第35話『脳戦士たちのお泊まり会に波乱はある』
『コビッド戦におけるクサナギとラップトップの
そして、12月18日、土曜日が始まった。
A.M.6:00
「ふぁー、はぁー」
大きな
僕が目を横にスライドさせると、そこには、No.83脳戦士であるラップトップこと誠太が寝ている。
こいつは、普段うるさいだけに、静かにしているとかわいいものだ。
そう思っていたのだが、誠太は本当に期待を裏切らないやつだ。
「おれは、岳流っちから弥生っちを奪う!」
「シッ」
早朝の部屋に、表を走る車の重い走行音と僕の息が響く。一足遅れて
ドッ
と例えば、人間の足が人間の体にぶつかるような音が聞こえた。
(朝から体を動かさせるなよ。疲れるんだから)
「痛った。おい岳流っち。送るぞ」
彼は声をワントーン低めて言った。
「ごめんなさい、
(僕の土下座って、こんなにも軽いものだったっけ?)
誠太といると調子が狂う。
「てか何で…弥生のこと知ってるんだよ?」
「何故ご存知なのですか?誠太様」
「…何故ご存知なのですか?誠太様」
(めんどくさ…)
「知ってる?
「誰?女優?」
「脳戦士。No.7『
「…で?」
「彼女」
「なら尚のこと弥生に手だしたら、ダメじゃねか」
「そうだね。んでさ、輝羅里って弥生っちと友達だから、それで聞いた」
「そうか。じゃあ、まず四点程訊きたいことがある」
「多いな。まぁ、どうぞ。一つ目は?」
「弥生って友達いたの?」
「そこかよ、いたよ。二つ目」
「スターさんなら、僕も一緒に戦ったことあるけどさ。なんでお前と知り合いなの?」
「いや、そのね。色々あるの。大人の事情ってやつ」
(きた。誠太がたまにやる『大人ぶる行為』)
「んで?
「弥生とスターさんって、どうやって知り合ったんだ?」
「なるほど。『佐々木岳流は、意外と独占欲が強い』っと。よし、覚えた」
「覚えたじゃねぇよ。質問に答えてくれ」
「おれらと大して変わらないぜ。東京の大型書店に行った時に会って、同じ小説が好きで意気投合したんだって」
「なるほど。(スターさんが)東京で、強い脳獣と戦っていた時に、たまたま会って助けてあげたんだと」
「『佐々木岳流は、彼女をかいかぶる癖がある』っと。よし、覚えた。ちなみに、弥生っちは『助けてあげた』んじゃなくて『助けてもらった』な。輝羅里があの程度の相手に遅れをとるわけないし」
「おーけー。『武田誠太は彼女を高評価しがち』っと。よし、覚え…」
「レシート」
「………」
「それで、四つ目は?」
「その輝羅里さんってこの近くに住んでるの?」
「いや、家は東京にあるけど今はあそこにいるよ」
と、彼は窓の外を指さした。その指の先を辿っていくと、そこには弥生の家があって…。
「は⁉︎」
「向こうもお泊まり会だとよ。だから、おれも来たんだけどさ」
同刻、弥生宅
ボフッ。
私の目の前で、脳戦士の友達の
「おー、
「もう、輝羅里はすぐそうやって
「いしし、良いじゃん。今夜は寝ないぞー!」
(え…)
「何?その嫌って顔」
「いや、まさか。そんな顔してないわよ。幸福至極。とっても嬉しいわ」
四字熟語。アメリカから帰ってきて以来、岳流の前ではずっと使っていない。
(あんなこと言われたら、使えるはずないじゃない…)
前に本で彼女にとって一番怖いことは彼氏に嫌われることだと書いてあったけど、今なら肯定できる。
「よーし!じゃあ決まり。やっぱりお泊まり会といえば『恋バナ』でしょ!さあ、吐きなさい。好きな人いないの?」
「え、えっと…」
ベッドから立ち上がった輝羅里が両手をわきわきさせながら近寄ってきた。
数時間後、岳流宅
「ただいま帰りました!」
「……ただいま」
やっと帰ってこれた。
「二人ともおかえりなさ…い」
ユイカが出迎えてくれた。誠太の弾け具合と、僕の疲れ具合を交互に見て、呆然とした。
「そうだ。誠太君と話したいことがあるから私の部屋に来てくれる?岳流は部屋戻ってて」
さすがはユイカだ。気遣いの権化。優しさの最上級。
(頼りにしてます!)
