東西


「なぁなぁ俺 みのりちゃんの隣がええ。愛知そこどいてえな」


「俺は別にええけどて······ってお前が動かんかたーけ」


「うるっさいわ! ま、実ちゃんのためならええかな。ってことで東京そこどいてえな。俺そこ座るわ」


(えーっと······)


当たり前のようにで呼び合う彼らの会話に実は静かに苦笑いをした。先程生徒会室にいた全員の自己紹介を聞いたのだが、やはりまだこの現状に慣れていない。


二、三人用の長机が四つ、ロの字型に組まれている生徒会室。その中で、実は黒板側にあった机に東京と二人で座っている。そして他の三つの机にも、それぞれ生徒会役員が二人ずつ腰掛けていた。


そんな中、茶色の瞳を輝かせた大阪が実の隣に座りたがっている、それが今の現状だ。客観的に見れば、実はなかなか希少レアな体験をしているはずなのだ。しかしながら、「いいですか? あいつが隣に来ても」なんて言葉を紛れもない自分の故郷から言われてしまったところで、実の目にはただ実習先の生徒と会話をしているようにしか見えない。その曖昧で不思議な感覚に、これは夢ではないかと思い始める自分もいた。


しかしどうやら夢ではないらしい。実の目の前にいる彼らはあまりにも生き生きと動いていた。

それを証明するかのように、席を譲ろうとした東京を押しのけて、大阪が飛び跳ねながら実の隣へ座った。その顔は夢とは思えないほどの輝きに満ちていた。


「愛知も大変だな。毎回あいつが隣の席で······」


東京がそう小さな声で同情した相手は、先程までは大阪の、そして今は東京の隣に座っている愛知と呼ばれた男子生徒だ。あの時ハッキリと見ていなかったのだが、どうやら先程の集会で閉会のあいさつを務めていたのは彼らしい。ハネの少ないストレートな黒髪は深く濃い艶めきを持っている。その黒髪に同調するかのような深い黒の瞳も、窓から差し込む光を受けて清流のように澄んでいた。

そんな彼は、少し釣り気味の眉を軽く寄せると東京の言葉に「まぁね」と答える。


「なんでそうなんねん。俺の隣はいつでも楽しいやろ! そらもう おーるうぇいず ぱーりない やって」


そんな二人の会話に、思いっきり日本語の······それもこってこての関西弁でよく分からない英文を発する大阪に東京が呆れた目を向けた。どうやら彼らはこの生徒会の喧嘩要因らしい。間に挟まれた愛知がまたかといわんばかりに「うるせぇ」と言ってため息をついた。










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