出会い
実がじっと声のする方向を見つめていると、しばらくして丘の稜線から二つの人影が見えてきた。
両手をあわせて相手にすがるような態度を見せているのが宿題を忘れた方の子だろうか。茶色っぽい髪はくせっ毛なのか、毛先があちこちにくるくると跳ねている。背は男子高校生にしては低く、これまた茶色味がかった丸く大きい瞳からはキラキラとした好奇心の強さが見て取れた。
一方呆れたようにため息をつくもう一人の子は跳ねの少ない黒髪の持ち主で、前髪を実から見て右側で左右にわけている。隣の子よりも背は高く、瞳は黒いように見えた。
そちらを凝視していたからか、全体的に茶色っぽい子が直ぐにこちらに気づいたらしい。その明るい光を宿す瞳と、ばっちり目が合ってしまった。
「あ······」
実がそれに気づくのもつかの間、彼はキラキラした目を真っ直ぐこちらに向けた。そして「おお!?」と声を上げると、パッと太陽のような笑顔を浮かべる。
「なんやべっぴんさんおる!」
(べ、べっぴん!? 私が!?)
しかも初対面の高校生からそんな言葉をかけられるとは思わず、実は挨拶することも忘れて顔を赤くした。しかし、元凶である茶色くんは至って楽しそうにニコニコしている。
この時、実はどう返せばよいか分からなかった。もう驚いたやら恥ずかしいやらで全く言葉が出てこない。
すると、茶色くんの横にいたもう一人の男子生徒は実の心境に気がついたらしい。あたふたと突っ立っている実を同情まじりの目で見つめると、茶色くんに向かって眉を寄せた。
「お前そんなこと言うから軽いやつだと思われんねん······ってすみません、連れがいきなり。この学校に用ですか?」
あきれたように茶色くんを注意すると、背の高い彼は優しそうな笑顔で問いかけてきた。そのいかにも仕事ができそうな丁寧な言葉に、実はやっと冷静さを取り戻す。
「は、初めまして! 今日からこの学校にお邪魔させて頂きます! 教育実習生の
勢い任せに挨拶をすると、実は下げた頭を再び持ち上げた。すると、キラキラと輝く茶色い瞳とまたもや視線が合ってしまう。
「え!? 教育実習生!? 知らんかったわ!」
「お前先に挨拶せぇや」
「しゃーないやん、感動してもうたんやもん。俺は素直な子やからな」
「単純バカなだけやろ」
「誰が単純バカやねん。わざわざ悪い方に言い直さんでええわ」
「ええっと······」
気持ちが良いほどのリズムでぽんぽんと会話を弾ませる二人に、実は完全に置いていかれてしまった。その響きはまるでポップコーンだ。そのキャッチボールのような会話には、実が口を挟む隙などない。そんなこんなで実はまたもやあたふたしてしまう。
あぁ、どうやってこの会話に入れば良いのだろう。生憎、実にはその豪速球のキャッチボールに入り込めるほどの度胸はなかった。
「あれ? もしかして
急に聞こえた低い声に実は肩を震わせる。そして反射的に首を捻ると、声が聞こえた方へと振り返った。
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