四組



「ようこそ四組近畿クラスへ!」


 大阪のかけ声とともにドアをくぐると、夏の眩しい光がみのりの目に飛び込んできた。白む黒板は光に霞み、南向きの窓からは大都会東京のビル群が遠目に見える。その脇に束ねられた淡いエメラルドグリーンのカーテンは、窓から入り込む南風にふわふわと揺れていた。


 そんな四組の教室にいた生徒達は、大阪の明るい声を聞いて一斉にこちらを向く。その数は大阪も含めてたったの七人。東京のあの人口密度の中で暮らしてきた実には、その分教室がとても広く見えた。


「あ、おかえりなさい新原にいばら先生。お迎えに行けなくてすみません」


 そう言って申し訳なさそうな笑顔をみせたのは、四組の担任であり、国語科担当の吉田功太よしだこうたである。専攻は現代文なのだが、この学校は教員が少ないため、二十六才という若さを活かして体育も教えているらしい。

 聞いたところによると、この学校の教員達は専門科目がそれぞれ国数社理英の五教科にあるのだそうだ。しかし、実技教科が専門の教師はいないらしく、特例という形で五教科と実技の兼任が認められているらしい。如何せん生徒が普通の人間ではないので、国からの規制は緩いという話だ。


 そんな国語兼体育教師の功太は、大阪と仲が良いらしい。実を労った功太の言葉に、大阪は少し膨れたように口を尖らせた。


「ヨッシーは別にええって! 実ちゃんの送り迎えは俺がするさかい」


「人を邪魔物扱いしちゃダメなんじゃないかなー大阪くん」


 同じように口をとがらせると、功太は軽く大阪の鼻頭をつついた。


「ふふふ仲ええなぁ」


 そんな二人を見て微笑んだのは、教室の一番前の廊下側に座っていた女子生徒だ。耳の下で二つに束ねられたふわふわの髪は茶色味があり、タレ気味の瞳からは穏やかそうな印象を受ける。


「ほんま兄弟喧嘩みてるみたいやわぁ」


 すると、今度はまた違う方向から女子生徒の声がした。先ほどの子よりも少し低めで落ち着いた声に顔を向ければ、少し太めの眉をさげた女子生徒が微笑んでいる。

 彼女の言葉に視線を向けると大阪は眉をさらに寄せて、「お前が言うと嫌味にしか聞こえんわ」と言葉を吐く。すると、彼女は「嫌やわぁ、褒めてるんやけど」とタレ気味の目を細めて大阪に笑いかけた。


 その声に、実はピンと来るものがあって眉をあげる。先ほどの集会でアナウンスをしていた女子生徒の声が、彼女のものと似ていたのだ。生徒会役員に自己紹介をしてもらった際、東京はあの場にいた七人他にも行事や集会の時に手伝いに入る非常任生徒会役員がいると言っていた。もしかしたら彼女がそのうちの一人なのかもしれない。


 そんなことを考えて、実は教室をぐるりと見渡した。


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