番外編
1『夢の中で』(完)
1.違和感
(何かが違う)
朝起きて一番、そう感じた。気のせいかもしれないし、そうではないかもしれない。
(まあ考えていても仕方がない)
そう思って僕は階段を降りた。
「おはよう」
と姉ちゃんが言った。
「おはよう」
と僕も返す。これから僕は学校に行く。帰ってきたら脳内世界に入って神から依頼をもらってそれを姉ちゃんや弥生とこなすのだろう。
(きっと強い脳獣をあてがわれて簡単には勝てないだろうけど、No.1がいれば問題ないだろう)
僕は思った。でも...
いつもと変わらないはずの日常に僕は何故か違和感を覚えた。
2.一体感
「こいつ強すぎ!」
僕は叫ぶ。それを聞いたアヤは
「
と叫んだ。
(まあね、予想はしていたけどここまでとは...)
相手はレベル十の脳獣。『火山の脳獣』『ケール』当然のように強い。
「でも弱ってる。もう少しだよ!」
そう言ったのは姉ちゃんだ。
僕は剣を逆手に持ち、いつものように構える。
「『想像創造:改』伸びろっ!」
伸びた刀身がケールに迫る。
「姉ちゃん、一緒に!」
3.既視感
「お疲れー」
姉ちゃんが言った。
「お疲れ様です。さすがユイさんですね」
「いやいや、私なんて...。二人が頑張ったからだよ」
「
「うーん、そっかな〜?二人も十分強いけどね」
楽しそうに話す二人。その少し遠くで、僕は考えて...否、悩んでいた。
(ケーナ?ケーナ...戦ったのは、今日が初めてじゃない気がする...)
「どうしたの岳流?」
と、姉ちゃんが寄ってきて聞いてくる。
「いや、なんというか、今のケーナって脳獣に既視感があったんだよ。でも、気のせいかもね」
「うーん、どうだろう。私は初めて戦ったけどなー。あれくらい強い敵はいっぱいいるから、それと間違えたんじゃないかなぁ?」
「そっか、そうかもね。ありがとう。じゃあ、帰ろっか」
「うん。ユイより申請,強制退場,第100階,円形闘技場」
でも、モヤモヤとした気持ちは消えなかった。
4.危機感
翌日
ピンポーン
とチャイムがなった。
「はーい」
扉を開けたらそこには少年がいた。
「佐々木岳流。12歳。中学一年生。こんにちは」
「...こんにちは?」
よく分からないがとりあえず返す。
「これはあなたの望んだこと。これはあなたへのチャンス。これは脱することのできないあなたの世界。あなたはこの世界で生きていけばいいのです」
またよく分からないことを言う。僕が何を望んだというのだ。
「弥生と姉ちゃんと学校のみんながいて、充実した日々じゃないか」
「知らなくていいこともこの世には存在する。私はあなたにこの世界が始まった事を教えたかった。それだけ、もう会うこともないでしょう。さようなら」
と少年が帰ろうとする。
「あ、ちょっと待って。君は一体誰なんだよ?」
少年は足を止めて僕を見る。
「私は、何者でもない。あなたと同じ。ただ、この世界で一番、この世界のことを知っている。しょうがない。あなたにヒントをあげる。馬場国重をたずねることを推奨する。あなたに残された、最後の活路。他に言うことはない。私のことは忘れていい。さようなら」
少年の背中を見て、自分が巻き込まれたことへの危機感を覚えた。
5.親近感
後日
『馬場』
と書かれた表札を前にして僕は立ち止る。
「大豪邸じゃんかよ...」
ピンポーン
恐る恐るインターホンを押す。出てきたのは初老の男性。
「お客様ですかな?連絡は入れてございますか?」
「あーっと、アポ無しなんだけど...」
「左様ですか。旦那様に連絡をして参ります」
「あ、あのちょっとその前にいいですか?」
「...?なんでしょう?」
「ここは、馬場国重さんのお宅ですよね?」
「はい。左様でございます。旦那様の許可をいただき次第中へお連れいたしますので、今しばらくお待ちください」
数分後
「旦那様は一階客間でお待ちです。ご案内いたします」
「...ありがとうございます。でもいいんですか?僕みたいな知らない人が急に会っちゃって、迷惑じゃないですか?」
それに老人は笑って答える。
「いえ、そんなことはございません。旦那様は今とても暇なのです。ですから、あなたは暇潰しの相手に選ばれた。逆にあなたに迷惑がかかっているのでは。と、我々は考えています。ですので、そんなに固くなる必要はございませんよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
その人は、客間のソファーに座っていた。僕を見ると、片手を上げて微笑んだ。
「こんな
「この世界についてお話があって参りました」
「ふむ、この世界ね。近年地球温暖化に拍車がかかっているこの世界かい?それとも、この既視感のある不思議な世界かい?」
(......っ!)
