第30話『想像技法』

 そのまま成り行きで、三人で散歩をすることになった。

 ある程度歩いたところで、バイヤが切り出した。

「時にクサナギ。汝、自分の力に自覚はあるか?」

「自覚?僕の力に?」

 僕は問う。

「うむ、汝が我と戦った時、おりの中にいたアヤを触れる事なくそこから出した」

「覚えていないな…」

 僕は自分のこめかみを押さえて言う。

「無理もない、あの時汝は高揚しておったからの、アヤも気絶していたが故、覚えているのは我一人じゃろう。しかしそれは紛れもない事実じゃ」

「それがどうしたんだ?」

「これは昔、我が初めて脳戦士という存在と対峙した時の話じゃ」


**********


「ヴァンパイヤか…どうする○○○?」

「事情を聞きましょう。どうしたの?」

「我○探○○お○○じゃ。○○の○を」

「へぇー。それで?」

「も○何○○探し○のに○○○○ぬ」

「だからこんな事をしたのか?」

「○にも○せぬ」

 そこで一泊空いて…

「ただ、何か我自身が今、生きている事を実感したかったのかも知れぬ…」

「…なあ、俺と来ないか?名前は?」

「無い…」

「なら…『バイヤ』ヴァンパイヤのバイヤだ!」

「俺は○○○○、脳戦士だ。よろしくな」

「あたしは○○○。よろしくね」

 そして、我と○○○○は所有契約を結んだ。


 それから○○○○は我をバイヤと呼ぶようになった。

 我もそれに慣れていった。

「おはようバイヤ」「元気だったかバイヤ?」「今日も頑張ろうなバイヤ」

「お疲れ様、バイヤ」「バイヤ」「バイヤ」「バイヤ」「バイヤ」「バイヤ」「バイヤ」……


 そして時が流れ、別れの時が来た。

「バ…イヤ…。俺たちの希望をお前に託す」

 そこで一泊空けて○○○○は言った。

「『想像転移そうぞうてんい』」


**********


「『想像転移』?」

「うむ。目を開けたらそこは元いた場所ではなかった。もう名も思い出せぬ彼は我に教えてくれたのじゃ。汝の使う『想像技法そうぞうぎほう』は、他に十一の技があり、それらの総称を『想像技法』という。

 最も初歩的な、物を想像力で創造する『想像創造そうぞうそうぞう

 自らに痛みを与える『想像負荷そうぞうふか

 自らの傷を癒す『想像治癒そうぞうちゆ

 自らの元に対象を呼ぶ『想像召喚そうぞうしょうかん

 選択した座標に対象を飛ばす『想像転移そうぞうてんい

 対象の意識に干渉する『想像干渉そうぞうかんしょう

 自らの力を増加させる『想像強化そうぞうきょうか

 想像力で物を壊す『想像破壊そうぞうはかい

 想像創造した『想像物そうぞうぶつ』を想像力で変形させる『想像創造そうぞうそうぞう:かい

 他人の傷を癒したり破損した物を直す『想像治癒そうぞうちゆ:かい

 他の場所にいる対象を別の場所へ送る『想像転移そうぞうてんい:かい

 存在しない物を想像力で呼び寄せる『想像召喚そうぞうしょうかん:かい

 汝は我との戦いの時点で既に『想像召喚』が使えておった。まぁ、極限状態じゃったから体のリミッターが外れたのも理由やもしれん。こういうのを、日本の言葉で…何じゃったか」

「『火事場の馬鹿力』ね」

 ツキミが答える。バイヤーはそれを聞いて納得したように、続ける。

「汝、倒したい敵がいるのであろう?十二の『想像技法』を思うがままに使えれば、どれほど強い敵ともやりあえるであろう。我が手解きしよう。幸い、彼のことは覚えていないが、彼の編み出した『想像技法』は覚えておる。定期的にここへ来るがいい」

「え…えっと」

 壮大な昔話といい、突然のカミングアウトといい、僕の脳の処理が追いつかない。そんな僕にツキミは助け舟を出してくれた。

「うん、いいんじゃないかしら?」

「…そうだね。僕はもっと強くなる。『想像創造』だけじゃなく、全ての『想像技法』を身につけて、奴を倒すよ」

「決まりじゃな。これからよろしく頼むぞ」

 バイヤが出してきた手を僕は握る。

「ああ」


 翌日、12月14日火曜日。

 僕はだいぶ元気になった。とはいえ昨日まで調子が悪かったので、大事をとって学校は休んだ。少し落ち着いたむねをメールで弥生に話すと、来てくれた。玄関に向かい入れ、それからしばらく雑談をした。弥生が帰ろうとした時、僕は言った。ずっと一人で胸の内に秘め続けていた決意を。

「僕、姉ちゃんの仇を討つ。それでも、姉ちゃんは帰ってこない。だから、僕は姉ちゃんの全てを取り戻す。そのために今はまだNo.8だけど、いつかNo.1になるから」

「うん…頑張って。岳流なら出来るよ。ただ、言いにくいんだけど…岳流の脳戦士ランキング今、No.9だよ。それで私がNo.17」

 昨日といい、今日といい、みんな病人には難しい話をしてくる。

「どういう事?」

「前までランキングが低かったんだけど、上がってきた脳戦士がいるの。『リリカ』という脳名の幼い少女らしいのだけど、どうも運だけで上り詰めたという噂を聞く脳戦士なの。そのリリカがNo.8」

 どうやらNo.1からまた一歩遠ざかったようだ。

「もっと強くならなくちゃね」

「うん…でも大丈夫。僕には心強い仲間がいるから」

「誰のこと?」

 弥生が揶揄からかうような顔で聞いてくる。

「君もそうだし、僕の所有脳獣。君や姉ちゃんの所有脳獣。神に、誠太に、姉ちゃん。それに…僕の契約脳獣達も仲間だって事が分かったから」

「ふふ、それだけいれば安心ね」

 弥生は笑って、玄関から飛び出すと、軽い足取りで帰っていった。

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