同刻、由祈自室
誠太とユイカが話していた。
先程の僕の胸中を見透かしたうえで、それをわざと裏切るようなことを、話していた。
「誠太君。私は、由祈の双子の姉。ユイカ。知ってるわよね?」
「もちろんですよ」
「『
「…ああ、その話ですか。今は空席です。ただ、また復活させようって話が出てます。誰にするかはまだ決まってませんけど、候補は何人か」
「その中に岳流君は?」
「入ってますよ」
「入ってるの⁉︎」
「はい。彼を推してる人がいましてね。あ、おれじゃないですよ。ただ、岳流っちはみんなに好かれるタイプなんですよ。小さな努力がとても多くの人に評価される。素晴らしいですよ。羨ましい」
「そっか。それを聞けただけで十分だわ。ありがとうね。話に付き合ってくれて」
「いえ。ただおれ、岳流っちにやりたいことがあるんですけど、どうしたらいいですかね?」
「ん?何したいの?私でよければ協力するわ。さっきのお礼」
「ありがとうございます。じゃあ、こういうことなんですけど………」
数分後弥生自室
私が恋愛には興味がないと逃げるから追いかけ続けていた輝羅里だけど、まだその体力は限界でないらしい。
「弥生!夜といえば怖い話大会!やりましょう!」
と言い出した。
「と、突然ね」
「私から!」
「ご、強引ね」
輝羅里が強引なのはいつも通りなのでたいして驚かない。むしろ、学校には友達と呼べる友達がいないので、私と仲良くしてくれる数少ない人である輝羅里は、多少強引でも大切にしなくてはならない。
「でも、怖い話って夏にするものじゃないの?」
「私がね、昔田舎のおばあちゃんちに行った時の話なんだけど」
「あ、続けるのね」
「庭にいたバッタが喋ったの!神に話を聞いたら、昆虫型の脳獣だったんじゃないかって」
「ただの脳獣の事件じゃない…」
私は思ったことをその通りに言った。
「むぅ。じゃあ、弥生は何かあるの?」
彼女は不満そうに頬を膨らませて訊いてきた。
「え、えっと。じゃあ、こんな話をしましょうか。題名は『雪の日に鳴る固定電話』」
と怖くないように微笑みながら言う。しかし、輝羅里がそれを静止した。
「え、やめて。雰囲気が怖い。やっぱりやめよ?」
「え?突然ね…」
「だって弥生の話聞いたら呪われそうなんだもん!」
同刻岳流自室
「さっき、ユイカさんと話してやっぱり言わなきゃなって思った」
誠太が突然そう切り出した。
「ん?」
「岳流っちのお姉さん。『由祈さん』だっけ?」
「うん」
「脳戦士と戦って負けて、死んだんだよな?」
「うん」
「弱くね?」
彼は笑って言った。僕の額がピキッと鳴った。
「貴様、今姉ちゃんのことを馬鹿にしたな?」
「でも、事実だろ?」
「誠太、
(あ、やばい。予想よりも怒らせちゃった)
扉の向こうでこっそり中を伺っていたユイカはそう思った。実際、誠太に姉ちゃんの悪口を言うよう提言したのは彼女である。
[殺す]と言われたら、反応は二つに分かれる。
友人同士のおふざけと受け取り、笑い飛ばすか。
マジで殺しそうだと理解し、
今回は、僕の目があまりにもマジすぎたので、誠太は後者の行動をとった。
「あ、いや。悪かったよ。言いすぎたかも…」
「そっか、でもさ。あやまって済んだら、『中枢都市』に『最高裁判所』はいらないよね?」
「いや、でもさ。俺の
例えば、友人や恋人などと長い間一緒にいると、その人の癖がうつることがある。
具体的には、僕には弥生という彼女がいる。
例えば、弥生は外堀を埋めるのが得意だ。
だから、僕も誠太の外堀を埋めることにした。
「『モードチェンジ』『クラッキング』」
僕は確かめるように言う。その瞬間、誠太の目が僕に怯える弱者から、僕を逆に殺そうとする強者のものに変わった。
「なんだ、知ってたのか」
「君の順位があり得ないほどに上がったのが気になって調べた」
「なるほど」
「君には、僕と
「うーん、なら、仕方ない。戦おうか。でも一つだけ訂正させてくれ。おれらは対等じゃない。おれの方が強いよ」
誠太は笑って言う。
「君を倒して、謝ってもらう」
「大丈夫。負けないからさ…」
「クサナギより申請,強制入場,千の塔,100階,円形闘技場」
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