的でないからこそ眼を見張るものがある。

 まあ、何が言いたいかって言うと、こっちの世界と本質的にはなんら変わらないということだ。

 まあ、そんな世界も面白いかもしれないな。




 生まれて十七年、いつの間にか転生していた俺はこれからどうしていけばいいのだろうか?

 では、ここは一つ願望を。


 ───異世界生活楽しむぞ!!!───


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