僕はきっと同じ境遇であろうこの人に、親近感が湧いた。
6.使命感
「君なら、この不思議な世界を元に戻すことができるのかな?」
「多分、できます」
僕には心当たりがあった。僕をここへ導いたあの少年だ。
「ほう、自信があるみたいだね。任せてもいいかな?」
「はい、ですがあなたにもご協力いただきたいです。国重氏」
「私にできることならなんだってしよう。変わった世界で、それを知っているのは私たちだけ。昔忘れてしまった冒険心というか、ファンタジーに憧れる心というか、そういう類のものを思い出した気がするよ」
彼は嬉しそうに口元にしわを寄せた。
一方僕の心は、世界を正すという使命感で燃えていた。
「頑張りましょう。お互いに。まずは、他にも僕らみたいな人がいないか調べてもらえますか?二人いるなら、三人いるかもしれませんし」
あの少年の話を踏まえるのなら僕ら二人である可能性が高いが、一番近い彼の元へ行けと言っただけ。つまり、遠くに行けば他にもいる可能性がある。それを調べるなら、僕より国重氏の方が適役だろう。
(何がおかしいのか分からないが、何かがおかしいこの世界。何がなんでも絶対に元に戻してやる)
そう誓った。
7.焦燥感
とはいえ、何をしたらいいのかさっぱりだ。情報収集は国重氏に任せるとして、僕は脳戦士として、その点から攻めよう。
だって、この世の全ての不思議な出来事には、脳獣が関わっているから。
翌日
僕はベッドに寝転がり考えた。
(何しようか...)
まだ予定は決まらない。
翌日
僕は授業を受けながら考えた。
(どうしよう...)
まだ仕事はない。
翌日
以下略
三日後
僕は今までにないほどの焦燥感に駆られていた。
(マジでどうしよう...)
まだ打開策はない。
翌日
国重氏から連絡がきた。
国重氏に頼り切りの一週間だった。
「国重氏!」
先日の老執事の案内で、国重氏と再開する。
「来たね、岳流君。待っていたよ」
そして、世界は動き出す。
8.責任感
「探してみたよ。どうやら他には私たちみたいな人はいないようだね。でも、私の知らない情報が、ネット上に溢れていたよ」
そう言って国重氏は僕にスマホの画面を見せる。
『これ、今噂のタマシイってやつ⁉︎』
『#タマシイ見つけた』
『富山でタマシイ見ました!』
『タマシイin北海道。是非来てください。今ならまだ見られるかも!』
それらの投稿は、みな写真と共にあった。その写真には、どれも黒いもやが写っている。
「タマシイ?」
「うん。最近各地で見られるようになった黒い
「僕もないです。調べてみますね」
「うん、頼むよ。幸い、この近くでもタマシイは目撃されているしね」
「頑張ります!」
「うん。私は君が何者か知らないけど、君にかかっているんだからね。頑張ってくれ」
「…はい」
国重氏のその言葉は、重く僕の心にのしかかる。そして、僕は自分の責任感を再自覚したのだった。
9.高揚感
日本某所
「さて、調べますか。僕の感じた違和感の正体を知るために」
僕は、目の前の黒い霧『タマシイ』を見ながら、誰にともなく言った。
「てかこいつ、見られる時点で脳獣じゃないんだよな…。弥生なら別だけど、『視覚』持ってない僕や、一般人でも見られるんだからな。まあ、一応やってみるか。クサナギより申請,強制入場,千の塔,100階,円形闘技場」
脳内世界で見た光景に、僕は一瞬目を疑った。
「タマシイがいる…」
現実世界で見える『タマシイ』は脳獣ではない。
しかし、脳内世界に入場できたということは、脳獣である。
それらの状況が導き出す一つの答えは…
「…可視型の脳獣。初めて見た」
僕は、初めて対峙する脳獣に、高揚感を抱いていた。
その時、最早存在すら不明のタマシイが言葉を発した。
やけに機械的な声だった。
「…対象『No.001』の存在を確認。散らばる168の個体の内129を召喚、吸収。上位互換の生成。それらの申請…許可を受信。一体化。バク様の意思に
話しながら霧は広がり、形を変え、姉ちゃんの姿になった。
「No.001の説得に、最も効果があると予想される発言の模索。____岳流!やめてよ!」
姉ちゃんの声で言った。
「ごめん姉ちゃん。嫌だ」
僕は姉ちゃんの姿をした敵に、そう言った。
10.現実感
「『想像創造』『天叢雲剣』」
僕は姉ちゃんに化けたタマシイをすさまじい勢いで切り刻む。
「…身体の損傷87ヶ所を確認。修復のために、37の個体を呼び寄せる。………成功。吸収を開始。同時に、個体No.170、呼称『ババクニシゲ』を召喚。全個体の吸収完了。身体として、呼称『コムラ』を選択」
タマシイはそう言うと行動を起こした。姉ちゃんの体が歪み、かつて会った少年の姿をとる。その隣には、見慣れた老人が…
「国重氏…!」
「よくここまで辿り着いたね」
「え?どういうことですか?なんで国重氏がここに…?」
そんな僕の質問に答えることなく、『小村』を名乗る少年が声を出した。
「今のあなたには二つの選択肢がある」
国重氏も続ける。
「このままこの世界に留まるか」
「元の世界に戻るのか」
「ここは夢の中」
「あなたが苦しむことはない」
「でも夢の外は」
「またあなたを苦しませる」
「夢の中で」
と国重氏は右手を差し出し、
「夢の中で」
と小村少年は左手を差し出し、
「「共に生きていきませんか?」」
その時、忘れていた記憶がフラッシュバックした。
_____姉ちゃんが、死んだ?
「うっ、そんな!」
それを知った途端、僕のいる世界が、急に現実感を失った。
「大丈夫だよ岳流君。苦しむ必要なんてないんだ。苦しむのが嫌ならまた記憶を封じてここに残ればいい。大丈夫。私ならそれができるから、存分に甘えてくれて構わないよ」
その言葉を聞いて、
(ああ、この人は元々こっち側だったのか…)
と思った。脳獣であれ脳戦士であれ、彼は何かしらの形で脳に関わっていて、僕をこうしたのも彼なのだ。
「国重氏」
「なんだい?」
「……ここは、何ですか?」
「こことは、円形闘技場と答えるべきかな?それとも、君が求めている答えは夢の中かな?辛い現実と楽しい悪夢。どっちが好きだい?」
まるでその答えは、初めて会った時の答えを模範しているようだった。
「そうですか…じゃあ、決めました。僕は、たとえ辛くても、夢の外を生きます。辛い現実にも、夢のように楽しいこともあると思いますから」
「そうか。じゃあ止めないよ。小村君、そういうことだから送っていってくれるかい?」
「はい。分かりました」
そう言って小村少年は僕の手を握る。
「それじゃあ、いきます」
「じゃあね、岳流君。おはよう」
11.解放感
「はっ!はぁはぁ…」
目が覚めた。違和感のないいつもの世界。僕は途端に解放感に包まれた。
「夢の中で、生きていこうと思わないか?か。それもそれで幸せだったのかな…」
僕がベッドの上でそう独り言を言っていると、イツキが反応した。
「どんな夢を見てたんだ?」
「一言で言うなら、昔の夢だね。今が全く幸せじゃないわけじゃないけど、僕の中では一番幸せだった時期だね」
「そうか…。それで、その夢にはその脳獣も関わっているのかな?」
「ん?」
「ほら、枕元の…」
僕は脳獣が見えない。でも、感覚でいるかどうかの判断はつく。今、イツキに言われてようやく気がついたが、確かにいる。
「君は?」
「私は、バクの脳獣。先程までの夢は、私の脳力。貴方は幸せを捨てた。何故?何故?」
タマシイの声だ。
「僕は、幸せを捨てたんじゃないよ。未来に待ってる新しい幸せを拾って生きようと思っただけだよ。じゃあイツキ、二度寝する」
「分かった。なるべく早くな」
「うん。クサナギより申請,強制入場,千の塔,100階,円形闘技場」
そうして僕は、二度目の眠りについた。
この数分後、隠れ家にやってきた神が二匹の脳獣を保護することになる。
_________________
時系列:佐々木由祈の死から本編開始までの一年間のどこか
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